ブラックリストハンター ~異世界ルールで警察はじめました~

チョーカー

ユウト対リザードマン 決着

 顔を庇うように両手を前に、ユウトは前方でダッシュする。
 待ち構えるリザードマン。
 両者が接触するギリギリでリザードマンはクネクネした動きを止め、二本の剣を渾身の力を込めて振るう。
 しかし、前記した通り、人間の反射神経は―――

 眼球から得た情報が神経細胞を繋ぐシナプスを通り、脳に到達。
 脳から脊髄に信号を送り、筋肉が動き出すまでの速度は―――

 5分の1秒

 熟練の剣士ならば、腕の動きから剣の軌道を読む事は容易い。

 ユウトの鉄拳が振るわれた。
 リザードマンに向かってではない。狙いは、その手に握る双剣。
 ユウトは自身へ向かい来る剣を正確に拳で―――

 叩き割った。

 そのまま、ユウトは速度を落とさない。
 そもそも、ユウトの狙いはリザードマンの剣技が効果を発せない接近戦インファイトに持ち込む事ではなかった。
 狙いは―――

 武器破壊!

 そして、そのまま、肩から強烈な体当たりをリザードマンにぶちかました。
 衝撃のまま、宙を舞うリザードマン。試合場の外、場外まで吹き飛ばされた。

 相手の武器を破壊して、そのまま敵を吹き飛ばす。
 完全勝利と言っていいほど象徴的な出来事に観客は湧きに沸いた。

 だが、リザードマンはまだ、動いていた。


 試合場にまで戻ってきたリザードマンを見た観客からは「まだやるつもりなのか!」とか「もう、いいよ。諦めろ!」と心無い言葉が浴びせられる。
 そしてリザードマン自身は―――

 「殺す殺す殺す……」

 もはや、ユウトに芽生えた殺意を隠すつもりもない。
 ギラギラとした視線をユウトに送る。
 こうなっても審判には試合を止める権限はなく、試合続行を宣言するしかなかった。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 リザードマンの一族には禁じ手がある。
 戦士として育てられる彼らが最初に教わる技だ。
 その技は最も原始的であり、非人間的な技。
 ゆえに禁じ手。戦士としてあるまじき技とされる。
 そして、今日。 彼は禁を破る。

 再び試合場の中央で向かい合う両者。
 その瞬間、リザードマンは出し惜しみすらせず禁じ手を使用する。
 その速度による残像からか、横からリザードマンの体を見た観客たちはのちに

 「まるで、アイツの体が2倍くらい伸びちまったんだよ」

 と証言した。

 リザードマンの狙いはユウトの首筋。
 そして使用する技はシンプル極まりない。誰にでも使える技だ。
 無論、矜持を捨てさえすればの話だ。
 その技は噛み付き。 
 例えるならば、地球最大のトカゲであるコモドドラゴン。
 この種族は牙に猛毒があるが、何よりも怖いのは、その咬合力。
 彼らの牙は鉄をも噛み砕く。
 ならば、やってのけるだろう。リザードマンも同等の事を―――

 鋭利な牙。巨大な咢。
 しかし、リザードマンの牙はユウトには届かなかった。

 事もあろうにユウトは拳をリザードマンの口内に向けて放ったのだ。

 ユウトの鉄拳は、上下に並ぶ鋭利な牙を無事に通過。
 衝撃でリザードマンの体は浮き上がり、そのままユウトはリザードマンの体を地面に叩き付ける。
 後頭部から地面に衝突したリザードマン。
 今度こそ、彼は自力で立ち上がる事はなかった。

 審判はユウトの勝利を宣言した。

 

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