AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と砂漠の旅 その13
──歌い、踊り、舞い続ける……それだけが、生きる術だった。
彼女は『舞姫』呼ばれる遥か昔から、それらを繰り返している。
始まりは踊り子だった母親に憧れ、見様見真似で試した時。
気が付けば、その踊りに集まる多くの観客たち。
集まる金を見て、母親は彼女を褒めた……だから踊ろうと決めた。
母親の伝手で様々な事を試した結果、自分には歌と踊り、そして舞の適性があることを知る──舞台は路上から店の空きスペース、ステージの上と変化していく。
……だが彼女が高みを登っていくにつれ、母親は何もせずに快楽へ溺れていった。
そして最後には、彼女の下から唐突に消え去った──血の半分異なる妹を残して。
◆ □ ◆ □ ◆
??? ディザントの体内
顔に温いヌメヌメとしかモノが落ちてきたことで、俺の意識は覚醒した。
……メインの意識は落ちてしまっていたようだが、サブの思考が状況を把握している。
どうやらここは[ディザント]の腹の中。
超弩級の大きさだからこそ、何でもかんでも呑み込んでしまっても消化するまでに時間が掛かっているらしい。
俺、そして『舞姫』が呑み込まれた先には古代遺跡が在った。
遺跡の機構として組み込まれた結界の機能により、消化されずに残っているらしい。
「……ふむふむ、あの娘も立派に成長しているみたいだね。問題は、僕がここに居るからどうにもできないことだけかぁ」
本来の目的、サブ思考が確認していた少女の奮闘ぶり(in仮想空間)を俺も調べた。
すでに当初の予定通りの[ステータス]に達し、更なる成長を遂げようとしている。
予定では、この後『舞姫』と少女を再会させていろいろとイベントを予定していたのだが……彼女の暴走により、そういった俺的偽善はすべて無しにされてしまった。
頼れる武具っ娘の力に縋れば、こんな問題もあっさりと解決できるだろう。
……だが偽善とノリ、この二つを尊重してニーには帰還してもらっていた。
「っと、そうだった……距離を取っておいた方がいいね──ぐふふふっ」
おそらく、近づいたらそれだけで意識を覚醒させるだろう。
彼女の場所は『感網』で把握したが、今はあえて遠回りして移動している。
だが、実は警戒などされていても無意味。
これから自分が行うことに、一人少々見せられないような笑みとそれに伴う笑い声が。
「うん、このままだと僕がどういう目に遭わされるか分からないもんね。うん、だから仕方がない……不可抗力ってヤツだよ」
少し離れた場所で魔法陣を描く。
空間魔法もそうだが、暇潰しになるからとある程度の魔法陣は覚えたし、取得した魔法の全魔法の陣を[世界書館]に保管済みだ。
「よし、できた──“精霊召喚”」
『──』
「……やっぱり、何でも食べるってことは精霊すらも呑み込んでいたんだね。あのね、君にお願いがあるんだ」
すでに下級精霊になった契約精霊たちではなく、[ディザント]に呑み込まれていた微精霊に頼み事。
魔力をしっかりと支払うことで、畏怖嫌厭の効果を受けつつも引き受けてくれた。
ふわふわと漂い、『舞姫』の下へと向かう微精霊は──触れた瞬間に魔法を発動する。
「っ……!」
「あ、起きたみたいだね。ねぇ、調子はどうかな?」
「……最悪」
それは寝起きに魔法を感じ取って強制的に起きたからなのか、それとも俺がいっしょに居るからなのか……いずれにせよ、状況を把握した彼女はしかめっ面を浮かべていた。
「急に一気に虚脱感が出たのは……あんたの仕業よね?」
「そっ、“魔力線”と“脱力解放”。本当は僕の身力を全部外に出すっていう自爆技なんだけど……誰かと魔力の回路を繋いでおくことで、こういうこともできるんだ」
「……回復したら、真っ先に回路をズタズタにしてやるわ」
「──うん、そういうことはまず魔力が回復してから言った方がいいと思うよ」
俺の発言に違和感を覚えたのだろう。
すぐに体の調子を確かめて……彼女はあることに気付いた。
「……ねぇ、まだ何かしたの?」
「うん、そりゃあもちろん。だって僕、まだ死にたくないんだもん」
「あんた……この──ふぎゃ!」
急に立ち上がろうとした彼女は、突然勢いよく顔面から床にダイブ。
まるで、自分の体を上手く制御できていない……そういった挙動だった。
「あんまり無茶はしない方がいいと思うんだけど……分かりやすく言うと、今のお姉さんは魔法が使えません! ついでに言うと、魔力もずっと枯渇状態が続きます」
「……何ですって?」
「そういう魔法を刻みました。解除する方法はあるけど……現状、僕にしか使えません。そして、効果はほぼ永続です──ここまで言えば、僕が何を言いたいのか分かるよね?」
「くっ……殺すな、そういうことでしょ?」
まあ、実際には微精霊が発動させた魔法なのでそこまで長くは持たないのだが。
だが、彼女はそれを知らない、むしろ先ほどの説明でそれができると思い込んでいる。
「……ここから脱出して、妹を見つけるまでは殺さないでおいてあげる」
「ありがとう、僕の名前は…………いや、言うと指名手配されそうだから止めておくよ」
「そう、賢明な判断ね。知っているかもしれないけど、私の方も名前は呼ばないでちょうだい。妹を攫った相手に呼ばれても、殺意が湧くだけだから」
なんて会話をする俺たち。
果たして、ここからの脱出は可能なんだろうか。
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