AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と東の南釧 その18



 お辰とその両親を残し、俺とミントはこの旅最後の移動を行った。
 ……両親を探しに遠出をしたので、観光的な面でもかなり飽きていたからな。

 行きに使った馬車は彼らの移動用として残してあるので、俺とミントは徒歩……ではなく転移でサクッと移動。

 情緒もへったくれも無いのだが、いつものことなので気にしない。
 目的地はお辰の両親が、先んじて集めてくれていた鎖国派のある施設だ。


「さーて、ここが『入島』か。昔は自由大陸との貿易地のはずだったのに、上手く鎖国派に利用されている現状って……」


 その過去から、開国派が大きく派閥を利かせている場所でもある。
 だというのに、その中でこっそり暗躍した鎖国派によって拠点が作られていた。

 そしてそここそが、今回お辰やその両親に刺客を差し向けた連中がここに居る重要拠点という皮肉。


「また“次元斬”で切り開いてもいいけど、一つ覚えの繰り返しもな……よし、こっそりやってみようか」

『こっそり?』

「そうだ。周辺にある施設は、どこも開国派のものだからな。決闘場の時みたいに、ド派手な問題は起こさない方がいいんだ」


 ただでさえ、開国の象徴とも呼ぶべきこの場所は各島から警戒されている。
 特に東都、そしてその公方であるオダは常に目を光らせていることだろう。

 ……ああ、思えばそれなのかもな。
 ここにあえて鎖国派を潜り込ませ、ここぞというタイミングでやらかさせることで介入する大義名分を得るなんてやり方もある。

 これまで開国派のお辰の両親が手を出せていなかったように、分かっていてもどうしようもない問題があった……まっ、完全な部外者である俺たちには関係ないけども。


「それじゃあミント、いっしょに潜入だ!」

『おー!』


 そんな場所なので、当然厳重な警戒網が敷かれている。
 だが、ミントが居る限りそれらの防御など無意味に等しい。

 なぜなら、基本的にそういったシステムは一定上の大きさの存在を対象にしているからだ──空を舞う埃にいちいち反応すれば、警戒網をさまざまな形で消耗することになる。

 警備員の気力、維持している魔道具のコスト、あるいはそれらが起動後に解除するための時間など……無意味に反応を示さぬよう、基本的に大きなものにしか反応しない。


『──“縮小化”!』


 小柄とはいえ、人族の子供ほどのサイズはあったミントだったが、スキルを発動すると本来の大きさに限りなく近づき……それよりもさらに小さくなる。

 童話に一寸法師という三センチいっすんしか無い主人公が居たが、今のミントはそれ以下……僅か一ミリほどしかない。

 あまりに小さいがゆえに、その存在を知覚できないまま退場させられる。
 それが天魔迷宮の第一層、階層守護者の恐るべき力なのだ。


『それじゃあ、行ってきます!』

「ああ、警備システムの魔道具を可能な限り破壊してくれ」


 派手に暴れる予定は無かったが、かといって中で暗殺を繰り返すわけでもない。
 要は入島にある他の施設へ、影響が及ばなければいいのだ。

 ミントに周囲へ危険を告げる魔道具を破壊してもらえば、逃亡する者が居ない限り内部で行った破壊工作を外部へ漏らす者が居なくなる……それで充分である。

 ミントが意気揚々と施設に潜り込んで数分後、施設の正門で手を振る姿を確認。
 眷属の印、そして眼を強化して視力を上げることでどうにか捕捉しました。

 なので俺も堂々と正門を潜るが、警戒網はいっさい反応を示さない。
 周囲を見てみれば、魔道具に小さな傷が刻まれている。

 ミントが確実に機能を落とす部分に、攻撃したのだろう。
 彼女にはそれができる、そういう腕と眼を持っているからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ミントが先に向かい、俺が後から追いかける……そんなやり方で移動を続ける。
 途中、鎖国派の連中が居たりもするが、即座にミントが気絶させていく。

 殺しはしない、生きていれば後でたっぷりと謝礼が貰えそうだからな。
 そんなこんなで、歩けば後ろに人の山ができるという猟奇的なことになっている。


『ここだよ!』

「うむ、ありがとうなミント──あとは、俺に任せときぃ」


 再び偽善時の口調を始め、扉の中に入っていく……そこで待ち受けていたのは、銃を構える兵士たちだった。

 俺は突きつけられた銃口にもビビらず、その奥で座っている男を見る。
 ソイツこそが、今回お辰とその両親を狙い偽善を行わせ(てくれ)た犯人だ。


「出迎えご苦労さん、宴にはまだちぃと早い気がするがのう」

「いいや、間違っていないさ。血祭り、それはこれからすぐに始まるのだからな」

「なんともけったいな祭りじゃ。そげな祭りなら、お暇させてもらおうか」

「いやいや、主賓にそのようなことはさせないよ。盛大に持て成す、ゆっくりと味わってほしい──貴様の血の味をな!」


 その声と同時に、引き金が引かれて弾丸が俺の下へ飛んでくる。
 降り注いでくる銃弾、俺はとっさに部屋の外へ出てそれを躱す。


「追え! 絶対に逃がすな!」

「逃げんよ──『居合イアイシン』」


 廊下で構えを取っていた俺は、兵士たちが部屋から出てきた瞬間の抜刀。
 距離を調整し、構えていた銃の先端だけを的確に切り落とした。

 ──これで彼らは銃はもう使えない、この調子でどんどんやっていこう。



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