ブラックリストハンター ~異世界ルールで警察はじめました~

チョーカー

武道大会、前日

 リョウマと加賀は広い空き地に立っていた。
 所謂、広大な原っぱだ。

「武道大会って言うから、てっきりコロシアムみたいな闘技場で行うと思ってました」

 そう言ったのは加賀だ。

 「近年のオリンピックって、どの国でも開始前日ギリギリまでメインの会場を工事してるニュースで流れるじゃないですか?私、あれ好きなんですよね。『果たして間に合うのか!?』って本当に間に合わなかったら、何人のお偉いさんが首になるんでしょうかね?」
 「そんなオリンピックの楽しみ方する奴なんているか!穿った見方するな」
 「えー でも思いませんか?昔の貴族も言ってましたよ。逆に考えるんだ。競技場で揉めるくらいなら、作らなきゃいいんだって考えるんだ……って?」
 「言ってない。そもそも、公共事業を全否定するな」

 武道大会、前日。
 リョウマと加賀がいる広々とした空き地こそが大会会場だった。
 参加者であるスタンが最終レギュレーションに参加するという事で2人も付き添いに来たのだ。
 リョウマはスタンの参加を認めた。それもあっさりと。
 警察組織の目的は、スタンが所属している組織『ブラックリストハンターギルド』のノウハウを学ぶ事であり、スタン本人は、1時的に警視庁預かりの身ではあるが、「自由にやらせろ」というのが上層部からリョウマに下っている命令オーダーなのだ。
 つまり、責任は上層部が代わりに受けてくれるという意味だとリョウマは理解した。
 だから、リョウマはスタンの自主性に任せる事にした。
 『ブラックリストハンターギルト』で可能な事なら、日本警察でも可能な限り許可させる。
 たしか、日本の警察官でも総合格闘技の大会で試合した前例があるはずだ。
 その時はノーギャラだったはずだが……まぁ、貰える物は受けさせばいいだろう。
 それがリョウマの考えだった。

 そう、こうしているとスタンが戻ってきた。なにやら、背後にぞろぞろと引き付けて。

 「リョウマさん、ただいま戻りました」
 「お、おう、それは良いが、背後のお客さんたちは?一体?」
 「えぇ、リョウマさんが日本側のブラックリストハンターギルトのトップだと説明したら、是非ご挨拶をしたいと商人の方々が……」
 「いや、俺は、所轄のトップであって……階級も警視だし……」

 リョウマの声など、誰も聞く者はなく、あっという間に商人たちは商談に入り始めた。

 「スタンくん、お疲れさま。熱いコーヒーとスコーンとクッキーを用意してますよ」

 加賀は地面にビニールシートを敷くと、水筒からコーヒーを紙コップへ注いでいった。

 「良いんですか?あれ?」とスタンは揉みくちゃになっているリョウマを指差した。
 「良いじゃないですか?あれが彼の仕事ですよ」と加賀は平然と言った。
 「はぁ」とイマイチ、納得しきれない様子のスタンであったが、加賀の言うまま、シートへ座り紙コップを口へ運んだ。
 リョウマが解放されたのは、数十分後だった。

 「いやぁ、まさかスタンくんが優勝候補だとは思ってませんでしたよ。お強いでしょうね」
 「いやいや」とスタンは首を振って否定した。
 しかし、リョウマは知っていた。いや知らせれていた。 
 魔法や剣が振るわれる世界であり、近年では魔王なんて者が実在していた世界で犯罪者を取り締まる集団。
 それが、どれほどまでに規格外の存在なのか。上層部から叩き込まれていたのだ。
 加賀とスタンから少し離れ、紫煙をまき散らしながら、横目でスタンの様子を盗み見る。

 まだ、幼さが残る風貌だが、見た目の年齢なんてあてにならない。
 転生者なんて、前世の記憶を受け継いだ日本人がゴロゴロとしている世界だ。
 スタンだって、精神年齢が俺よりも年上だってあり得る話。
 リョウマはスタンに対して、そう考えていた。
 しかし――――

 「あっ! スタンくんダメですよ!コーヒーはシミになって綺麗に落ちないですよ!」
 「あ、あわわ、す、すいません!」

 加賀相手に叱られているの見ると、歳相当の青年にしか見えないのも事実だ。
 やれやれとリョウマは頭を振るって、自身の考えをひっこめた。
 タバコの火を消し、携帯灰皿へ入れると、ビニールシートへ戻った。
 しかし、次の瞬間、リョウマの表情はこわばった。
 前方からわらわらと向かって来る人影があった。
 リョウマは、さっきの商談という言葉と知性の暴力に犯される恐怖を思い出したのだ。

 (あれと同じことが再び起きると言うのか!)

 リョウマは、いつでも逃走可能な状態へ構える。
 しかし、よくよくと見ると、どうも様子が違う事に気がついた。


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