AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と迷宮内反乱 その20



 強烈な光とそれを消す闇。
 瞬間的な光量の変化によって、ロカから距離を取ることに成功した。

 だが油断はできない。
 そもそも、逃げている俺の背後には今なお偽りながらも強力な力を秘めた神の槍が追い縋っているのだから。


「いい加減、黙らせるか──“血意転写ブラッドコピー”」


 空間を断つ魔法“空間断絶ティア”。
 そしてそれを纏わせ振るった、ミシェルの力を秘めた杖剣[レヴェラス]。

 予想外の回避方法でダメージはほとんど通らなかったものの、たしかに攻撃は掠った。
 そして、その際に付着した血液を媒介に発動する血魔法。

 その効果はスキルのコピー。
 対象の情報を把握したうえで、選択したスキルを一つだけ使うことができる……使用時間は摂取量と熟練度、スキルレベル依存。

 ロカのスキルは元より把握済み。
 コピーしただけではスキルは使えないが、今回は俺が充分にその力を知っているスキルなので何ら問題にはならない。


「【怠惰】解放──“不可視の手ハンド・オブ・ジュピター”」


 借り受けたのは【怠惰】。
 もっとも、生き延びるために懸命に足掻く俺には似つかわしくないもの……だがそれゆえに、楽をするためにこの力を求めた。

 展開するのは認識不可能な手。
 巨人の掌を思わせるほどに巨大化させ、南十本も生み出したそれらに槍を掴ませる。


「魔法付与──“空間歪曲ディストーション”」


 空間を捻じ曲げる、そんな魔法がすべての手に付与された。
 時魔法で時間を遅らせたかったが……残念ながら、今は未取得状態。

 なので代わりに使ったのは、『時間』の内『間』を意味する空間の魔法。
 一つひとつの手の中で歪んだ空間が、俺と槍との距離をどこまでも拡張。

 それと同時に捩じれた空間を押し付け、強制的に動きを止めるべく押さえつける。
 ……抗うためには、相応の身力を支払い続けなければならない。

 今のロカの魔力は借り物の無限。
 それを消費させ続けていけば、やがて訪れるのは──


「っ……!?」

「来たか」


 突然、動きを止めたロカ。
 体から湧き上がっていた膨大な身力が、少しずつ失われつつあった。

 それは単純な話。
 パッシブ能力である“過剰溜込オーバーチャージ”は切れることなく力を蓄えていようとも、消費した身力を補給する術を失っていた。

 つまりはアクティブ能力の時間切れ。
 今回の場合、“王を讃えよプライズ・オブ・キング”の効果が終了して自然回復速度が一段階分を残し終了してしまっていた。

 また、[グングニル]も手の中で暴れる力が少しずつ弱まっていく。
 自然回復速度が追い付かず、暴力的なまでの火力が出せなくなったのだ。

 結果、俺を追いかけていた身体強化は終わり、投げ続けていた[グングニル]の維持費も尽きる……もう同じことはできない、状況は一気に俺優勢──とはならない。


「まだだ──“湧き立つ衝動イクスエナジー”!」


 ロカが使えるのは<大罪>と<美徳>のスキルの内、二つのみ。
 だが、それを切り替えてしまえば使えるパターンは一気に増える。

 今回使った【憤怒】の“湧き立つ衝動”。
 その効果は戦闘中に消耗した身力に応じ、その自然回復速度を上げることができる……ただし、一定の確率で暴走してしまう。


「……本当にいいんだな?」

「ああ、構わん!」


 だがそれは、諸刃の剣。
 すでに精神を『侵蝕』する【傲慢】の効果は切れず、加えて自ら【憤怒】の『侵蝕』まで受けて始めた。

 なお、起動している【忍耐】は<美徳>なのだが……そちらもそちらで、起動し続けている間にさまざまな判定を受けている──対価もまた当然存在している。


「──“受体反撃セルフカウンター”!」

「なら俺は──“仮命委託デリバリー”」


 それでも【憤怒】の能力を重ねて行使し、俺を追い詰める。
 俺が閉じ込めていた[グングニル]を無理やり取り出し、自らそれを振るっていく。

 反撃しようにも発動した“受体反撃”により、直接抵抗することは難しい。
 だからこそ、【怠惰】の能力の一つを使った──周囲の無機物が突如として動き出す。

 発動した“仮命委託”、その効果は無機物に擬似的な命をもたらすというもの。
 俺と直接繋がっているわけではないので、カウンター効果を受けることは無い。

 加え、【怠惰】の能力だけあり生み出される存在のレベルも尋常ではない。
 普通の魔法やスキルでは辿り着けない、レベル251以上の存在が次々と生まれる。

 ゴーレムやガーゴイルなどが土や石、植物などで構築されてロカへ突っ込んでいく。
 そのすべてが[グングニル]を振るうロカに破壊されていく中、次なる手を打つ。


「──“夢限置感ドリーマー”」


 俺はその能力を発動した瞬間、夢の世界に立っていた。
 現夢世界──『夢幻』が統べる領域ではない、【怠惰】が生み出す小さな空間だ。

 それと同時に、俺の意識はこれまで同様ロカと共に『偽・世界樹』にもある。
 現実の俺と夢の俺、それが両方同時に存在し【矛盾】を起こさない。

 それが“夢限置感”の効果。
 寝ながら起きる、そしてそれを利用してあることができるようにする。


「さぁ、俺も正直時間が無いんだ……一気に終わらせるぞ」

「ああ、掛かってこいや!」

「──“光槍ライトランス”、“闇槍ダークランス”。×100!」

「ッ!?」


 あること、それは夢という時間の流れすら歪な空間における自由行動。
 魔法使いであれば、そこで魔法を蓄えたうえで現実に反映することができる。

 光と闇の槍が夢の中で生成され、俺が瞼を閉じて開くだけでその配置場所が変わった。
 魔力反応もいっさいなく、ただそこに在れと認識しただけで出現した不意打ち。

 ──ロカはそれを回避できないまま、全身で浴びるのだった。



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