TSしたら美少女だった件~百合ルートしか道はない~

シフォン

「これは………難題だ………」

調理完了………で、良いのだろうか。
親父の指示通り料理を作ると、なにやら怪しい香りのする料理が出来上がった。
一応親父に味見を勧めてみたが自然な流れで回避されたし………まったく、本当に何があるのか分からない料理が出来ちまったぜ。
これはもう、親父が食って安全が確認されるまで食わないでいた方が安全だな。
ここ7日間の激動の日々が俺を用心深い性格に変えたのだ。
これまでの俺とは違うのだ!………多分、きっとな。

そういう訳だから、この食事はいかにしてこの料理を回避して食うかが大事になってくるのさ。
だから、そのために出来る限りのセッティングをしておこうと思う。
まず配膳の際には出来うる限り俺の席から離しておくのは序の口、その手前に服に付着したら大変なことになる要素のある料理を置いておくんだ。
それにより、俺がその料理を取ろうとする際に不可抗力(自作自演)的に服に汁が付着、『あっやべ………』という流れで自然に退室できるのだ。服を替えるという大義名分でな。
素晴らしいだろう?この作戦は。
実をいうと元々は随分前に亮太の側にあった料理を取ろうとしてうっかり袖口に汁が付いただけの失敗なんだけどな。
しかし、そんな原点があってもこの方法は優秀だ。失敗は成功の母という言葉が真実のように聞こえるほど、優秀なのだ。
まずこれなら大抵の場合において逃げの一手として使えるし、なおかつ怪しまれにくい。
まぁ最初から逃げるようなそぶりを見せていたらバレるだろうが、そこは俺自身が気を付けることで対応すればいいだけの話だ。

………俺はとりあえず、作戦のことを考えつつ自然な振る舞いをして全員を欺くことにした。
何事も最初が大事なんだ。そう、最初が大事なんだ。
だから何があっても俺は動じない。たとえ後輩ちゃんが目の前で転びそうになっていても決して動じず、ただそっと後ろから引っ張って転ばないようにするだけで済ませる。

「あ、ありがとうございます先輩………」
「どういたしまして」

しかしなんかこの反応もどこか不自然な気がするんだよな………いや、そもそも誰かを騙そうとするってことそのものが俺としては不自然な物なんだろうがな。
まぁ、こうなりゃ不自然さを気にせずゴリ押しでどうにかしてしまうってのもアリなんだろうがな。
だが騙しきった方が楽な事には変わりないんだが。
だってゴリ押しは凄く疲れてしまう………主に相手の発言すべてに被せていく形でなんらかのコメントを挟んで会話を自然に妨害すると言う名の作業とか作業とか作業とか………からな。

そういうことだから、今回俺は全員を騙しきって自然に逃げ切るのさ。自らの安全と危機回避(二重表現)のためにな!
俺は、心中で決意を固めつつも慎重に皿を運ぶ。
具体的には母さんの席、つまりは俺から一番遠い席に親父が作った怪しい………まだ怪しいと確定しちゃいないが、とりあえず材料的に怪しい………料理をセットする。
それにより母さんは自然な流れで行けば最初に親父の作った怪しい料理を食うことになるだろう。
すまんな母さん、生け贄になってくれやがれ。俺は怪しいものを食いたくないんだ。
もうなんというかゲスいとしか言いようのない思考を回しつつ次々と配膳し、いかにして自分から怪しい料理を俺以外の奴に押し付けるかだけを考えて並べていく。
ついでに言うと、俺がいつも座っている席の近くにも怪しまれないよう、親父の作った料理………でもそれほど怪しくはないもの、を置いておく。
嘘の中に真実を混ぜておくと信じてもらいやすいように、親父の料理どくを自らの近くに置くことで何もないように見せかけるのだ。
………しかし、その少し手前に汁物を置いておくのは忘れない。念は入れるに越したことは無いからな。
今の俺は、とてもとても用心深いのだ。

「あ、先輩、私はどこに座れば良いですかね」

………おっと。
そういえば後輩ちゃんの席をどこにするのか考えてなかったな。
正直完全に失念していた。ステラの場合は基本食事を必要としない生物だし、そもそも後輩ちゃんがウチに泊まることになるなんて想定してなかったから当然だけど………さてどうしよう。
後輩ちゃんの分のイスは意外にも数脚ほどの組み立て式のイスがあるようだからどうにでもなるけど、それをどこに置くかは悩ましいところだ。
机の構造的に狭い方の一辺に配置することになるけどその位置次第では後輩ちゃんが真っ先にあの料理の餌食になりかねないぞ。

どうする………後輩ちゃんを重く見るかそれとも親父の作った料理の危険性を重く見るか………
俺は途方に暮れてしまうのであった。

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