ブラックリストハンター ~異世界ルールで警察はじめました~

チョーカー

不死身の死 完

 ユウトの攻撃は一瞬だった。
 手刀が神の胸を貫き、背中から飛び出している。
 しかし―――

 「神殺しには、まだ遠いわい」

 神は笑った。
 その笑顔は俗世にまみれた人間的であり、
 それと同時に穢れを知らない無辜のようであり、
 矛盾を孕んだ笑顔だった。

 だが、その笑みが曇る。

 「こ、これは……肉体が同化しているじゃと!」

 ユウトの腕と神の胸。その境界は消え失せ、始めからそうであったかのように一体化していた。

 「浸蝕?いや、これは神霊医術!信じられぬ。なぜ聖職者でもない貴様が!?」
 「譲り受けたのさ。お前を滅ぼすためだけに、命と引き換えに私に託した者がいる」
 「馬鹿な、使徒にそのような背徳者がいるなどと!戯言と!貴様!ワシと一体化してどうするつもりじゃ!神に取って変わるつもりか!」

 ユウトは「まさか、お前じゃあるまいし……ただ、俺の世代で終わらせるのさ転生という歪んだシステムを」と笑みを零した。

 「我が友からお前宛に真の遺言を預かってきた。

 『人の運命を弄ぶ者が神であろうはずがない。例え事実、神であろうと邪神に違いない。ならば命と引き換えに我が信仰が貴様を滅するであろう』

 覚えてから逝け、我が友であり、お前を滅ぼすのに命を賭けた男 カーム・アウラーの名を!」


 それだけだった。
 神の断末魔もなく、けたたましい破壊音もなく、ただ静かに―――
 全てが終わった。

 「過去の偉人が転生魔法のシステムに組み込んだ人格か、転生魔法に自我が芽生えた存在だったのか、あるいは本当に超常的な存在だったのか……」

 ユウトは喋るのを途中で止めた。
 顔にひびが入り、体の崩壊が始まったのだ。

 「やはり、人間の体に―――いや、霊体に封じるのは無理があるか。ならば、私が滅びる前に――――」

 ユウトは魔力の放出を始める。
 地面に魔法陣が浮かび上がる。 
 1度目の転生で見た魔法陣。今の知性と魔力なら再現そのものは容易い。
 だが、それだけでは終わらない。 魔法陣が二重にブレる。
 転生の魔法陣から浮かび上がった魔法陣は―――
 召喚の魔法陣。

 2つの魔法陣を同時に起動する事によって、ユウトは人間に戻る。
 『不死身』でも『英雄』でも、まして『神』でもなく―――

 伏美優斗

 それが転生前のユウトの名前である。
 そして、これこそが―――転生前の生活に戻る事こそ、この殺人事件の動機であり、
 被害者であるはずのユウトこそ、この殺人事件を計画した黒幕であり、
 そして、やはり―――
 偉業を成し遂げた『英雄』であった。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 「はい、これが事件の全貌でした」

 メギ署の署長室。
 普段は使われる事のないリョウマの仕事部屋。
 開かずの間は開かれ、リョウマは設置されている電話を使っていた。
 話相手は誰だろうか? リョウマの話し方から上の人間なのだろう。
 リョウマは事件の内容を報告すると電話を切った。
 そのまま、椅子に座り、全身を脱力させる。
 机に置かれた写真を手に取り、しげしげと見つめる。
 写真には男が写っている。
 小太りで、メガネをかけた長髪の男。
 冴えない感じの男だが―――この男こそ、伏美優斗。
 ユウトの前世の姿であり、それと同時に現在の姿でもある。

 ―――あの後。

 伏美優斗が自宅への帰宅が確認された。
 20年ほど前にトラックに轢かれ死亡。当然ながら、遺体も埋葬済みなのだが―――
 それでも彼は帰ってきた。 
 どんな方法で? 文字通り、どんな魔法を使ったのか?
 詳しくは彼本人に聞かなければならない。
 しかし、それ以上にリョウマを悩ませるのは彼の罪状だった。
 ここまでの事を仕出かして、無罪とはいかないだろう。
 様々な罪状を思いつく事はできるが―――
 それは、戸籍的に死者である彼に適応されるのだろうか?
 伏美優斗と『不死身』のユウトは、法律的に同一人物として裁けるのだろうか?

 前途多難であるが、この事件は既にリョウマの手を離れている。

 もう自身が考えるべき仕事は終わったのだ。
 そう思う事して、リョウマはため息をついた。

 

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