AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と東の南釧 その15
お辰を狙った鎖国派の手の者は、決闘場における奴隷売買にも関わっていた。
そんな都合の良過ぎる展開に苦笑しながらも、俺は殴り込みを掛けている。
いちおう運用技術『感網』で弱っている奴隷落ちがいないか確認したが、ここには現在そういった者はいなかった……決闘場で全部なのか、あるいは──。
「まあ、今ここで考えても仕方ないきに。ひとまずは、全部を破壊しちゃろう」
いずれにせよ、暴れ回っても困るような場所ではない。
見せしめという意味でも、盛大に壊れてもらうとしよう。
ゆっくりと商会へ向かえば、物騒な佇まいの俺を警戒する警備員たち。
だが構わない、魂魄偽装で明確に俺が何者かを誰も認識していないのだから。
それでも警備員が警戒するような何者かが現れたということで、商会を訪れていた客たちがざわざわしだす……ここで何を売っていたのか、知っている者も居るのだろう。
「止まれ! 止まらなければ──」
「力尽くでも、とでも言う気か? ハッ、やれるものならやってみぃ!」
「警告はしたぞ……行くぞ!」
「そりゃあこっちの台詞ぜよ!」
荒くれ者とは違う、ある程度統制された動きで俺を包囲しようとする警備員たち。
彼らがそれを成すまでわざわざ待って、それから俺も動き出す。
刀と銃を巧みに使い分け、一人ずつ確実に倒していく。
銃で牽制して刀で斬りつける、または刀を振るうと見せかけ銃をぶっ放す。
遠距離から『術』を放とうとする者たちには、弾丸を素早く装填して相殺。
二人掛かりで挑み両方の武器を封じようとしてくれば、体術で丁寧に応対している。
「みんな、離れろ──“乱雨矢”!」
「無駄じゃ無駄じゃ──『禍通風』」
刀用の武技をなぞり、放った一撃。
体調を悪くする厄介なエネルギーを、精気力を変換することで斬撃と同時に風という形で飛ばす。
独特の言い方で放たれた矢の武技は、力強い風の影響を受けて本来の方向からズレる。
そして、風の影響を受けたことで、衰弱していく人々。
その間を擦り抜けて、振るっていた刀を再び鞘に戻す。
途端、警備員たちが次々と倒れ、それを目撃していた人々が悲鳴を上げる。
我先にと出口へと走る彼らを、俺は止めようとはしない。
……が、一度だけ身体強化した足で地面を踏みつけて罅割れを作り、黙らせることに。
「おまんら、静かにせえ。……ふぅ、この罅の中に入らんなら、そのまま逃げても良か。近づくなら容赦なく斬る、それでも逃げる奴は覚悟するんじゃな」
そう伝えれば、彼らは逃げようとしなくなる──罅の広がりはかなりのもので、出口までの通路に罅が入っていない箇所がほとんど無かったからだ。
嗚呼、なんと不運なことだろう。
俺としては力は加減したし、言ったことも紛れもなく事実だったが、まさか耐震性がそこまで無かったとは。
……なんて適当なことを思いながら、銃をチラつかせつつ歩きだす。
俺がどこに向かうのか、怯えながらもこちらを見る人々の間を通り進んでいく。
向かう先にはこの商会の会長が。
途中で別れたお辰は、結界の魔道具があるからと少しだけ無茶をしていた……ミントも居るので、許可して手伝ってもらったのだ。
やはり逃亡しようとしていたのか、その恰好は少々乱れている。
だがそんなことは関係ないので、さっそくある質問をしてみた。
「いやー、実はここに鎖国派が居るっちゅうウワサを聞いてのう。ぜひとも会ってみたく思うちょるんじゃが……おまん、それがどういうヤツか知らんか?」
「…………さ、さぁ」
「そうかそうか、知らんか──もう一度だけ聞いてやる、鎖国派を知っておるか?」
一度目と違い、二度目は彼のすぐ傍に銃が突きつけられている。
生き残るため、彼に許されたのは持っている情報を正しく告げることのみ。
そして、そんなことをわざわざここですればどうなるかなど知れたこと。
……果たしてこれは、これからも同じことができるだろうか。
◆ □ ◆ □ ◆
善意の協力者によって、より多くの情報を得ることができた。
それでも闇は深く、まだまだ目的の情報には程遠いのだが。
会長自身、鎖国派なのはその方が売り上げがいいからだし、そこまで思い入れがあるようでもない……彼女を狙ったのも、上がそうしろとそう連絡してきたかららしい。
上、つまりは更なる鎖国派の存在。
末端とは言わずとも、だが利用されていたに過ぎない会長程度では、その正体に近づくヒントは得られなかった。
「おまんもなかなかに、苦労しちょるんじゃのう」
「それでも、私はあの二人の娘ですから。開国も、私自身が望んでいますので」
「そうかい。頼まれた以上、おまんの親にはしっかり会わせちゃる。ちょうど、情報も手に入れられたしのう」
鎖国派に関する情報はさっぱりだったが、代わりに彼女の親に関する情報ならば、上から会長へ送られたもので知ることができた。
どうやら、ちゃんと南釧の中に居るようなのだが、場所としてはかなり特殊なようで。
出てくるのを待つよりは、自分たちで行く必要があるようだ。
「おまんさん、どうする?」
「……行きましょう。待っていては、いつまでも会うことができませんので」
「そうか、なら任しとき!」
──そうして俺たちは、次なる目的地へと向かうのだった。
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