AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と箱の中身 後篇



 神代のアイテムは謎だらけ。
 運営神の工作を越えて得られたそのアイテムから、研究班が得た情報を俺はアンから聞いていた。


「っと、その前に神代についておさらいしておきましょうか」

「えっ、急に? まあいいけど……えっと、神代は字の如く、神々と人が共に居た時代で合っているよな?」

「はい。では、その神代について、現在判明していることは?」

「……今の人々が、干渉できないこと」


 時魔法やその上位版、時空魔法や次元魔法という過去に干渉する魔法が存在する。
 だがそのすべてが、決して神代という時代にまで届くことは無い。


「理由の一つ、単純に干渉するために必要なエネルギーが尋常じゃない点。少なくとも、魔力を燃料にして届くことは無い。そして二つ目──神々の影響。神気がジャマー代わりになって、妨害されているわけだ」

「はい、これも正解です。過去改変という創作物でも定番のネタですが、おそらく不可能ですね。もちろん、ご経験された通り、あくまでそれは神代のみ。小さな変化は何度も起き得る可能性があります」

「……ネイロ王国か。正直、今の方には全然関わっていないんだが、今から干渉して世界が書き換わる……とかあるのか?」

「可能ですよ。ただし、過去改変はすればするほどその際に二つの障害が現れます。その対処さえ行えれば、何度だって可能です」


 いわゆる、時の番人である。
 些事であれ大事であれ、過去を変えればその先の未来は変化する……それ以上の説明には、俺の語彙力が足りていない。


「一つは当然、過去を修正したモノ。相手方に過去を変える確固たる意志があれば、何度でも阻んでくるでしょう。では、もう一つは何ですか?」

「たしか……歪みの修正者だよな? 修正回数、あとその改変に関わるモノの改変前の運命力(?)的なものの強さに応じて、強くなる仕様だっけ?」

「正解です。なので祈念者一同で改変した十年前のネイロ王国に干渉するのであれば、それ以上の干渉力を持たねばなりません。そしておそらく、祈念者の場合──────となるでしょう」

「…………だろうな」


 アンの言葉は至極真っ当なものだ。
 祈念者はある意味、運営神にとって大変都合の良い存在……なので不都合な改変をするのであれば、それを防ぐだろう。


「さて、では神代のアイテムについて……」

「緩急付けてくるな……はいはい、しっかり聞かせてもらうよ」


 ズズッとお茶を啜り、行きと心を整える。
 元より真面目な話だったが、ここからは本題になる……毎度のことながら、ワンステップ踏まないと進まないんだよな。


「こほんっ。結論から述べますと、このアイテム『事実の機趣』には魔導機人の技術が用いられておりました」

「魔導機人……ってことは、チャルと同じ奴が過去に居たのか!?」

「神代の情報ゆえに、確定させることはできませんでした。ですが、それでもチャル様に見受けられた魔法技術でも機械技術だけでも説明できない技術が、確認されました」


 うちの眷属チャルは、何らかの理由で稼働停止した状態で終焉の島に封印されていた。
 過去を知るため、何度か協力してもらって調べたことはあるが……今なお不明のまま。

 そして、そんな魔導機人が保有する特殊な機械──魔導機械。
 彼らの技術の髄とも言えるそれが、神代にも存在していたようだ。


「使用者の行動経験に応じ、リソースを自由に組み替えアイテムを構築する。形状記憶式であれば、現代の技術でも再現可能ではありますが……無からの構築が不可能であることは、メルス様が一番理解しているはずです」

「……そう、だな。俺もチャルからその技術について知れなかったら、おそらく再現できなかっただろうし。魔導機人、やっぱり何か特別な出自があるんだろうか」

「チャル様の眠っていた遺跡、そしてわたしの種族など……ヒントは多くあります。引き続き、調査を行いたく思います」


 チャルは魔導機人だが、アンは神性機人というより謎の多い種族だ。
 どちらも鑑定眼で分かる程度の情報しか判明しておらず、出自などはさっぱりである。

 てっきり神性機人の方は神代生まれだからと考えていたが、魔導機人がその時代にも関係していたことから、そう単純な話ではなくなってしまった……うん、無理。


「検証好きなわけじゃないし、俺はそこまでフレーバーテキストを気にしないんだが」

「メルス様、真に興味を持たない方はストーリーなどもスキップするそうですよ」

「マジで? 少なくとも初見はチェック必須だと思うんだが……まあ、それは個人の自由だからいいけど。とにかく、アレについてはまだ使うんだな。了解した」


 眷属の役に立つアイテムに、さっそく組み替えようと思っていたのだが……まあ、その眷属が望むのだから、それに従おう。


「メルス様、この後のご予定は?」

「うーん、特に無いけど。もしかして、何か問題でもあったか?」

「はい、一つお願いしたいことが……」


 そして俺は、アンの頼みごとを聞いてあることを行うことになるのだった。



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