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山田 武

偽善者と砂漠の旅 その12



 俺が連れ去った少女の姉、陽炎都市の女傑『舞姫』との戦闘。
 舞台は雨の降る都市から嵐の中、そして大砂海の果てへと動いていた。

 そして、俺が思っていた以上にシスコンかつイカれていたこの女。
 祈念者に渡すはずだった宝珠を、フィールドで解き放った。


「……イカれてるよ、本当に。僕一人のために、それを使うなんて」

「どうせ使いどころが無くて、持て余していたような物。あの連中に渡すことも考えていたけど……この場で使った方が、よっぽど有意義でしょ?」

「……ハァ、予定変更かな? まったく、どうしてこうも僕の計画って上手くいかないんだろう──“風移渡乗アクロスムーブ”」


 彼女の舞によって、今なお大砂海を横断する嵐に呑まれていた俺。
 だがここで、風属性のオリジナル魔法を発動──風の流れに乗った。


「うぷっ、三半規管が……まあでも、このまま脱出っと」

「なんて強引な……けど、もう遅い!」


 風耐性、魔法耐性、魔力耐性、衝撃耐性など様々な耐性を使い、嵐から抜け出す。
 酔いに関する耐性とか、まだ獲得していなかったな……なんて現実から目を逸らす。

 だが、容赦なく襲い掛かって来る現実。
 それは唐突に、地面から現れるのだった。


  □   ◆   □   ◆   □


 ──『砂喰蚯蚓デザートワーム』、という魔物が居る。

 その名の通り、砂を喰らうことで成長する魔物で、こと魔力を大量に含む大砂海において巨大な個体が頻繁に出現していた。

 だが、それも過去の話。
 祈念者がこの世界を訪れて以降、徐々に増加しつつあった魔物……だが大砂海においては、そういった出来事は無かった。

 それはとても単純な話。
 魔物が現れるために必要な要素を、ある一体の砂喰蚯蚓が牛耳っていただけのこと。

 結果として、その個体は唯一無二の強さを手に入れる。
 そして、世界もまたその功績を評価し──彼に名を与えていた。


  □   ◆   □   ◆   □


「──[ディザント]、アレを呼ぶなんて」

「本当に使えたのね……けど、これでもうお仕舞い。なんせ、一回切りだもの」

「……祈念者、怒るんじゃないの? たぶん向こう、複数回使えると思っているよ?」

「勝手に勘違いした方が悪いのよ。まっ、取れた場所は教えるから好きにすればいいわ」


 それは巨大なミミズだ。
 ただし、巨大と一括りにできるほど簡単なものではなく、その体は雲一つない空へ届くほどの異様な大きさ。

 元はレイドボス級の存在『砂喰蚯蚓』だったが、どこで得たのか莫大なエネルギーを糧として進化したのがこの個体。

 名を持つことからも分かるように、ネームド種だった──今はユニーク種だ。
 そりゃあその巨体で動くだけで、大半の存在が一瞬で潰えるから当然である。

 経験値はがっぽり、ブクブクと膨れ上がった体の維持に回されていることだろう。
 ……そしてそんな個体を呼び出せる、正確には砂喰蚯蚓を呼ぶ魔道具があった。

 宝珠型のそれは、特定の波長の魔力を生み出し砂喰蚯蚓を誘因する。
 かつての個体もまた、その波長に釣られてこの場に降臨した。

 今頃、祈念者たちも気づいただろう。
 街から遠く離れたこの場所で、自分たちが手に入れるはずだった報酬が勝手に使われていることに。

 平時であれば、体の一部しか出現させない[ディザント]。
 しかし誘引された場合は、頭部を中心に砂から出てくるので戦闘にも最適だった。

 きっと、そのうちここに来るだろう。
 だが、その時間をただ黙って待っていられるほど現状は甘くない。

 ──『舞姫』が舞い、歌う。

 その光景はとても幻想的で、目を惹かれるものだった。
 ……ただしそれは意図して、かつ魔物である[ディザント]に向けてのものだが。

 嵐を生み出す踊りは終わり、次に魅せるのは巨大な怪物との共演。
 呼ばれた理由も分からず、地平線の彼方を見ていた[ディザント]が──彼女を見る。


「『演目・引魔の舞』、『曲目・幻想曲:魔笛の響く夜』」

「不味ッ──“飛行フライ”!」

「残念、遅いわ──『戦踊・対踊演擬』」

『──────ッ!!』


 彼女に向いていたはずの視線が、なぜか俺へと向けられた。
 そして、[ディザント]が動き出す──俺という存在を体内へ収めるために。

 聞いた話によると、[ディザント]はその巨体で何でも呑み込むらしい。
 中には、かつて存在した古代遺跡なども含まれているとのこと……雑食過ぎるな。


「あーもう、空間魔法はまだ習得できてないのに!」

「……そんな伝説級の魔法、使われていたら危なかったわね。良かったわ、そうなる前に死んでくれて」

「うぐぐ……」

「呑まれた後、責任を以って祈念者たちとコイツは倒しておいてあげる。まあ、その頃にはとっくに死んでいるでしょうけど…………ねぇ待って、なんでこっちに来るの?」


 空を飛びながら逃げ惑っていた俺だが、少しずつその方向を『舞姫』の居る場所へ。
 俺のやろうとしていることに気付いたのだろう、すでに腰が引けている。

 狙いを定めた[ディザント]が、首を長く伸ばして俺を食べようとしていた。
 俺たちはその陰で、必死に未来を変えるべく抗い続ける。


「こうなったら、死なば諸共! 二人でいっしょに呑まれようよ!」

「ふざけんじゃないわよ! 心中なんて絶対にご免なんだから!」

「死にたくないのは同じだ──“闇幕渡航モバイルカーテン”からの、“魔力線マジックライン”と“脱力解放ベント”!」


 陰を利用し、俺は突然彼女の背後へ。
 オリジナル魔法だったからこそ、その兆候に気付けなかった彼女は俺に触れられた。

 その瞬間、強制的に魔力回路を擬似接続。
 本来、俺の体内から身力を根こそぎ放出させる“脱力解放”の効果に、彼女もまた対象として含まれた。


「ッ……あ、んた……」

「ぷくくっ。死なば諸共、成功だね」

「~~~~ッ!?」


 力を文字通り出し切った俺たちは、二人仲良く意識を失う。
 そんな脱力した肉塊を、[ディザント]は容易く平らげるのだった。



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