AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とシ刑 前篇



 夢現空間 礼拝堂


 ──嗚呼、前にも同じ光景を見たなぁ。
 

 現実逃避気味にそう考える。
 周囲から向けられる厳しい視線。
 眼前で座る者たちからの圧は強く、本来の高低差を超えて見降ろされているようだ。

 周囲にはプレートが置かれ、それぞれ陪審席だの裁判官だの、検察官などと記されている──そこに、弁護士という文字は無い。


「──えー、それではこれより、大罪人メルスの裁判を始めたいと思います。司会というか裁判長は、アリィが担当するよ。みんな、よろしくね」

「裁判長、俺は無実だ! というか、被告人であって罪人じゃない! 勝手に確定するんじゃない!」

「はいはい、被告人はお静かにー。じゃないと、すぐにでも刑が執行されちゃうよ」

「──あら、そっちがお好み?」


 後ろで剣をスッと抜こうとする、世界最高峰の剣士ティル師匠。
 ……断罪程度に、そんな崇高な獣聖剣は不要じゃありませんかね?


「貴方なら斬るに値する、そう言って昨日から騒いでいるのよ」

「……弁護人、弁護人を所望する」

「はいはい、その辺も説明するからイチャつかないの。こほんっ、弁護士は居ません。ついでに要りません。どうせメルスのことだから、ご褒美で釣ろうとしているのがバレバレだから準備しませんでした」

「……本当にそう考えていたみたいね」


 ティルは特殊な瞳の力で、人の思考を読み取ることができる。
 俺としては会話が楽だと思うが……くっ、こういうときは不便になるな。


「……それでも、不便程度にしか思わない人はなかなか居ないわよ」

「だーかーらー、イチャつかないの! いっそティルも、イチャラブ罪で裁いてあげようかな!?」

「はいはい、分かったわよ。構ってもらえないからって、そんなに拗ねないの」

「なっ……そ、そんなんじゃないんだから。ほ、ほら、さっさと裁判を始めるよ!」


 アリィの反応に思わずほっこり。
 なお、彼女の二重人格であるアリスは、サポートをいっさいしないで陪審席に座っていた……うん、とても愉しそうな顔だ。

 どこからか念話で指示を受けつつ、アリィは裁判長としての責務を果たす。
 そんな彼女から、検察官へ罪状を言い渡すように伝えられた。


「じゃあ、検察官。罪人の罪状を」

「おう、検察官のチャルだ。とりあえず、シ刑にするってことで」

「……ちょっと待っ──」

「被告人、静粛に。じゃあ、弁護人……も居ないから仕方ない、やっぱり被告人が直接意見していいよ」


 チャルの発言、死刑か私刑かと謎に思ったのだが……[ログ]を見たら、そのどちらでも無いときた。

 いやまあ、どちらにせよ最悪死ぬような目に遭うわけだけども。
 逆に先を見通せない内容だからこそ、怖くなってくる。


「そのシ刑って、具体的にどういう罪状になるんだ?」

「アンタが考えているのは、殺す方の死刑と私的な制裁って意味の私刑。それに加えて、いろんな意味があるから一纏めにしてシ刑ってわけだな」

「だから、その内容を──」

「はーい、そこまで。隠してあるからこそ、それも面白いんでしょ? それじゃあ、そろそろ判決行っとく?」


 庇ってくれる者が居ないため、そのまま流れるように判決へ。
 ──結果は当然、シ刑というよく分からない罪状になるのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 修練場


「…………」

「よし、次はアタシがやるよ!」

「次は儂がやらせてもらうぞ。せっかくご主人が望む通りに戦わせてくれるのだ、あんなことからこんなことまで……ぐふふふっ」


 償いのため、最初にやらされたのはエンドレスで眷属との模擬戦を行うというもの。
 挙って参加する戦闘狂集団、普段なら子頻度で逃れるのだが……今回は強制だ。


「チャルが相手か……なら、『天魔創糸』でお相手するよ」

「マジもマジじゃねぇか……」

「そういう注文だからな、ついでにこっちもだな。略式で省いて──“機闘魂魄ソウルメカラチオン”」

「はっ、上等だ」


 相手に合わせて魂魄を纏い、相手の戦闘スタイルに自作の武器を交えて戦っていた。
 チャルであれば超近接戦闘による、格闘技で戦うことになる。

 使うアイテムは『天魔創糸』。
 かつて神気も練り込んで編み込んだその糸は、俺の生み出すあらゆるエネルギーを減衰無しで通すことができる。

 そんな糸を全身に巻き付け、擬似的な鎧として用いた。
 俺の意思に応じ、伸縮自在かつ柔硬さに富むパワードスーツとして機能する。


「チャル、全力で来いよ」

「言われなくとも──『仮構:スプリットセコンド・クロノグラフ』!」

「……仮のヤツまで使うのか?」


 魔導機人──特殊な機人族である彼女に、俺がいくつか仕込んだ特別な機構。
 技術的な観点から未だ未完成の物が多いのだが……今回、その一つが起動された。

 スプリットセコンド・クロノグラフ。
 要はストップウォッチの機能を内包した時計のことなのだが、それを模した機構によって彼女は──


「二重加速!」

「なら──“時間加速クイック”!」


 突然体の動きを速めるチャルに対し、俺は魔法で自らの時を進めて対抗。
 ……が、それでも彼女の方が速い──それもそのはず、彼女は二重で加速している。

 主観速度、そして世界の時の流れを同時に速めることができる例の機構。
 時を進めつつ、止められる……そこから発想を得たものだ。

 時魔法で加速できるのはあくまで自らの時間のみ、世界ごと時の流れを干渉するのであればより上位の魔法が必要になる。


「そして──“時空高進アクセル”!」

「これで対等か……じゃあ、ヤろうか!」

「俺の方が消耗激しいんだけどな……まあいいや、それをチャルが望むなら!」


 そんなこんなで、名ばかりの模擬戦をひたすら繰り返す。
 それでもまだ、シ刑は続いていく……いつになったら解放されるのやら。



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