AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と迷宮内反乱 その19



 厄介極まりない【傲慢】と【忍耐】のコンボを乗り越え、ようやくダメージを与えた。
 だがその回避を行うため、ロカは今まで見せなかった人化(狼頭族版)を使う。

 背中には『天魔種』固有の翼を広げ、瞳の色は銀と灰色に鈍く光っている。
 何より、人の姿を得たロカは今まで手にしていなかった武器を握り締めていた。

 それは何とも凄まじい力を秘めた槍。
 神気を帯びるそれは、周囲に圧倒的存在感と威圧感を示している。


「『偽神槍[グングニル]』、爺さんがくれたヤツだ。これならアイツにも効くって言ってくれたぞ!」

「……あの野郎め。ちくしょう、有ること無いことワルキューレに言ってやる」


 この迷宮、『偽・世界樹』の迷宮から派生する九つの世界。
 その一つの支配者が、ロカに劣化版とはいえ神の槍を渡した張本人……張本神だ。

 …………どうして神様が居るのか、そういう質問もあるだろうが今回は詳細を省く。
 簡単に説明してしまうと、本体へ信仰心を送るための超劣化コピーのような存在だ。

 そんな偽りの神様でも、人の身からすれば超常的な力を有している。
 その神様が持つ武器、それをどれだけ弱めようとやはり人の身には余る代物だ。


「さぁ、行くぜ──『追いかけ貫けグングニル』!」

「っ……“劉展粒羽ドラグリュウレ・落光”!」


 能力値が1になっているにも関わらず、全力全開で神の槍を投げつけてくるロカ。
 その速度もまた神速……には一歩及ばないモノの、視覚で捉えるのはほぼ不可能。

 回避もまた、ほぼ不可能。
 必中を謳うその槍から逃れる方法は二つだけ、別の標的に当てるか必中を維持しているロカの身力切れを待つこと。

 しかし、前者はともかく後者に関しては回復速度を高めているロカ相手には難しい。
 そして前者も──人化をし、緻密な技術を用いれるようになった今は困難なはず。

 抗うように俺は、思考系のスキルを全開で起動させながら[ドラグリュウレ]を使う。
 展開していた黒い武器をすべてが、光の粒子へと還り──俺を包み込む。

 黒かった光は紅に染まっていく。
 俺に纏わりついたそれを、すぐに操作──光の粒がそれぞれ膨大な量の血を噴き出す。


(血魔法──『血陣乱舞ブラッドダンス』!)


 今の俺は一時的に、吸血鬼と同じ存在と化している。
 彼らの種族性質である血液操作、そして血魔法を利用して生み出した血を操っていく。

 口頭で宣言していては間に合わない。
 種族性質として使える血液操作を利用し、また強度を上げるため魔法として錯覚するよう正しく魔法名をイメージしての行使。

 刃を模った血液が、いっせいに突っ込んでくる槍を阻む壁となる。
 ……がそれもほんの少し速度が落ちるだけで、実際には何ら変化など無い。


「光魔法──“光速転下マッハディスプレイス”!」


 光を克服した吸血鬼であり、太陽の力を持つ龍でもある。
 それこそが、フィレルという眷属……だからこそ、今の俺は光属性に高い適性を持つ。

 発動したソレは、光速での行動を可能にするオリジナル魔法。
 一歩踏み出すと、近づいていた槍を引き離すことに成功する。

 ……それと同時に、全身に激痛が走った。
 人体とは決して、光の速さで動くことに適応したものではない──まして、今の俺は能力値が1しかない非力な存在。

 平時ならまだしも、今の俺にできるのは身力で肉体を強化しておくことぐらい。
 予想通り、耐性スキルの効果を全無視するほどの激痛が起きていた。


「ぐっ……“偽円隔壁カーライルシールド”!」


 それでも足を動かし続け、割いた思考で構築した魔術。
 超多重防壁とも呼ぶべき代物が、俺から光速で射出され──槍と接触。

 物凄い勢いで砕かれていく障壁を、魔力供給を行うことでどんどん再生させていく。
 だが、ロカと違って俺の魔力には限りがあるわけで……体の回復を一部抑える。

 破壊と再生を繰り返す俺の体。
 超回復だのスキルのレベリングだの、そんな甘い考えでは耐えられない激痛……それでも、俺は障壁を張り続ける。


「──なあ、いつも思うんだが。どうして攻撃を防いでいる間に、攻撃されるって考えないんだろうな?」

「……それは簡単だ、普通強力な技を出すと相手も疲れたり操作の維持をしたりで、動けないと勝手に思い込むからだ」

「ふーん、そういうことか。参考にさせてもらうぜ」


 障壁を維持し、光速で動いている俺に追い縋り、ましてや会話までしてくるロカ。
 いちおう言っておくと、[グングニル]もまた発動中は動けないほど消耗する代物だ。

 しかしながら、ロカは“王を讃えよプライズ・オブ・キング”で無制限にバフを重ねられ、“過剰溜込オーバーチャージ”によりその最大値まで無限になっている状態……身体強化を重ねて追い付いてきたのだろう。


「と、いうわけでやらせて──」

「──“焦光スコーチライト”!」

「うがぁっ、目がぁああ……なんてな」

「分かってるよ──“消明ライトアウト”」

「っ……くそっ!」


 攻撃を仕掛けようとしてきたロカに対し、俺は強い光で目晦ましを行った。
 苦しむ……ふりをしたロカ、だが耐性ぐらいあるだろうと俺も思っていたわけで。

 重ねて準備していたのは、周囲の光を闇で包んで消す魔法。
 突然光量の強い状態から、ゼロの状態に切り替わったことで視界が一時混乱。

 ほんの一瞬だったろうが、光速で動いている俺たちの差を変えるには充分。
 進路を転換、勝利を得るための数秒を稼ぐために俺は移動を続けた。



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