AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と新人イベント その17
ござる、それがあの方に付けられた名前。
傍から見た自分の姿が、創作物に出てくるような『NINJA』のような風貌だから、そんな風に呼ばれているのだろう。
現在、自分はお嬢殿とその人形を囮にPKたちの暗殺を行っている。
先ほどまでは人形の陰に潜んでいたが、今は隙を突いてPKたちの陰に潜っていた。
『さぁ、私の可愛いお人形に勝てる御方は居るのかしら?』
見事なまでに囮を演じてくれている。
出会った頃の彼女であれば、素の振る舞いかもと疑っていただろうが……あの方の下で成長した彼女であれば、間違いなく演技だ。
自分もまた、考えを改めさせられた。
全部を鵜呑みにしているわけでは無い、だが必要な要素を取り入れることの重要さは、『家』でも伝えられている。
──『心依流古武術』。
自分たちの家系が代々引き継いでいる、かなり古い流派。
詳しく調べたことは無かったが、父曰く平安の世にはすでに在ったと言う。
そんな古武術の練習にもなると、家族から始めるよう促されたこのゲーム。
……たしかにその価値はあった、自分より強い者がごまんといる。
「忍術──」
印を結び、術を構成していく。
これは古武術には存在しない、この世界のシステムによる技。
昔の自分は、それらをただ使っていただけだった……あの方は言った、使いこなしてこその一流であると。
「──影遁“影縛り”」
この世界における『忍者』とは、ただ忍び耐える者……ではない。
それこそ、創作物の『NINJA』のように派手な術を心得た者たち。
だが、それは仮の姿。
派手さを隠れ蓑として纏い、暗躍する東洋のアサシン──それがこの世界における忍者の真の姿だった。
自分が発動した術の効果によって、地上のPKたちはその動きを止める。
そしてそれは、お嬢たちが動くのとほぼ同時に行われていて──
『あ? あ、足が……』
『さぁ、やってしまいなさい!』
『えーいっ! えいっ、えいっ、えいっ!』
『『『ぎゃーーー!!』』』
足止めをしている間に、上で魔法少女と呼ばれる人形が魔法でPKたちを攻撃した。
正面からあの魔法を受けて、耐えられる人はそう多くは無いだろう。
「──透遁“景同”」
この世界の忍術を、自分はまだ祈念者たちがほとんど辿り着いていない地で学んだ。
……考えを改め、一から学ぶことで、この世界の忍者も条件付きで教えてくれた。
修行、という名の[クエスト]をいくつも受けて忍術を学んだ。
ただしそれは、派手さを求めたモノではなく実用性を求めたモノ。
火遁、水遁といった魔法でも定番の属性ではなく、影遁や透遁という使い手が極めて珍しいとされる忍術を選んだ。
幸い、祈念者には万能の適性がある。
条件から逆算し、必要なモノを揃えれば発動の条件を満たすことができた。
『くそっ、何がどうなって──』
「──」
「がっ……マジ、か──っ」
動揺しているPKの一人を、手に持ったクナイで突き刺す。
刺した方向から、自分が居ることを理解したのだろう……その姿は見えないだろうが。
透遁、透明化を可能とする忍術を主として扱う分類。
今回使った“景同”は、字の如く景色に同化する忍術。
「──」
『あがっ』『うごっ』『気をつ──!』『おい、急に──』
彼らを殺すのに武技は必要ない。
家で身に着けた技術、そして暗器スキルと暗殺スキルの補正が導く最適な動きで当てていくだけ。
なお、毒の類などは使っていない。
それは奪われた際のことを考慮したものであり、PKともあれば自分以上の毒耐性を有していることを懸念してのこと。
お嬢殿の人形の魔法は、純粋に火力が高いからこそ当たった相手は死ぬだろう。
だが自分のソレは精確さゆえの一撃で、確実に目的の部位に当てる必要がある。
そして、そこに毒を掠らせれば……などといった傲りは危うい。
ゆえに家でも、一撃一撃を大切にするよう教わっていた。
(忍術──無遁“無力珠”)
忍術の良い所、それは詠唱や宣言を必要とせず術の構築が可能なところ。
普段は燃費を抑えるため、発動の宣言はしているが……今が使い時だろう。
掌に浮かんだ球体の塊。
効果は当てた対象の一時的な無力化。
それをPKたちの中から、詠唱を行っている者にぶつける。
そして、すぐに殺す。
無力化の効果はその長くは持たず、その効果を周囲の者に喧伝されては困るからだ。
本来、こういったやり方は一度切りだからこそできる不意打ち。
だが、祈念者は何度殺しても蘇る──ならば、可能な限り情報を掴ませない。
【ござるさん!】
(忍術──影遁“影渡り”)
『えーいっ!』
「眩──ッ!?」「誰か──っ!」「そうはさせ……くそっ」
予め決めた合図、それを受けて発動するのは影の間を跳躍することができる忍術。
すると、人形が強烈な光を放ち部屋中が照らされる。
光に引き延ばされ、影が伸びていく。
自分はその間を縫うように進み、これまで手を出さないでいた少々面倒な──アサシン系の者たちを殺す。
最後の相手が一番厄介で、見えていないはずの自分にも対応しようとしたが……武技とは根本的に異なる、心依流の動きに抵抗しきれずそのまま死んだ。
(っ……“影潜り”)
だが、最期の抵抗で傷を受けた。
高い毒耐性の上から発生する、状態異常に舌打ちをしたくなるが、冷静に印を結び再び影の中に潜む。
【お嬢殿、毒を受けました。しばらく、延命に専念させていただく】
【構いませんわ。あとで出てきたら、治療して差し上げましょうか?】
【心配ご無用。薬は念入りに用意してあるでござるよ】
忍者直伝の丸薬を飲み干す。
後の代償は重いが、即座に効果が出て毒の状態異常が解除される。
準備ができたことをお嬢殿に告げ、再び影から上がる準備を行っていく。
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