TSしたら美少女だった件~百合ルートしか道はない~

シフォン

番外編:「クリスマスでサンタをするにはちょっと美少女過ぎた件(真剣)」

クリスマス、といえば何を連想するだろうか。俺が連想するのは………ミニスカサンタ、だ。
健全な男子高校生であればちょっとくらい思考に入って来ると思う、クリスマスのロマン。
俺としてもちょっと後輩ちゃんに着てほしいなとか思ったことも一度や二度どころじゃないね。特にクリスマス当日である今日はさ。
………でも、その夢も今日叶ったんだ。後輩ちゃんにミニスカサンタをしてもらうというそのロマンは。でも夢を叶えるためのコストはちょっと大きかったな。
なにせ、このミニスカサンタ衣装を借りた服屋のおっさんから出された条件の中に、俺もそれを着て近所の商店街のクリスマスイベントの宣伝をする、というものがあるのだ。
正直言って男のミニスカサンタとか誰得感満載だが、よく考えりゃ今の俺は自分で言うのも難だがハッキリ言っても言わずとも美少女である。
確かに美少女二人(ここ重要)にミニスカサンタで宣伝させたらものすごく目立つし、何より宣伝効果は抜群だろうよ。
だが服屋のおっさん、俺はあんたを恨むぞ。具体的には宣伝の時意図的に服屋以外の店に誘導しちゃうぞ。
それによりクリスマスイベントの効果は多少なれど薄れ、いつものクリスマスよりも人の少ない夜を過ごさせてやるのだ。恐れ入ったか、服屋のおっさん。

しかし、そのささやかな復讐のためにはちゃんとお客さんを呼び込んだ上で服屋以外に誘導する必要があるんだな。
だから俺は、そのささやかな復讐のためにプライドを捨てるぞ!
媚びっ媚びに媚びまくって客を呼び込み、そして服屋だけ客が少ないという状況を作り上げてやるのだ!はーっはっはっはっは!
「先輩、そういえば何故今年に限ってこんなことしてるんですか?」
………うげ、まずい俺の目的に気付かれたか。
まぁすでに何枚か写真も撮ったし、記憶に収めたから一応満足してるんだけどさ………ここでバレたくはない。
いくら彼氏彼女の関係性とは言っても、多少なれど引かれる可能性もあるし、何よりこういうのはこっそり考えるからこそのものなのだ。
だがしかしなぁ、後輩ちゃんの場合むしろそこからノリノリで撮られてくれそうだけどさ。
「あれですか、私のこの姿を見たかったんですか。言ってくれればいつでも着てあげましたのに」
しかも物凄く予想通りの解答が来ちゃった!?
だけどそ言ってくれちゃうのが後輩ちゃんの良いところだし、というか足が綺麗な後輩ちゃんがミニスカサンタを着ると映えるよやっぱ。
その点俺は………うん、よく考えりゃ元々それほど身長が高くないのもあってあまり見栄えは良くないだろうな。鏡なんて見ちゃいないがそれほど似合いはしないだろうよ。
そもそも男がミニスカサンタとか誰得………(ループ開始)

―――――

なんだか色々と端折られてしまった気がするが、ここで特に意味もなくミニスカサンタの恰好をしてやる仕事の内容を教えよう。
まず客集め。そして次に店番(臨時)。以上である。
この仕事は見た目はそこそこに派手だけども内容はそれほどではない、というのが特徴なのだ。微妙だろう?
ただ、それでもこの格好をしているとたくさんの人間が近寄ってくるんだな。目立つし何より後輩ちゃんが可愛いから悪い虫(あの腐れ神様が関係ないのに悪く言うのも気が引けるが)もだ。
だからこそ………ちょっと事案モノ、いや場合に寄っちゃ普通に犯罪モノな事件も起きるわけなんだよ。
「300円のお返しになりまーす」
お釣りを渡すとき転んだフリをして倒れ込んでくるアホとか。
お釣りを渡すときにやたらベタベタと手に触れてくるアホとか。
お釣りを渡すときなぜか一枚一枚取っていく奴とか(こればかりはお年寄りも居るので一概にアホとも言えない)。
まぁ今ちょうど店番の時間だからお釣りを渡すときシリーズになったわけなんだがそれだけじゃないんだ。
特に、超ド級のバカ野郎なんかは………ここをナンパに使ったりもするわけで。
「ねぇキミ、今度お茶にでも………」
「気持ち悪いんだよこのブサイクが。ナンパやるんだったらここじゃないどっかでナンパ待ちの奴でも探してやれ」
しかし幸運なことに狙われてしまうのは俺だけなのでこうして追い払えているわけだが………
正直なところ、何故かさっきからこのナンパクソ野郎どもが押し掛けてくる量が加速度的に増えていってるから迷惑極まりない。
最初はたまたま来た奴を適当にあしらっただけだった。
で、さらに来たからウザすぎて睨みつけながら追い払った。
そしたら来るペースが上がって、俺も遠慮がなくなっていって………気付けば合計人数は20どころじゃ利かなくなってきてる。
どうしてだ。どうしてなんだ………何故人を追い払えば追い払うほど増えていくんだ、ナンパクソ野郎!ホントにクソ野郎が!俺を休ませてくれよ頼むから!
「あ、あの………」
「なんだ?」
「いや、なにやらあなたがナンパ男を追い払った時の台詞がすごくグッときてイイって噂で来たんですけど………」
ちょっと待て、誰だそれを広めたのは。
俺の台詞?いやいやいや、男の罵倒がそんなに気持ちよかった?え?
マジで変態か。救えないなアーメン。そして地に還れ。
「で、このお店のブログで宣伝されてるってことは本人も楽しんでるのかなと思ったんですけど………違うんですか?」
………あのクソ店主(ケーキ屋)が犯人かぁ!

―――――

「ねぇ店主さぁん………?何をどうしたら俺が罵倒サービス中の店員になっちゃうのかなぁ?え?」
「それは………」
「ボーナス、出るんだよな?」
店の裏にて。
俺は店主に壁ドンを仕掛けていた。もちろんラブコメ的なそれではなく、不良同士のケンカである方のそれを。
理由はお分かりいただけるだろう。
………俺が罵倒サービス中の店員ってことになってたんだよ。しかも俺に内緒で。
いやー、現代社会って怖いよなー、本人の知らぬ間に変な噂がバラ撒かれちゃうんだもんなー。
いや、俺だってこんなことは予想していたよ。しかしそれをやるのがあの服屋のおっさんではなく、ケーキ屋店主だとはねぇ。
驚きだわー。驚き過ぎて、さっき偶然見付けた『紳士的な方々警察』の方々を出動させられるような一言を発しちゃいそうだわー。
とりあえず、何か叫ぶようなしぐさをして店主を脅迫する。
「そうだなー、俺ってこう見えて筋を通してくれる人は大好きでさー。誠意・・を見せてくれるなら、大抵の事には目を瞑ってあげられそうなんだよねー。まぁ独り言だけど」
余談ではあるが、ここであまり露骨に金を要求したりすると脅迫罪に問われるから注意が必要だ。
あくまで誠意であればあとで『誠意を見せてとはいったが金を寄越せとは言ってない』でどうにかなっちゃうんだ。これ豆知識。
「………分かった」
よっしゃ。ボーナスゲットだぜ。
これで俺のへそくりが増える………実は家計をチマチマ節約して貯めても居るから6ケタあるんだよな。いまだ使ったことないけど。
「あと後輩ちゃんにこれやったら全力で拡散してやる」
そして今のうちに釘を刺しておいて、俺は店の裏から退散するのであった。
………関係のない話だが、この店の裏口のドアは一度締めると開きにくくなるという特徴があったりする。いわゆる経年劣化だが、これが意外と開かないんだよな。もう裏口から入った俺には関係のない話なんだけどな。

―――――

「ねえ先輩」
仕事が一段落し、あと少しでバイトも終わりだというときに後輩ちゃんが話しかけてきた。
「なんだね後輩ちゃん」
「さっき店長が裏口のドアを壊してましたけど、どうかしたんでしょうかね」
「………さあね、俺は知らんよ」
この時に『店主め、開けられなくてとうとう壊しやがったか』と思ったのは俺だけの秘密である。

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