AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と現な夢 その14



 カナタに任せたら勝ってくれました。
 ただのTS褐色エルフなのではない、そう知らしめてくれる。

 ともあれ、これで英霊との賭けには俺が勝利したわけなのだが……うん、これまで思い通りに行ったことって、そう無いよな。


「──勝ちました! カナタさんが勝ってくれましたね!」

「…………」

「あの……メルスさん?」

「俺の経験上、結局こうなることの方が多いからな──“迅加変速ギアヘイスト”」

「何を……っ!」


 足りない膂力を身体強化で補い、今回の強化魔法で速度を重ねる。
 どうしてそんなことを、そう考えたリリーの表情が一変した。

 それは来訪者の一人が降り下ろした刃。
 狙いは俺、殺気を警戒スキルと技術の一つである『感網』で擬似的に感じ取り、その攻撃を防いでいた。


「それで、お前は何がしたかったんだ?」

「……悪いな、アンタを殺ればいい報酬が貰えるんだよ」

「そっか。なら、仕方が無いな。俺もお前も仕方がない、だから俺がこうするのも仕方が無いことだ……リリーさん?」

「…………はい、来訪者同士の諍いを止めることはできません」


 そもそもそれができるなら、この決闘騒ぎも無かっただろうからな。
 カナタの方をチラリと見ると、向こうもこちらを見ていたのでアイコンタクト。

 頷いてくれたところを確認し、俺は再び攻撃してきた来訪者に相対する。
 今の俺はそこまで強くない、だが武具だけは塗料でしっかりと強化されていた。

 相手はしっかりと職業に就いているようなので、それなりに強くはある。
 だが、それでも装備品とさまざまな技術を複合することで食らいついていく。

 今回、同伴者の夢魔が動くことは無い。
 夢魔が動けば、それは自動的にリリーが動くことを許容する──『夢幻』が動く、その危険性を夢魔たちも把握している。

 ゆえに俺がやるべきは、身体強化を喉に集中させて行う拡声。
 声を向ける先は当然──夢魔たちに囲まれた英霊様だ。


「なあ、これはお前の仕業か?」

「……んなわけないだろう。俺様が、自分の言葉を覆すようなことしてたまるか!」

「なら、こりゃあいったい……」

「知るか! とりあえず、お前は自分の女を守れ! 俺様から奪ったんだ、その責任を取れよな!」


 おっと、またリリーが恥じらいを……。
 俺との会話で来訪者の動きが、少なくとも賭けを行った英霊の・・・・・・・・仕業では無いと把握することができた。

 この言い回しから分かると思うが、この世界に居る英霊は独りではない。
 そりゃあアイと同じぐらい存在しているのだから、英霊だって集まっているさ。

 それでも英霊からのお墨付きを貰ったわけだし、利用しないわけにはいかない。
 とりあえず、彼や夢魔たちが動くことは無いと分かった──ゆえに舞台へ降りる。


「リリーさん、行きますよ」

「ぐっ……ま、待て!」

「えっ? あ、あの……」

「悪いな、事情がよく分からんからとりあえず逃げる。お前を尋問したって、どうせロクなことは聞けないだろう? だから、今はさよならだ──“閃光フラッシュ”!」


 来訪者の武器を弾き、体を蹴り飛ばして距離を確保。
 そのままリリーの手を掴むと、周囲の視界から逃れるように目潰しの魔法を発動。

 俺たちは舞台に降りる、その足元に再び決闘中と同様に魔法陣が構築される。
 カナタが展開した罠魔法、転移罠が起動したのだ。


「あの、これは……!」

「一先ず、ここは逃げるぞ。カナタなら大丈夫、アイツは独りでもなんとかなる」

「……本当に、信じておられますね」

「まっ、そういうことだ。リリーさん、今は逃げるのが正解だ。アイツにも言ったが、事情が分からない。それを把握することが、大切になると思う」


 眷属印も同じ世界に居れば、しっかりと機能していたので問題ない。
 念話での連絡はもちろん、最悪カナタの能力を借りて問題の解決に従事しよう。

 だが、それは最終手段。
 転移が本格的に起動して、俺たちをここでは無いどこかへ連れていく。

 ──さて、どうしたものか。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 罠によって転移された先は、カナタを呼び出した建物の中。
 カナタの転移罠は、あくまでアイツが把握している場所にしか飛ばせないからな。


「大丈夫ですか、リリーさん?」

「は、はい……」

「すぐに対策をしておかないとな。すぐに魔術で隠す──“秘密ノ隠室ミステリーハウス”」


 今は魔術デバイスを持ち合わせていないけれど、魔術は純属性の魔力があれば行使することができる。

 魔力を制御し、必要な術式を脳内で編み出して発動した“秘密ノ隠室”。
 空間に穴を開けられる魔法だが……今回は別の使い方をする。


「この建物そのものを、魔術で隠した。存在自体は認識できるから違和感は無いが、内部の情報を探ったら誤情報を掴むようになっている。何かあれば、ここに居ればどうにかなるだろう」

「メルスさんは、何をしますか?」

「とりあえず、俺なりに情報収集を。まっ、死んでも俺たち祈念者はどうにかなるから心配しなくていい。それよりも、リリーさんがどう動くのかが重要だ」

「……こうなっては、私も『夢幻』としての責務を果たさねばなりません。こうなったのも、すべては私が表に出たが故の問題……これは必要なことです」


 そうして、俺たちはやるべきことを確認し合う。
 お互いに、問題解決のために動くことを決意し──再び外へ出るのだった。



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