AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と東の南釧 その09



 娘に良いところを見せたくて、調子に乗ってしまったお父さんです。
 言ったからには引けない、決闘場に囚われた闘奴たちを纏めて解放することに。


「──『感網』っと」


 身力による探知に、そんな名前を与えた。
 網状に広げた身力が、決闘場の至る所へ触れている……物理的な形を持たない網は、地面を通過してその下をも暴いていく。

 鬼娘や犬娘も、逃亡するまでは決闘場の中に囚われていた。
 なので居ることは最初から承知している、俺が知りたかったのはその具体的な場所だ。

 同時に、俺がこれから行うことに被害者が出ないよう計算も済ませる。
 それらをやり終え──決闘場の外で、俺は刀を掲げた。


「大々的にやっちゃる……夢現流武具術刀之型──『次元斬ジゲンザン』」


 方向を調整して放たれたそれは、万物を通過して消えていく。
 時間経過で消えるまでに、通った場所はそのいっさいが消滅してしまった。

 超絶技巧の斬撃、刀を持っているだけで武技の使えない縛り中の俺の全力全開。
 身体能力を一瞬だけ高め、その瞬間で行う超高速の抜刀によって成される神業。

 ティル師匠の教えとは違う、道理もへったくれも無い俺の編み出した我流武技の一つ。
 早く斬ったら次元も斬れるという、ファンタジーを体現した武技だった。

 そんな武技によって、決闘場には地上から地下に掛けて道が文字通り切り開かれる。
 しかもそれは、闘奴たちの収容されている部屋のすぐ目の前だ。


「おまんら! 聞けぇえええ!」


 わざわざそこまで行くことなく、俺は外から闘奴たちに対して叫ぶ。
 これまた身体強化を肺やら喉を重点的に使い、自分自身が気絶しないよう耳を保護。

 そんな状態で勢いよく叫べば、誰もが気づくレベルで大声が辺りに響く。
 どうしたもんだと騒ぎ出す街を背に、俺はそのまま叫び続ける。


「出たきゃ来い、救っちゃる! それすらできんやちゃ知らん! せめて出たいっちゅう意思を見せい! そんときゃ俺が、そこから出しちゃるわ!」


 意図的に斬撃をズラしておいたので、瓦礫が自然と上に出る道になっているだろう。
 すべての部屋でそれは可能なはず、あとは拘束をどうにかするだけ。

 鬼娘のように“指揮紙”を貼られた魔物の血を流す者や、拘束具を付けられたものも居るのだが、一番多いのはそういった物を付けられずに収容されている者たち。

 彼らに縛りが設けられているのは、体ではなく心──力に捻じ伏せられ、自ら逃げることを諦めてしまっている。

 鬼娘は彼らを救おうとしたのだろうか。
 だが、自らの意思を奪われた彼らを動かすのはかなり面倒だろう……事実、彼らの動きはとても緩慢なものだ。


「──まあ、動けん奴の下にゃ俺が直接行っちゃる気に、媚びへつらっちょるんじゃな!」


 最後にそう告げて、叫ぶのを止める。
 脳裏でこちらへ近づいてくる者たちを認識しながら、それを避けるように決闘場の中を歩き回っていった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 計画通り、決闘場周辺は大荒れだ。
 闘奴たちは敗北続きでも基本的には戦闘職持ち、一般市民と比べればその強さは圧倒的なのだ……当然、近隣住民が抗議に来る。

 いちおうでも全うを謳っている経営者は、それに対応しなければならない。
 公営であることも活かし、兵士たちも使い捕縛が行われていた。


『パパ、本当に来てくれるかな?』

「とりあえず、悪人は確実に来るな。無償で出られるいい機会だ、なんせ行っても損が無いからな──まあその辺は、兵士の方々にお任せするとしよう」


 そう、面倒事は彼らに丸投げである。
 たしかに一度救っておいて自分の都合で再び収容すれば、それはそれで偽善っぽい気はするのだが……うん、面倒だし。

 今回俺がやりたいのは、ミントが望む創作物のような奴隷の救出劇。
 明らかに自分の都合で身を窶した者まで、率先して救うつもりは無かった。

 ある意味、彼らはいい陽動になる。
 逃げるのであれば捕まえる、メインの見世物だった鬼娘に逃げられた以上、これ以上の損失は経営者側としても避けたいはず。

 そのうえで今回のこれだ、同じ存在の干渉であることは分かっているだろう。
 それでも精鋭はもう一度目に処理されている、せいぜいの足掻きが逃亡者の抑制だ。


「ミントはそうだな、子供とかが頑張って逃げていたら助けてあげてほしい。俺の予定ではいないと思うが、いつだって子供には無限の可能性を秘めるだけのポテンシャルがあるからな、不可能ではないと思う」

『はーい!』

「で、俺は当初の予定通り、重傷になっている人たちや一部の魔物、あとは逃げられないでいる子供たちの救出だ」


 大人はある程度自己責任だが、子供にまでそれを求めないということ。
 もしも俺の想定を超えた子がいたならば、それはそれでミントが丁重にもてなす。

 多少バラけても、ミントの移動速度があればどうとでもなるだろう。
 ポーションも渡してあるし、間に合わないということは無いはずだ。


「……むっ、ちょっと不味いな」

『どうしたの?』

「近づかないと分からなかった距離に、衰弱している子が居た。すぐにそこに行ってくるから、ミントは外を頼むぞ!」

『その子を助けてあげて!』


 娘に頼まれたのだ、なんとしても救ってやろう……普段はやる気が無いだけで、それを成すための力は十二分にあるのだからな。



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