ブラックリストハンター ~異世界ルールで警察はじめました~

チョーカー

リザードマンの剣技

 
 (コイツはナニを考えている)

 リザードマンは剣を振るいながら混乱していた。
 リザードマン。 彼らの種族はプライドが高い。 
 生まれた瞬間から強靭な体を持ち、戦う事こそが最上の喜びとして教えられ、皆が戦士をして育つ。
 他種族を軟弱者だと見下してすらいる。
 例えば魔王の戦い。多くの種族が連合軍として手を組み、魔物を相手に戦う中でも彼らは単独で―――さながらゲリラ戦のような戦いを繰り返していた。

 それは武道大会での対戦相手が決まった時でも―――

 「ユウト?英雄と言っても、ただの人間ではないか?」

 優勝すれば当たり前。苦戦などあり得ない。
 そう考えていた。 
 しかし、目の前の相手はリザードマンの自信を破壊した。
 自分を弄ぶような戦い方。 
 事もあろうに相手は自分を対戦相手とすら見ていない。
 無論、自分自身の不甲斐なさへの怒りはあった。しかし、その怒りは、既に感情の枠を振り切れている。
 数多くの他者を見下してきたリザードマンに取って、自分が見下される事など、あってはならない事であった。
 戦士として育った彼の精神は犯され、穢されたのだ。
 だから、彼に取ってこう考えるのは、極めて自然の事であった。

 (……よし、コロそう)



 ざわ……

     ざわ……

 会場に騒めきが起きる。
 何が起きてたのかわわからないからだ。
 リザードマンの猛攻を華麗な剣技で捌いていたユウト。
 しかし、異変は突如として起こった。
 ユウトが弾かれたかのように後ろに飛んだのだ。
 リザードマンが何かしたのか? それともユウトに怪我などのトラブルがあったのか?
 それがわかるのは一部の実力者だけだった。
 彼らは察した。
 試合ではなく、殺し合いを…… 
 試合は死合へと変貌を遂げた。


 ざわ……  ざわ……

      ざわ……  ざわ……


 観客たちの騒めきは、さらに大きくなった。
 リザードマンが奇妙な動きを開始したのだ。
 リョウマや加賀には、その動きがすぐわかった。
 その動きはダンスだ。それも有名な。
 ヒップホップで使われるハンドウェーブと言われる動き。
 左手から右手へとクネクネと動かして波を表現するやつだ。
 どうやら異世界にはヒップホップダンスは存在しないらしい。 
 他の観客たちは奇妙なモノを見ているような感じだった。
 しかし、ならば―――リョウマと加賀が浮かべる疑問は当然だ。

 なぜ、この場でダンスを!?

 その答えは出ないまま、リザードマンのダンスは―――

 加速していく。

 おそらく、普通の人間とは骨格そのものが違うのだろう。
 波が増えていく。さらに速く、そして複雑に。
 それは腕だけではなく胴体も揺らしていく。
 胴体の動きだけ見れば、まるでヘビが胴体をクネクネと動かしながら前に進んでいるように見える。

 ついには体全体がクネクネと奇妙な動きを開始する。

 その動きのまま、リザードマンは前に出る。
 リザードマンの動きは奇妙だが、なぜ、こんな動きをしたのか、多くの人は予想がついた。

 おそらく速度。 

 そう、体の『しなり』だ。
 体全体を鞭のようにしならせる。
 その、しなりを利用して、剣速を驚異的に跳ね上げさせる事を狙ったのだろうと!

 しかし、予想は間違いだった。
 リザードマンの動きは緩やかであった。 
 ―――否。
 緩やかと表現する事すらおこがましい。
 ハッキリ言えば遅い。ノロノロとスローリーな動き。

 では、一体、あの動きにどんな意味があるというのか?
 無意味ではあるまい。 それは、リザードマンの剣を恐れるかのように距離を取るユウトをみれば一目瞭然だ。

 ならば破壊力か?

 一見すると遅いと感じる剣には、とてつもない力が込められていたりするのか?
 それとも、あの動きによって全身から力みを取り除き、接触の瞬間にとんでもない破壊力は発揮するのではないか? 
 例えば、剣を受ければ受けた剣が砕けるような……

 一方的に逃げ回るユウト。追うリザードマン。
 リザードマンが放った剣が空振り、地面へ接触する。
 その瞬間―――
 地面にぶつかった衝撃でリザードマンが剣を落としてしまい、慌てて拾い直すという一幕があった。

 破壊力も不正解だ。
 では、一体? 一体、何をユウトは怯えているというのか?
 リザードマンの剣技は、あの動きを行う前と比べて、明らかにレベルが落ちている。
 まるで初めて実物の剣を握った子供が、その重さに振り回されているようにすら見える。
 現に、剣を地面にぶつけて落としてしまうなんて、普段のリザードマンならば絶対にありえないと言い切れる。

 「これは、何が起きているのでしょうか?」とスタン。
 「……全く、見当すらつかぬ」とトルニャ。

 数多くの武道大会に出場してきた側のスタン。
 多くの武術大会は開催してきた側のトルニャ。
 この両名ですら、リザードマンとユウトの攻防には皆目見当すらつかない状態だった。

 「……そう言えば聞いた事がある」

 リザードマン動き。
 その解説を始めたのは意外にもリョウマだった。   
 

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