AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と供血狩り その01



 第一世界 リーン


 その日、俺はある家庭を訪問していた。
 母一人娘一人、いわゆる母娘家庭なのだが一番の特徴は……母親が拘束具塗れで、特に目の辺りを徹底して覆っている点だろうか。


「二人とも、久しぶり」

「あっ、メルスさん!」
「あらあら、ようやく来たのね」

「悪いな。帝国の様子は探っていたが、かなり徹底して血の情報を隠していたみたいで。あと、領地巡りが面倒で──っと」


 血、それはたった今自らの影から無数の武器を生やした母親──ペフリのもの。
 帝国は彼女から血を抜き取り、それを自分たちの強化に利用していた。

 俺は地下に封印されていた彼女を解き放った後、その血の回収を約束した……のだが、前に回収してからそれなりに経過している。

 それはさまざまな場所で偽善をエンジョイしているため起きたこと、決して帝国が特殊な方法で隠しているとかそういうわけでは全然無かった。


「……一瞬、本気で殺意が湧いたわね」

「お、お母さん……え、えっと、メルスさんも悪気があったわけじゃないよ!」


 ごめんな、ウェナ。
 正直忘れていたってのもあるし、面倒だと思ったのは本当なんだ。

 帝国は広いし、領地の一つひとつを虱潰しにするとかさすがにな。
 できなくはないが、そこまでやると運営神もリオンの隠蔽工作を突破して気づくし。

 吸血鬼は感覚がかなり鋭いし、ペフリはその中でも特に優れた真祖個体だ。
 嘘偽りというか誤魔化しがバレた場合も想定し、最初から本当のことを打ち明けた。

 まあ、結果としては娘の宥めもあってどうにか怒りを抑えてくれる。
 ……だけどこれ、持って帰ってくる血の量が少量だったら許されない気がするな。


「にしても、影からその状態で武器を出せるようになったのか……拘束具、もう少し強くした方がいいか?」

「いえいえ、それには及びませんよ。ねっ、ウェナ?」

「……私からもお願いします。どうか、お母さんの拘束はそのままにしてほしいです」

「…………理由を、聞かせてくれないか?」


 ペフリの眼はかなり特殊で、影からさまざまなものを生み出すことができる。
 だからこそ、特に眼を拘束していたわけだが……実際こうして、事象を起こした。

 彼女が受けた仕打ちからすれば、人族を皆殺しにするというのは決して愚行とは思えない……俺がそれを止め、そのうえで血を取り戻して与えているのは偽善に過ぎない。

 だからこそ、俺に拘束具の最終的な権限を与えられているウェナが、俺にそんな提案をしてきたことは驚きだった。


「確認するが、魅了されているわけじゃ……無いんだよな?」

「も、もちろんです! ただ、今はお母さんも私の意見を尊重してくれますし、大丈夫だと思うんです……何より、もっと普通な暮らしを知ってもらいたいです」

「と、娘さんは言っているが?」

「まあ、ご近所の方々がウェナに優しくしてくれているのは分かっています。たとえそれが、メルスさんの手の者であっても……」

「誤解しないでほしいが、手の者というほどの関係性は無いぞ。ただ、緊急時に二人に協力してくれるような人柄の持ち主なだけだ」


 要するにある程度の事情を知ったうえで、住んでくれている連中なわけだ。
 当然、ウェナがペフリを制御できなかった場合、その鎮圧も彼らが担当する。

 今までそういったことが一度も起きていないこともまた、彼らから報告が入っていた。
 ……それが知られることも、最初から想定済みというわけだな。


「何かあったら、ご近所さんが止めに入るからな。それでもいいなら、しばらくは拘束具の強化はしない……ただ、いちおう血が増える予定だから、その分の調整はするぞ」

「は、はい!」

「……やらないでほしいのだけれど」

「もう、お母さん! お願いします、メルスさん……あんまり無茶はしないでください」


 心配そうに見てくるウェナにほっこりしつつ、部屋から出る。
 やる気も湧いてきたし……それじゃあ、また血を集め始めますか!


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ヴァナキシュ帝国 冒険ギルド


 帝国のギルドを訪れると、そこで適当に時間を潰す。
 しばらくして、座っていた俺の向かい側にローブを纏った小柄な人物が座った。


「……今回はどうして?」

「血が、集まったみたいだからな」

「!」

「ということで、また行くぞ。ちょうど、城の方で大々的に貴族を集めて決起集会をやるらしいからな。要するに、普段は散らばっている血の持ち主が一気に集まる」


 まあ、血の持ち主は貴族やその兵士や騎士だけではないのだけれども。
 それでも、五割以上は彼らが保有しているのでそれを先んじて回収しておきたい。


「いつも通り、契約の話をしておくか?」

「いい。支払いは信じてるから」

「そりゃあいいことを聞いた。なら、報酬は大量のブラッドポーションってことで」

「……貰うけど」


 何度もプレゼントしているので、かなり気に入ってもらえているようで。
 なんせ、うちの血液ソムリエがお墨付きをくれるぐらいの代物だからな。

 彼女──吸血鬼狩りの吸血鬼、メィルドの協力を得た俺は開かれる宴に向けて準備を進めていく……そして、その日が訪れる。



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