TSしたら美少女だった件~百合ルートしか道はない~

シフォン

「お前アイツの親戚かよ………」後編

あれから数分が経過した。
あれ、という言葉を使うと何かとんでもないことが起きたように聞こえるが、別に何か起きたわけじゃない。
ただ檜山が自分の甥っ子の入部届けをさっくりと受理してきた、という事実以外に何も起きていない。
だがしかし。

「と、いうわけでウチの甥っ子の面倒を見てくれや、部長さんよ」
「お前の魂胆は………お見通しだぁ!と言いたいけれどこの前の恨みがあるんで普通にお断りです」

特に何も起きていないはずなのに、今日の文ゲー部は荒れている。
つまり何も起きていないというのは幻想で、現実は何か起きちゃってるってことさ。
理由はまぁ、見た通り。
檜山が部長に自分の甥っ子たる薫(ややこしいので脳内でのみ名前呼びにした)の面倒を見させようと交渉しているからだ。
チクショウ、この唯一の安息の地であり最後の安全地帯たる部室ですらトラブルの魔の手にかかってしまったというのか………!
え?大徳寺ちゃん?ナンノコトカナー
というかアレは流石に例外だって。俺の言うトラブルってのはただ、俺が原因になっているあるいは俺に関係するトラブルのことだからさ。
つまり大徳寺ちゃんの件は100%部長が悪いから問題外なのさ。ついでに今回の件も。
いや、そんなことを言っても気休めにしかならないけどさ。

でも少し恨み言を言わせてほしい。
なんだよ、家ですらドアが破られた件のせいで安息の地ではなくなってしまってるからここが最後の安全地帯だってのに、なんでだよ。
俺には休む暇すら与えねぇつもりかよ!ふざけんな!いくら俺でも精神が持たん!
肉体はオートカウンターでどうにか出来ても、精神面はどうにもなんねぇのに。
正直天を恨みたい気分だよ。神は常に恨んでるからとりあえず似て非なる存在っぽい天を。
………さて、一通り恨み言も言ったし、もうそろそろ目の前の光景に意識を向けよう。

「チッ………まぁいい、そう言うと思ってこれを持ってきてるんだが………」

檜山は、不意に部長に1つのICレコーダーを取り出した。
そこからは………少し遠くて聞こえにくいが、部長の声………

「これはお前の………」

檜山はそこから部長に囁くようにして交渉を続けた。
ハッキリ言って傍から見れば裏取引でもしてるんじゃないかってくらいに黒いオーラが漂ってる。
例を挙げて言うなら、そう、ゴ〇ゴと依頼人が話しているかのような………
というかこれ本当に生徒と教師の交渉だよな?実は二人とも裏社会を牛耳るマフィアのボスでしたなんてことはないよな?
気迫がおかしいわ。

「良いか、これを出すとこに出せばお前の人生は終わりだぜ?良いのか~?俺には想像もできんような酷いことになるのは目に見えてるぜ~」
「くっ………卑怯な、卑怯だぞ檜山ァ!」

あと話だけ聞いてるとどこぞのドラマみたいに聞こえちまうんだよな。この二人の交渉。
できるものならさっさとステルスしてことが片付くまで待ちたいところだよ、まったく。
だがしかしこの流れになっているという事は恐らくなんらかの要因によってりふじんに俺へ飛び火してもおかしくはないということで………

「それならこっちにも考えがある………多数決で決めよう。それなら僕も安心してこの部文ゲー部の総意だと言えるからね。正真正銘の最終決戦ってことだ」

………ほら、飛び火の予感。いっそカウントダウンでもしようか?俺へ飛び火して巻き込まれる、あるいは死刑執行までの猶予時間を。
それじゃ行くよー。
10、9、8………

「良いだろう、だがここに居るのは6人だ。多数決にならないぞ?」

檜山がそう言うが、そこで後輩ちゃんが俺に話を振ってきた。

「でしたら私の分は票は先輩に委任しちゃいます。これで良いですよね?」

………ウソダドンドコドーン!もとい嘘だろ後輩ちゃん!
まさか後輩ちゃんによって飛び火の威力が上がるなんて!
想定外にもほどがあるんだぜ………

「それで良いな?檜山」
「良いだろう………よしお前らぁ!ウチの甥っ子を入部させていいと思う奴、手を挙げろ!」

………かくして、俺の心情を一切考えないままに、文ゲー部創部以来初めての総選挙(ただし俺だけ2票)が始まるのであった。

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