AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と供血狩り その03



 メィ(別行動)と行う帝城への潜入。
 俺は縛りとして小さな十字架を握り締め、警備員として雇われた祈念者を蹂躙中。

 畏怖嫌厭の邪縛が、俺を明確な抹殺対象として逃げる余裕を与えない。
 精神耐性がある者は抗おうとするが、そういった者は優先的に排除している。


「どうした、この程度か? なら、祈念者というのも案外大したことないんだな……いや違うか。大したことのない連中だから、寒空の下で慎ましく仕事をしているのか」


 考えたことをそのまま口にしただけなのだが、彼らにはかなり刺さったようで。
 怒鳴り声をあげることも無く、ただ無言で強力な技を放ち出す。

 ……まあ、[ウィスパー]で俺だけに伝わらないようやり取りをしているのだろう。
 残念なことに、それは視線の先を把握するだけで分かってしまうからな。

 向こうも向こうで考えているようだが、それを待ってやる道理など無い。
 先ほど同様、十字架を銃のように握り締めると、魔力の弾丸を射出していく。


「俺はお前らと違って強いからな、分かりやすく説明してやるよ。この十字架は特別性、持ち方次第でいろんな武器の真似事ができるわけだ。射程が短いのが難点だが、俺ぐらい強ければどうとでもなるわけだな強いから」


 何度も強いと強調していると、黙っていても分かる苛立ちを感じ取れた。
 だが言っていることはすべて本当だと理解したのか、表情が真剣みを帯びている。

 相手がわざわざ手の内を晒したのだ、有効利用しない方がバカだろう。
 彼らが悩んでいる間に、俺は持ち手を下の長い部分に切り替え──近づく。


「そしてここは杖だ──“聖獣ホーリービースト”」


 十字架なので、使うのは聖属性の魔法。
 そして発動した魔法は、異なる属性で存在する魔法を改変した──いちおうはオリジナルに該当する代物だ。

 擬似的な従魔を魔力によって構築する魔法は、聖なる気配を纏った魔力生命体を作り上げ祈念者たちに牙を向けさせる。

 自由民であれば聖性に驚いたかもしれないが、基本的に無神論者の彼らは属性と事象のみを適切に判断し、即座に迎撃を始めた。


「まだまだここからだぞ──“速度強化スピードアップ”、“強化ビルドアップ”、“活力バイタライズ”、“闘争ファイティング”」

『!』

「おいおい、使えないわけないだろう? こちとらわざわざ十字架を握っているんだ。それっぽいことぐらいやらないとそう見えないだろ──“祝福ブレッシング”と“蘇聖リバイバル”も追加だ」


 聖属性の擬似従魔──擬似聖獣は多重のバフによって、一気に強化される。
 元よりレベルの高い俺が生成したので、かなり強いのにそれをさらにブーストした。

 実力者が集まれば決して倒せないわけではないだろうが、それでも甚大な被害が出る。
 何より、擬似聖獣にだけ意識を向けていると死角から魔弾に襲われるからな。


「おっと──“回聖ホーリーヒール”。うちの可愛いペット虐めて、何が楽しいんだよ」


 おまけに俺が回復もするので、擬似聖獣もなかなか倒せない。
 数十人居た彼らが片手の指で数えられるほどになった頃、俺は十字架を首に戻す。


「もういいだろう? 俺も飽きたし、お前らも弱かったらそんなに数を減らした。これ以上、いったい何をするんだよ」

「ふざけんな! 強けりゃ何をしてもいいっていうのかよ!」

「──当たり前だろ? だからこんなことをしているし、一方的に虐めている。仮に俺に正当な理由があれば、お前らはここを通してくれたのか? 無理だろ……権力、要は力で捻じ伏せようとするだろうよ」


 だから俺はより強い力──暴力で抗った。
 そしてそれに抗いたいのであれば、更に強い力を用意すればいいだけの話……彼らにはそれができなかっただけのこと。


「まあ、強いってのはその分選択する権利があるわけなんだけどもよ。ある意味俺は優しいと思うぞ、これから帝城で起きる面倒ごとにお前らを巻き込まないんだからよ」

「何を言って……」

「祈念者なんだから、[掲示板]でも見て把握しろ。それじゃあ、さっさと死んでこい」

「待っ──」


 指を鳴らすと、俺の会話相手の前で待機していた擬似聖獣がその牙を突き立てる。
 そして、擬似聖獣もまた消滅する……もう狙う相手がここには居ないからな。


「あー、こういうときはなんて言うんだったか? ……まあいいや、アーメンっと」


 首から下げたまま、十字架を握り締めて適当な祈りを唱える。
 死を慈しむわけでも、神に感謝するわけでもない……ただのルーティーンだ。

 今回の縛りは十字架を使い、そしてその使い手っぽい振る舞いをすること。
 なので使えるのは聖職者っぽい魔法、それに護身用の武術ぐらいだ。

 要するに武技は使わず、十字架の機能と魔法のごり押しだけで帝城へ挑む。
 中で待つであろう強者相手に、それだけで挑むのは困難……なので一つチートがある。

 そう、普段と違って能力値が高い。
 設定的には神の寵愛が凄いから、いつもの一般人を装ったスペックだと勝てない相手ばかりだろうからな。


「さてさて……祈りも済ませたし、行くとしますか」


 この行いで報われる者など一人もいない。
 ただのエゴ、偽善同様に救いようのない行為を重ねていくのだった。



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