AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と魂魄確保



 夢現空間 研究室──検証室


 先祖返りの真祖が復活し、就職活動を娘に強要される……そんな一日だった。
 まあ、第一世界の国家リーンには、多種族対応の仕事があるので大丈夫だろう。


「かくかくしかじか……はい、これが回収してきた『血魅冐霊[ペウラヌ]』の魂魄だ」

「おおっ! さすがはメルス、やはり実験は成功したようだな!」

「俺、というかリーの活躍がデカいからな。あとでちゃんと感謝しておいてくれ」

「ああ、するともするとも! こうして魂魄の輝きを、留めておけるようになったのだからなぁ!」


 帝城内で発生し、そのまま俺とメィによって討伐されたユニーク種。
 結果、マイク型の特典となってメィに贈与された個体の魂魄が、夢現空間に有った。

 それはなぜか──討伐直前、俺が掛けた魔法“落加流吸”の効果だ。
 そして、その魔法の開発者こそ、我が家におけるポンコツ担当のリーである。


「呪い云々の応用から、リソース回収に干渉してその一連の動きを停止。一部を拝借しても支障が無いという、いろいろと訳が分からない魔法を創ってくれたんだしな」


 いちおう、ネロでもその場に居ればできなくもないことだ。
 しかし、逆に言えば居なければできない、ある意味特殊な作業だったと言えよう。

 しかしこれからは、夢現魔法を習得している眷属全員がこれを使うことができる。
 特典を得られる固有種の魂魄、それはどれだけあっても困らない価値があるからな。


「[コウジュコウ]の魂魄を解析し、すでに法則性は調べ上げてある! すぐに複製も完成させてやる!」


 かつて、俺とネロが訪れた北奥で遭遇したユニーク種『皇蓋呪蝗[コウジュコウ]』。
 その際もまた、ネロは魂魄を自らの手で回収していた。

 その魂魄は長期的に解析を行われ、ユニーク種の仕組みを知るために利用される。
 ……まあ、元より人造固有種を何度も生み出して試していたけどさ。

 そして、複製した人造の固有種たちを眷属に倒させて特典を何度も入手していた。
 ただ一つ、一度確定した特典は固定のままだということ以外は、何ら問題ない。


「そうそう、他の祈念者の体もいくつか確保してあるけど要るか?」

「すぐにくれ!」

「おっと、危ない……興奮し過ぎだぞ」

「むぐっ、すまない……メルスのように、すぐに鎮静化できるようにした方が良いかもしれんな。だが、それでは感情に伴う魂魄の輝きを調査できなくなる……こうも感情を、必要と思えるようになるとはな」


 もともと、魂魄への執着以外の想念を持ち合わせていなかったネロ。
 だが今は、元アンデッドとは思えないほどに明確な自我と豊かな感情を有している。

 感情を共有する指輪を装備させたり、途中で種族に聖属性を与えたり……いろいろやってきた結果なんだろうけども。

 他者の魂魄を収集し、そこから自らの求める真理へ辿り着こうとしていたネロ。
 だが自身の魂魄の変化、そして何度でも試せる魂魄──祈念者の魂魄が見つかった。

 何度使っても困らない便利な実験道具もあり、何より眷属の補助もある。
 かつてより進めていた魂魄の研究を、格段に進めることができた。

 だからこそ、彼女が感情へと抱く認識が大きく変わっている。
 ……少なくとも、かつてのように意味なく魂魄を弄繰り回すことはしないだろう。


 閑話休題つごうのよいオモチャ


 ネロにとって、眷属が創り上げた魂魄に干渉する魔法はまさに必需の物だったはずだ。
 世に蔓延る祈念者、そして固有種などの特殊な存在を弄るための魔法なのだから。

 彼女が研究を重ね、それらの複製に成功することは俺たちにも利があるということ。
 ゆえに成功を信じて、外部で得た魂魄を彼女へ供給しているのだ。


「──“祈賤失墜”、“再回粒帰”、“落加粒吸”に“還魂相採”……。まったく、これらの魔法があるだけでも、ここに居る意味を得てしまうものだ」

「なんだ、じゃあそれが別の場所にあったらそっちに行ってたのか?」

「……そういう意味ではない。だがまあ、殺してでも奪い取る、という言葉があったな。それと、だな…………ここは居心地が良い、わざわざ離れる必要性は感じぬな」

「そりゃあ良かった。これからも、眷属たちが離れたくないような環境づくりを心掛けていくさ」


 俺自身に魅力など無いだろうから、それ以外に要素で補わなければならない。
 そして、俺もまた彼女たちに尽かされないよう……欲塗れでも行動を続けていく。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 今まで俺も存在を知らなかった検証室の中で、行われる少々非合法な確認。
 今回の件で獲得した祈念者の肉体を使い、複数のテストを行っていた。


「やはり、器が重要であろう。『機巧乙女』であれば、その条件を満たしている。だが、眷属のすべてがそれに耐え得る器を有しているわけではない」

「……その辺はどうなっている?」

「リオンの協力で、器の構築自体は可能であろう。だが、邪神の神気ということで何らかの影響が出る可能性は高い。これらの死体をリオンに再構築してもらい、どういった変化があるのかを確認しておきたい」

「まずはそこからか。よし、足りなかったらすぐに言ってくれ。アレの方も、いちおうどうなっているか確認しておく」


 ネロに任せているのは、祈念者という万能の器を解析してのある実験。
 それが上手くいけば、俺も眷属も更なる安全を得ることができる。

 だが、まだまだ机上の空論に近く、完成には程遠い。
 それを少しずつ現実にするため、俺はある場所へと向かうのだった。



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