AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と迷宮内氾濫 その10



 第二段階を終えた探索者たち。
 しかし、第三段階がまだ存在する。
 救いがあれとすれば、これが最後……レンがその旨を全体に通知したところだ。


≪──以上となります。それでは、第三段階の開始時刻までご自由に待機してください≫


 自由時間は数時間用意されている。
 本来の氾濫も、さまざまな事情ですぐには強力な個体を外には出せないので、休息をきちんと取らせておく。


「…………どうしようか」

「メルス様、いかがなされましたか?」

「あっ、ローラ……えっとね、何をしようか正直分からなくなったんだ」


 ポーションを投げて支援をしたり、斧を投げて攻撃したり……一番の活躍である弓の支援は、他でもないチーのお陰。

 まあ、元より目立ちたいわけでは無い。
 だがそれとは別に、自分のやりたいように動き回りたいとも思っている……まあ、その辺は【矛盾】しているな。

 だからこそ、いろいろと悩んでいたところに現れた魔臣の一人ローラ。
 人魚の魔物だが、魔臣たちはほとんどが人化を心得ているので彼女も人族風だ。

 文字通りのマーメイドドレスを身に纏い、歌うその姿に探索者たちがうっとりとした視線を向けていたな。


「あっ、ローラの歌、良かったよ。とっても綺麗だったね」

「! あ、ありがとうございます……その、よろしければ今度、個人的に──チッ」

「旦那様ぁあああ! すぐに、すぐにそこからお離れください!」

「ん? セツ……急にどうしたの?」


 ローラが俺に何かを言いかけたその時、遠くから全速力で彼女は飛んできた。
 白い和服に身を包む、白銀髪の少女……その瞳は、うっすらと緑色に輝いている。

 それは【嫉妬】に『侵蝕』された証。
 魔臣のうち数人は、実験として{感情}のどれかに関する力が植え付けられている。

 そんなセツはこの場に辿り着くと、すぐにローラの視界から俺を覆い隠すように包み込む……和服美人な彼女は、いろんな意味で和服が似合うんだよな(意味深)。


「まったく、油断も隙も無い……旦那様を誘惑しようだなんて!」

「あら、その何がいけないことなのでしょうか? 貴女もすればいいじゃない」

「なっ!? そ、そんな……は、はしたないではありませんか!」

「……人を妬むのであれば、貴女自身も相応のことを致してからにしなさいな」


 まあ、セツはいっしょに居るだけでとても嬉しそうにしてくれるからな……その辺、どこかヤンに似ているかもしれない。

 彼女よりかは【嫉妬】深いのだろう。
 だが、彼女同様に俺の求める【嫉妬】が反映されているのかもしれない……うん、俺にとってはまったく問題ないのだ。

 ──などと思っていた俺の足元に、突然防壁の足場から生えた蔓。
 それが俺の足に絡みつき、そのまま俺を運び出……す前に凍り付く。

 だがそれでも諦めず、どんどんこの場に生えてくる蔓と蔦。
 セツが氷、そしてローラは声を衝撃波として放ってそれらに対処していく。


「……くっ、うじゃうじゃと。ハナ、貴女も居るのですね!」

「──ええ。さあ、お迎えに上がりました、貴方様♪」


 蔓や蔦と同じように、巨大な花が地面から咲いた。
 そこから現れた深緑のような髪色の少女、彼女はただ俺だけを紫色の瞳で見ている。

 当然、そんな対応をされれば誰でも癪に障るわけで……先ほどまで視線で火花をバチバチに散らしていた二人は、お互いを一瞥して話し合う。


「……私を、私たちを無視するとは。どうですか、セツさん。ほんの少しでも共闘をするというのは?」

「…………仕方ありません。優先すべきは旦那様、しばしの間のみですよ」


 そんな彼女たちは俺を求め、なぜか戦うことになっていた。
 こういったとき、手を出さないのが一番だというのは経験則として学んでいる。

 さて、どうしたものか……彼女たちのことはただ待つにしか無いにせよ、俺自身の問題について解決しておきたい。


「──“空間移動ムーブ”」

「「「メルス/貴方/旦那様!?」」」

「ちょ、ちょっと長くなりそうだから、少し離れるね。あとで戻ってくるから、その時にみんなの用事は聞くよ!」


 空間魔法が使えるようになっているので、その場から即座に撤退する。
 視界内なら自在に渡れる“空間移動”により、俺はこの場から離れることに成功した。


「ふぅ……危ない危ない。あそこに居たままだと、正直どれだけの被害が出ることやら」


 俺があの場に居続けると、ヒートアップして最終的には被害者も出ることだろう。
 しかし、俺が居なくなればおそらく彼女たちは沈静化する。

 ……そうでなくとも、レンが強制的に止めると思う。
 完全な他力本願だが、彼女ならばやってくれるだろう……貸し一つで。


「っと、そうだった。まだ頼れる魔臣たちは居るもんね。みんなに聞いてみないと……いや、あの子たちには聞けなかったけど」


 聞く前に揉め始めたため、意見を求めることができなかったんだよな。
 だが次の場所なら、ちゃんと答えてくれるに違いない。

 そんなこんなで、気配を探って俺は再び転移を発動した。
 うん、逃げるが勝ち……じゃなくて、聞けるときに聞いておこう。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品