AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と東の南釧 その16



 鎖国派が集めていた情報を、殴り込んで洗い浚いかっぱらってきました。
 労せず……かは微妙ではあるが、ともあれ居る場所に関してはなんとなく判明する。


「霧連山、その周辺におまんの両親は潜んで居るようなじゃな」


 移動中、馬(魔物)車を借りた俺は後ろに乗せたお辰へ状況を説明していた。
 霧連山とは……まあ、火山が集まってできた場所だと思ってもらえばいい。

 わざわざハイキング、ということでもない限りは危険な場所ゆえに向かったのだろう。
 追手もそれなりに強いだろうが、質を厳選するぐらいはできるはずだ。


「追手が思いの他優秀だったようじゃな。資料を見るに、バレる前に人の少ない場所に向かったようじゃ」

「……たしかに、その近くに──」

「皆まで言わんでよか。さっさとそこへ向かうに限るぜよ」


 偽善のための時間省略ということで、今回馬(魔物)には支援魔法を掛けてある。
 ついでに乗馬や御者に関するスキルも一時的にダウンロードし、そちらも発動中。

 揺れを限りなく抑え込み、最大効率で馬を操り走らせている。
 時間にして十時間ほど、俺たちは霧連山へと辿り着いたのだった。


「……いやいや、おかしいです。どうして私たちはもう霧連山に来ているのですか!?」

「なぜと言われてものう……おまんさんが寝ている間に、少々馬が頑張っただけじゃ」

「……普通の馬ですよね?」

「魔物であることを除けば、ごくありふれた馬だと思うがのう」


 十時間の間、ずっと起きていられていても
正直困っていたしな。
 時間が掛かる旨を話していたのだが、先に寝てくれたお陰で早く着いた。

 ……企業秘密的な加速方法とか、お見せできないやり方がたくさんあってな。
 まあ、彼女もちゃんと寝れたのだ……少し魔法を盛られていても満足できただろう。

 熟睡していたからこそ、ツッコミがそこまで過激にならなくて済んだ。
 ……途中で魔物を大量に轢いていたし、見せられなかったな。


「……普通じゃない、絶対に普通ではありませんからね」

「まあ、おまんがなんと言おうと今ある光景こそが現実じゃきに。今やるべきことは、そうしてうだうだと言っていることか?」

「! そ、そうでした……って、それもこれも貴方の理不尽さが──」


 お説教は数分続いたが、結局どうにもならないので諦めたようだ。
 何より、早いに越したことは無い……すでに刺客は差し向けられているだろうから。

 この先の展開を示すかのように、空模様はすっかり暗くなっていた。
 曇天、それが意味するものは果たして──


  ◆   □   ◆   □   ◆


 霧連山は活火山を有する連峰だ。
 有毒なガスも発生するため、時期によっては入山が禁止される場所でもある。

 当然、魔物も現れるため実力者でなければ滞在は困難だ。
 追手から逃れていることからも分かるように、お辰の両親は実力者なので問題ない。


「おっ、もしやアレでは?」

「! ど、どこですか!?」

「ほれ、あの火山の上に居る」

「そんな場所見えません! ……ですが、二人ならあるいはと思えてしまいます」


 強化した視力が、とある山の頂でイチャイチャしている二人組を見つけた。
 写真(魔道具)で見た、美男美女のカップルと相貌に違いは見受けられない。

 となるとつまり、彼らこそがお辰の両親である『竜馬』と『お竜』なのだろう。
 娘との感動の再会だが……うん、見ない方が幸せなのかもしれない。

 だが、そうも言ってられないだろう。
 確実に追手は迫っていた……イチャイチャと同じく、そんな怪しげな連中が山を登る姿も捕捉していた。


「少し、派手に行く。おまん、ちょっと我慢せい」

「は、はい!」

「いい返事じゃ──『天線候破テンセンコウハ』!」


 空に向けて、超高速で放った斬撃。
 どこまでも、高く伸びていく剣の軌跡は、やがて雲にまで届き──重くどんよりとした空を、文字通り晴れへと切り開く。

 天剣術の武技を模したソレは、雲を切り裂くことに特化した特殊なモノ。
 自然現象であれ、魔力現象であれ雲という概念であれば自在に切り開ける。

 そんな突然の現象に、両者共に気づいた。
 刺客たちは俺たちに、そして両親は俺たちに加え刺客の姿も捉える。


「まあ、これで問題ないじゃろう。おまんの親に助けが居るなら、向かっても構わんが」

「いえ。あの二人なら、問題ないかと」

「そうけ、なら見ているだけで良か」


 刺客に気づいた二人は、さっそく迎撃を始める……山頂という高低差を活かして、一方的に攻撃を始めた。

 だからこそ、刺客たちも気づかれないように向かおうとしたのだが、それは俺の妨害によって防がれる。

 強行突破で向かうことを決めたのか、一部の人員を肉壁にして山頂を目指す。
 うーん、問題は無いだろうが、せっかくなら恩を売っておくか。


「もう一発じゃ」

「大丈夫だと思いますが……」

「まあ、保険程度にな。それに、闇雲に突っ込むだけの愚か者じゃないはずじゃし。やるだけやっておくわ──『断風タチカゼシン』」

『──ッ!?』


 刀の武技に、精気力で飛距離補正を加えて刺客たちに飛ばす。
 技術的な面を精気力でごり押しし、強引に届かせる。

 結果として、届くはずが無いと思っていた彼らに不意打ちを喰らわせた。
 壁役を前に出していたため、後ろに居たのは強者たち。

 ──彼らを失った刺客たちは、そのままお辰の両親に蹂躙されるのだった。



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