AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と砂漠の旅 その08



「『──』ッ!」

 檻が立ち並ぶ地下の空間、そこへ繋がる扉が凄まじい衝撃と共に抉じ開けられた。
 飛び出してきたのは短剣を振るう女性、勢いのままに乗り込んだままに叫び続ける。

 それは女性の妹の名前、目を離した隙に攫われてしまった──彼女唯一の弱点。
 取り戻すため、見知らぬ旅人たちの力をも借りて彼女はここに辿り着いた。

「──! ──! ……どうしてここに居ないの!?」

「そ、そんなはずは……たしかにここだと、情報が──」

「そんなことはどうでもいい。ねぇ、ここにとても可愛い女の子は居なかったかしら? 私と同じ黄色い髪と目の女の子よ!」

 情報を集め、伝えていた祈念者は不味いと冷や汗をかく。
 情報は間違いないはずだった、だというのにこの場には居ないという。

 この[クエスト]の成功条件は、彼女──『舞姫』の妹を見つけ出して会わせること。
 もしそれが叶わず失敗してしまえば……最悪の事態が起きかねない。

 そんなことを考えていた祈念者だったが、彼女が問いかけていた檻の中の子供が、核心的な情報を話すのを耳にしていた。

「そ、その女の子なら──」

「! 見たのね、ここに居たのね!?」

「う、うん……その子なら、変なヤツといっしょに出てったよ。えっと、たしか──」

「どこに、どこに行ったのよ! 早く言いなさい」

「お、落ち着いてください! その子も話しづらいじゃ──ッ!?」

 少年の肩を揺さぶる女性を止めようとした祈念者……だが、触れる寸前、祈念者の首に突きつけられた短剣。

 ここに来る道中、ずっと見てきたからこそ分かる。
 ほんの少し動かされただけで、どれだけレベルを上げていても殺されることを。

「ここを見つけ出したことは感謝している、だからこそ寸止めしたわ。でも、それ以上はダメよ……許容できないわ」

 躊躇い、後退る祈念者。
 それでも言葉自体は伝わったようで、少年から手を放す。

「けほっ、けほっ……アイツらは、向こうの扉から出ていったよ。あと、伝言も……」

「伝言、何で言わなかったの!?」

「ね、姉ちゃんがそうやるからだよ! も、もし姉ちゃんがそんな風にするなら言わなくていいって、妹にも言われてんだぞ!」

「ぐっ……分かったわよ」

 妹からの伝言、その言葉に再び揺さぶることを諦める。
 すぐに情報を吐かせたい、だが周囲の者も知らなさそうなのでどうしようもなかった。

「ま、まずは妹といっしょに居たヤツからの伝言──だ、だって先に言っておかないと、絶対に聞かないって言われてるんだぞ!」

「…………チッ」

 事実、そうするつもりだったので、何も言えず舌打ちをする。
 大切なのは妹からの伝言であり、それ以外聞くつもりなど無かったのだから。

「分かったわ、早く内容を言いなさい」

「──『迷惑を掛けたくないみたいだから、代わりに貰っていく。そのうち会おう、場所は妹の伝言で分かる』、だって──ヒッ!」

「…………」

 もう何も言わず、短剣を構えた。
 このままでは不味いと、少年はすぐに彼女の妹からの伝言を思い出す。

「『お姉ちゃ──」

「……はぁ?」

「で、伝言なんだから仕方ないだろ! えっと……『お姉ちゃん、ごめんなさい。わたしは、お姉ちゃんの弱点だから。お兄ちゃんといっしょに行きます。なんだかお姉ちゃんみたいで安心できるから大丈夫』、だってさ」

「…………それで、場所は?」

「さ、さぁ? これで全部──うぐっ」

 こめかみをピクピク痙攣させ、それでも残された僅かな理性が少年への対応を殺害から気絶程度に収めた。

 まだ何か情報を持っているかもしれない、そう思い祈念者に押し付ける。

「全部吐かせて。その情報が確かなら、例の報酬は用意するわ」

「わ、分かった」

「……チッ、具体的な容姿をまだ聞けていなかったわね。それぐらいなら、ここの他の連中でも分かるか」

 ──だが、それを知る者はこの場に独りも居なかった。
 更なる怒りを溜め込み、彼女はこの場から出ていく──その道先は破壊され続ける。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 先ほどまで居た場所で破壊音が続く。
 やはりあの後、実力者が誘拐された者たちの救出に来たようだな。

 おそらくは『舞姫』、俺と共に居る少女の姉だろう。
 詳細な情報は分からないが、妹のためなら何でもするシスコンということは分かる。


「まあ、今は君の特訓の方が大事だね。場所の準備、ありがとうZさん」

「いえいえ、この程度でしたら容易いこと。それよりも、彼女が『舞姫』の妹ですか……ええ、大変興味深い」


 俺と少女はZ商会に匿ってもらい、そこで少女の特訓を行っていた。
 まずは視覚で把握させた精霊たち、彼らとのスキンシップを取ってもらっている。

 見た目は普人だが、精霊との親和性が高いようだ。
 他にも回復や支援など、どちらかと言えば後衛としての才に恵まれていた。

 だからそれを伸ばす。
 具体的にその後を決めてはいないが、一つだけ決めていること──彼女の願いを叶えるという指標を基に動いていた。


「ねぇ、できると思う?」

「できますとも。我々も、全力で支援させていただきますよ」

「うん、お金で解決できることなら、全部やるから任せるよ」


 そんな俺たちの会話も耳に入らないほど、少女は意識を集中させている。
 周囲に精霊を漂わせ、彼女は魔道具に手を当てて眠っていた。



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