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山田 武

偽善者と迷宮内氾濫 その13



 ロカに人狼一体スキルを使い、騎乗している第三段階。
 それだけでなく、ラヴやウォッツにも役割があって──


「ラヴ、行くよ!」
「おう、任せとけ」

「じゃあ、“多連噴火メガプルーム”!」
「初っ端から飛ばすな!? まあ、いいけどよ──ソイヤッ!」


 ラヴは指示した通り、俺がまだ習得していない熔解魔法を発動。
 精霊であるラヴはイメージだけで発動可能なそれを、俺が構築した術式を基に使う。

 これは縛りプレイ時に微精霊から下級精霊に昇格した、契約精霊たちとも行った精霊術師が行えるちょっとした小技。

 スキルに関係無く、自身の属性ならば自在に人族の魔法以上の性能を出せる精霊。
 そんな精霊が、人族の使う魔法を使えばどうなるか……普通に強くなるのだ。

 火力は変わらないが、術式による制御がその燃費を抑えてくれる。
 その分だけ、精霊の高い火力で魔法を使ってもらえるわけだ。


「おおーっ、凄い火力だね……」

「……これだ、これだぜ! いいぜいいぜ、最ッ高に盛り上がるじゃねぇか!」

「もう、ちゃんと魔法の勉強をしていれば自分でできるんだからね」

「……熱が下がるようなこと言うなよ。もう一度、もう一度やってくれよ!」


 熱に盛り上がる熱狂の精霊ラヴ。
 火山の噴火によって魔物が一気に殲滅される姿に興奮していたようだが、俺の発言はお気に召さなかったようだ。

 普通の精霊ならまだしも、魔臣でもあるラヴには魔法を学ぶ環境があるわけで……。
 しかしながら、ラヴはそれをせずひたすら熱狂のみを求めていた。


「あまり言いたくはないけど……精進は、重要だと思うよ」

「……なら、言うなよ!」

「盛り上げるのも大変だねぇ……さて、そっちの方はどうかなウォッツ?」

『問題ありません……魔力の供給を除いて』


 ウォッツは俺とラヴ、そしてロカから離れて一人待機している。
 そこでは何もしていないわけでは無く、あることをしてもらっていた。


「まったくもう……みんな揃って魔力のことばっかり。それより、成果の方は?」

『順調です。ただいま、情報をそちらに送信しております』

「……うん、届いたよ。よーし、ウォッツはそのまま見ておいてね。ロカ、向こうの方へ出発進行!」

「はいはい、分ーってるよ」


 ロカの進路が変わり、ウォッツが示した場所へ俺を連れて行ってくれる。
 その先では、レンが導入してくれた支援を許容する光を発する探索者たちが。


「ラヴ、やっちゃって──“護謨液ラバーリキッド”!」

「よっしゃあ!」


 俺が術式を提供し、出力を出せるラヴが代わりに使う。
 精霊術師らしいやり方で放ったのは、ゴムのような液体を生み出す魔法。

 彼らを包み込むと、魔物たちからの攻撃を阻んでくれる。
 そしてそれは、これから行われる俺たちの支援から彼らを守る……はずだ。


「ロカ、やっちゃえ!」

「あいよ──“危険救済レスキュー”!」


 ロカが起動したそれは、【救恤】の能力の一つ。
 瞳の色を赤色に輝かせ、その身も同じ色のオーラを纏う。

 効果は能力補正──ただし、これは自分のために使うことはできない。
 誰かを救うため、それこそ【救恤】のためにこそ発動可能な能力だ。

 ロカの身体能力は跳ね上がり、凄まじい速度で魔物たちを吹き飛ばしていく。
 ゴムに包まれた探索者たちは、ただ唖然とその様子を見ているだけ。

 彼は走る以外何もしていないが、それだけで充分というのも理由の一つ。
 まあ、今後のこともあるので、あんまり手札を晒したくは無いからな。


「まあ、僕の方は好きなだけ暴れさせてもらおうけど──“回棒スピンホイール”!」


 棒術スキルの武技を発動、そしてそれを完全マニュアルで操る。
 なんせ馬上ならぬ狼上だ、通常通りに使えるはずもない。

 武器は金属変質スキルで加工し、ただ伸ばしただけの棒。
 しかしロカの速度がとんでもないため、当たるだけで魔物たちは吹き飛んでいった。

 俺は魔物が棒に当たる度に生じる衝撃に耐えながら、武技通りに軌道を描いていく。
 身体強化、そして身力操作によって力を高め切らすことなく武技を使い続ける。


「ラヴ──“熔解械メルトウェポン”!」
「おおっ、待ってたぜそういうのをよ!」


 次いで求めるのは武器への付与魔法。
 ラヴが乗り気なのは、それが自身の求める熱気へと繋がるから。

 これまで通り設計図となる魔法陣を渡し、適性の高いラヴに使ってもらう。
 通常以上の性能が籠められた魔法が、俺の持つ棒へと宿る。


「熱ッ! ひ、“持続回復ヒーリング”!」

「なあ、冷やさねぇのか?」

「冷やしたらラヴの熱気が下がるでしょ? それぐらいなら、耐性も上がるしこの程度我慢するよ」

「……相変わらずイカれてるなぁ──けど、それでこそだな!」


 酷い言われようだが、お陰様でラヴの熱気も強まり武器の温度も上がった。
 苦笑しつつも振るう棒は、先ほどまでとは比べ物にならないほど凶悪さを増している。

 棒が当たらなかった個体でも、駆け抜ける際に生じる熱風が大ダメージを与えていた。
 お陰で取りこぼしも無くなり、周辺の魔物がどんどん消えていく。


「ふぅ……痛覚遮断と我慢スキル、それに火傷耐性スキルも手に入った。ぐふふっ、すべては計画通り」


 状況を変えれば変えるほど、普段手に入らないスキルが集まってくる。
 痛みもこれまで得たスキルのお陰で、夏場に鉄棒を掴む程度のモノだ。

 回復魔法で治しているし、時間経過で耐性はさらにレベルを上げてくれる。
 支援活動はあくまでも自分勝手な目的のため……うん、まさに偽善だ!



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