AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と新人イベント その12



 エレト草原(東)


 始まりの街から南に位置するエリア、その東側が我──フェニの担当だった。
 自身の炎翼をはためかせ、和服を風に靡かせながら魔物たちを見下ろす。

「……なんだか、二番煎じな気がしないでも無いな。我以外にも、空を飛べる眷属は多いのだから仕方あるまいか」

 我はご主人が創ってくれた武具──『終焔神具[レーヴァティン]』を引き抜き、その手に収める。

 何度もご主人が手を加え、炎の神であるカカの一部が宿った神器。
 剣、杖、槍、根など……近・中距離の武器に変形させることもできる。

「今回は派手さを求められている……ふむ、ならば杖にしよう」

 意思を魔力で伝えると、不定形だった揺らめく炎が杖の形を成す。
 ……魔力伝導率はどの形状でも実は同じなのだが、そこは見た目重視ということで。

「さぁ、行こうではないか! ──“身体掌握”、“増幅回路”、“無想詠唱”、“並速思考”、“多連行動”、“醒限界放”!」

 ご主人が眷属に授けた特別なスキル。
 中でも魔法発動の補助に使えるモノを選んで、多重起動させていく。

 その分だけ、縛りを受けた体では重い負担が生じるが……起動させたスキルの一つ、増幅回路によって減った分以上の魔力を生成して補っていく。

「まずは下拵え──『橙炎』」

 杖を一振り。
 そこから生み出される橙色の炎が、魔物たちを襲っていく。

 本来であれば、色も火力も関係なくすべての魔物を焼き尽くしていただろう。
 しかし、今の我や眷属たちではそこまでの力は出すことができない。

 魔物たちは炎を浴びるものの、その多くが平然と前へと進み出る。
 焼き焦げた個体の屍を踏み越え、その先にある始まりの街へと。

「逃がさん──“燃焼爆轟デトネーション”」

 だが、そこに我の魔法が届く。
 橙色の炎が広がる平野に、紅蓮の炎が新たに行き渡る。

 魔力を燃やし、炎がそれを糧に急激に燃え上がっていく。
 文字通り、爆発的な火力によって衝撃波が生まれ、炎はより遠くへと広がる。

「橙の炎は増幅の炎、そしてこの[レーヴァティン]が生み出す炎には聖邪、そして神の炎を宿すことができる……聖なる炎に焼かれて死ぬが良い」

 先に広がった『橙炎』に、聖炎として放たれた“燃焼爆轟”が接触。
 聖なる炎は増幅の炎の力で膨れ上がり、草原一帯を埋め尽くすのだった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 エレト草原(西)

 東側でとんでもない爆発が起きた。
 担当者はフェニだったけど……うん、炎だし間違いなく彼女だね。

「クーも負けてられないね。よーし、頑張ってみようか!」

 そう言ってクーが使うのは、摩訶不思議な形をしたルービックキューブの魔道具。
 今は立方体の形をしているが、動かし方次第でどんな形にもなることができる。

 他のみんなが使っているように、これもまたメルスが創ってくれた特別な武具だ。
 分割された面の一つひとつに、身力を通せる線が走っている。

「たしか、これをこうしてこうすれば……」

 カチャカチャとキューブを動かして、面に走る線を繋いでいく。
 完成した姿は分かっおぼえている、脳裏に浮かぶ手順通りに手を動かすだけだ。

「完成! ──『地盤沈下サブサイデンス』!」

 ルービックキューブの一面が、魔法陣の形になっている。
 そこに魔力を通すことで、縛りを受けている状態で使えないはずの魔法を使える。

 魔物たちが進軍していた辺りの地面が、突然下へ沈んでいく。
 先頭の魔物は壁となった地層にぶつかり、後続の魔物も強制的に止まる。

 それを目にしながら、今度は空を飛んでいた魔物に対して魔法を準備していく。
 先ほどとやることは同じ、覚えている魔法陣を新たに組み上げていくだけ。

 より複雑に、より大きな魔法陣。
 それでも指先の動きはむしろ早まり、空を飛べる魔物たちがクーを越える前に魔法陣が完成する。

「──『重天圧墜ダウンコンプレッシャー』!」

 本来、重力魔法を極めた者が辿り着く超高難易度の魔法。
 だけどメルスのくれた[キュービック]があれば、どんな魔法でも使うことができる。

 どれだけ高く飛んでいようと関係ない。
 その領域に存在するすべてが、等しく地面の底へめり込んでいく。

 むしろ、地面を掘り下げる勢いで魔物たちは重圧に圧し潰されている。
 当然、空を飛んでいた魔物たちは墜落するし……落ちた勢いで、そのまま死んでいた。

「むむっ、これでもまだ耐えられる魔物が居るみたいだね。PKの人たちは……そっちの方は、ちゃんと全滅しているか」

 基本、美徳の武具っ娘たちは固定で種族が熾天使になっている。
 その仕様のお陰か、業値がマイナスの存在に特攻効果が勝手に付いていた。

 逆にプラスであってもクーたちに影響は無いので、ただ有利な性質だ。
 天使って理不尽だって、メルスは言っていたけど……元はメルスも天使だったよね?

「なら、容赦はしなくてもいいってことだから──“天国開門ヘブンズゲート”!」

 空に現れた神聖な光を放つ門。
 今までは[キュービック]を用いた魔法であったが、これはクーが元より有している天使系の種族が使える魔法。

 しかし、門を呼び出すだけでこれ以上の変化は起きなかった。
 あくまでも、この魔法は現象を引き起こすための下準備に過ぎない。

「第二天国顕界──」

 第二、それは形式的にナンバリングされたに過ぎない。
 数字が示すのは世界観の差、同時に世界が有する概念の多彩さ。

 天使、つまり神の御使いであるからこそ許された魔法。
 認識によって構築された、あるかもしれない天国が門の先にはある。

「──“第一界『王冠ケテル』”」


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