AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と砂漠の旅 その09



 ──『サイバーワールド(β)』。

 かつて、夢現祭りにおいて出品した神器の一つ。
 子機からアクセスした者を取り込み、仮想空間内での経験を現実に反映できる装置。

 言うなれば、現夢世界の一部機能特化版とも言えよう。
 ただし、これの運用にはアイリスの固有スキルが必須だ。

 そのため、現状ではアイリス──あるいは固有スキルを複製した俺や眷属たちが存在していないと、『サイバーワールド(β)』はいずれ使えなくなるだろう。


「それにしても、こちらの神器……かつて、とある祈念者の方が出品されたという装置ですね。我々としても原理を探るべく、一つ装置を得ようとしたのですが……転売対策が念入りに行われておりましてね」

「神器だもんね、その辺はきっちりしていたみたいだね」

「……お陰様で、しばらく会頭が不貞腐ってしまい大変でした。いずれまた、販売されることを心からお祈りしておりますよ」

「あ、あはは……そうなるといいね」


 仮想空間にアクセスするための子機の数は限られており、追加で作ってはいない。
 今はまだ試作段階、完全版にするべく情報収集を行っているところだ。

 今、少女が使っているのはβ版よりは幾分かマシなα版。
 そちらは眷属も使った特別版なので、先に作られていながらより性能が高いのだ。

 今は擬似的な迷宮の中で、分裂させた意識と共に特訓をしている。
 一瞬、そちらを確認してみたところ──すでに精霊たちを自在に操っていた。


「うん、順調みたいだよ……それよりも、外の様子はどうかな?」

「はい。お客様の予想通り、『舞姫』が動いております。報酬として例の品を提示し、祈念者たちを動かしております」

「……やっぱり」


 例の品、それは英雄的行いをした彼女がかつてドロップさせたアイテム。
 それを使うことで、意図したタイミングで大砂海の魔獣を呼び出すことができる。

 当然のことながら、呼び出すだけで制御などはできないので懐柔はできない。
 それでも、レイドボス討伐を望む祈念者たちにとっては、羨望のアイテムである。


「えっと、それを渡す条件は?」

「彼女の妹を無傷な状態で、そして攫った少年の首を持ってこいとのことですね」

「……僕、祈念者だから首だけのお持ち帰りはできないんだけどね」

「祈念者の場合、神殿での蘇生を確認するようですよ」


 まあ、それもできないので意味無いな。
 殺される筋合いも、ましては妹を現状で差し出すつもりもない──生き残るため、思う存分抗おう。


「おや、お客様……どちらへ?」

「少し、掃除をね。その間、この子をしっかりと見ておいてくれるよね?」

「ええ、お任せを。外出には、そちらの転移陣をご利用ください。中央の転移門と繋げておりますので」

「うん、ありがとう。ディーも、頼むよ」

『♪』


 堂々と凱旋……というわけでもないが、Z商会との繋がりは隠せるはず。
 少女の方を一瞥し、俺は敵が待ち受けるであろう街中へと向かうのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「やっぱり、かくれんぼは相手が居る方が捗るよねぇ」


 俺が行っていること、それは多くの祈念者たちを利用してのスキルレベリング。
 これ自体は現夢世界でも行ったが、今回はスキル自体にその影響が出る。


「抜き足、差し足、忍び足……これ、全部スキルになるんだね」


 移動中の歩行に気を使っていたら、これら三つのスキルを獲得した。
 間違いなくネタスキルの類だろうが、その効果はかなりのもの。

 抜き足と差し足は歩く際に必要な技術、そしてそれをバレないように行う忍び足。
 その三つを同時に行使することで、隠蔽の補正率が飛躍的に向上するのだ。

 創作物で定番な、ハズレと思われていたスキルが当たるアレだろう。
 まあ、祈念者はスキルに枠という制限があるので、苦労しそうではあるが。


「僕の優位性はこれだよね……祈念者だから見れるスキルリスト、そしてそうじゃないからこそできる無限のスキル習得。まあ、その分だけ成長速度が遅いから、全然育ってないわけだけど」


 単純な話、スキルの保有数と合計レベルが高ければ高いほど成長率は落ちる。
 なので縛り時の俺のスキルは、総じてそこまでレベルが高くない。

 重ねて言うと、コンボが前提だからこそ組み合わせた際の燃費が最悪だ。
 自然回復量が足りなくなる場合も多く、今回のようにディーに任せることも多いな。


「ディーも居ないし、今は自然回復量を増やせるポーションでどうにかするけど……長くは持たないかな?」


 空き家の扉を閉めては開け、開けては閉めての繰り返し。
 それにより、開錠と施錠のスキルを獲得する……行動経験が溜まっていたのだろう。

 また、現夢世界での影響が反映され、他にも探知耐性や罠利用スキルなども得られた。
 ……探知の耐性ということは、つまりそういうことなのだろう。


「探知耐性、効果は探知の部分的無効化。現状だと、逆に怪しまれちゃうかな?」


 成長させれば都合の良い改竄などもできるかもしれないが、少なくとも今は探知結果に空白な場所が生まれてしまうらしい。

 一か所だけそんな場所があれば、怪しまれることなど火を見るよりも明らか。
 それはそれで使えるので、後で使うことにするが──今は潜むことに専念する。


「そうだ、魔法陣でも書いてスキル習得を試みようかな? 空間魔法、そろそろ覚えておきたいし」


 何度もその属性魔法を使っていると、スキルを習得できることがあるらしい。
 なのでお金持ちなどは、子供の頃から魔道具などで使用して習得を試みている。

 ──なんてこともまた、『誰でもできる簡単スキル習得本(完全版)』に載っていた。
 それを参考にするべく、俺は空間魔法の魔法陣を描き続ける。



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