ブラックリストハンター ~異世界ルールで警察はじめました~

チョーカー

扉と笑みと……

 (これは……扉?)

 薄れていく意識の中、スタンは扉を見た。
 ゆっくりと自分に近づいていく扉。決して開く事のない扉だ。
 しかし、彼は否定する。

 (いや、違う。これは扉じゃない。これは……ただの地面だ)

 いつだろうか?自分が初めて、これを見たのは?
 これはダウンした時、よく見る光景だった。

 スタンは考える。

 きっと、人間の記憶は非常に曖昧なのだろう。
 自分が初めて戦いに負けて失神した時、地面に描かれていた模様が扉に見えた。
 それが強く脳に刻まれ、ダウンするたびに現れる幻覚になっている。
 本当の自分は、今まさに地面に倒れようとしているのだ。
 時間がゆっくりと進み、無限のように感じる時間の中、スタンは考え続ける。
 自分はどうして戦うのか?
 魔物モンスターと戦う者は、名誉だったり、金のためだったりする。
 魔王討伐に志願した者たちも、戦う理由がある。
 家族のため。恋人や子供、愛する者たちのため。
 あるいは恨み。やっぱり名誉や金。あるいは愛国心だったり、あと使命感?
 じゃ、自分は?なんのために戦っているのか?
 決まっている。それが好きだからだ。
 殴られたり、蹴られたり、踏みつぶされたりするのがか?
 あぁ、そうさ。 それが好きなんだ。
 殴られたり、蹴られたり、踏みつぶされたり、それを楽しいと感じてしまう。
 だから、それを相手にも分け与えようとしてるんだ。
 周りの人間にも、その幸せを分け与えたい。
 だから……
 殴ったり、蹴ったり、踏み潰すんだ。

 (それは狂っている)

 そんな声がしてスタンは笑った。

 (なぜ笑う?)

 ここは僕の意識の中、僕の心の中で繰り広げられている自問自答。なんの―――
 僕が僕を否定してるのだから―――
 笑って当然さ。

 100人いたら1人か2人くらいは理解してくれるだろうか?
 あるいは1000人に1人か?
 もしかしたら、そう考えてるのは世界で僕だけかもしれない。
 僕だって僕を否定するのだから。

 でも、戦っている最中の僕は―――
 決して孤独ではない。

 なぜなら、相手がいるから。

 そろそろ行かなくちゃ……
 相手を―――ユウトを待たせている。

 すると、今まで決して開く事のなかった扉が開いた。

 ――――そんな気がした。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 スタンの目の前にはユウトがいた。
 彼の鎧には血がこびり付いていた。
 誰の? 無論、スタンのだ。
 ユウトは例のチート能力に守られているのかダメージは見て取れない。
 しかし、彼の表情からは疲労感が見て取れる。
 その事からスタンは―――

 (……意識がないまま戦っていたのか)

 と結論付けた。
 その様子を察したのかユウトは「どうやら、意識が戻ったようだな」と話しかけてきた。

 「意外だ」
 「ん?何がだ?」
 「戦いの最中に話かけてくるタイプだとおもわなかった」

 ユウトは笑った。

 「血迷ってしまったのだろう。君に影響されてしまった」
 「僕に?」
 「そうだ。私は君の戦い方スタイルに批判的だった」

 確かに……とスタンは思い返した。
 ユウトは戦いの非情さをスタンに見せつける戦い方を行っていた。
 けど、どうだ? 今のユウトは笑っている。
 それだけで満足だ。
 満足?いや、違う。
 満足だったのは、さっきまでだ。
 今は新しい欲求が湧き出ている。
 コイツに……ユウトに勝ちたいという欲求。

 「スタンユウトに勝ちたい」
 「ユウトだってお前スタンに勝ちたいさ」


 互いに笑う。そして―――
 それが合図になった。
 最初に動いたのはスタンだった。
 前に出る。
 そのまま前進する勢いを加え、両手を広げて掌打を撃つ。
 衝撃を通して体を内部から破壊する打撃だ。
 外部からの攻撃が無敵だとして、内部からの攻撃はどうだ?

 防がれた。

 ユウトはスタンの攻撃に合わせて半身になると同時にスタンの両腕を払う。
 スタンの打撃はそのまま、ユウトの鎧に滑るように逸らされた。

 いとも簡単に防がれた。

 ユウトのカウンターを避けるためにスタンは後ろへ飛んだ。
 その刹那、ユウトの視線は、こう告げていた。

 『また同じ技か……』

 そのメッセージがスタンの背中にドロリとした嫌な汗を流させた。

 


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