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山田 武

偽善者と東の南釧 その07



 自分勝手な理屈を並べ、【傲慢】な行いを働こうとする俺。
 ただしミントの手前、残虐なことはあまりできない……控えめでな。

 そもそも縛りは刀と銃、【傲慢】ではないので銀色への変色はお預けだ。
 目的は時間稼ぎ、少女たちが逃亡するために必要な時間をここで得る。


「──『隠潜オンセン』」


 短刀用の武技を、打ち刀を使い発動。
 実際にシステムを経由して発動しているわけではないので、縛り的に許可されそうなものなら何でも使うつもりだ。

 そもそも、短刀なら姿を隠せるとはどういう仕組み何だろうな……と思いつつも、周囲に気配を同化させながら隠れ潜む。

 先ほどまで俺は目立っていた、しかしミントが動き出したことで俺ではない方向を多くの者たちが向いていたため、そうして姿を消すことができた。


「──『静射セイシャ』」


 これも狙撃銃の武技だが、拳銃で代わりに使用する。
 こちらの理屈は単純、精気力を注ぐことで外部に漏れる音をいっさい無くす武技だ。

 再現は面倒だが、それでもできる。
 銃を再び撃ち込んで、確実ずつ弾丸を中てていく。

 システムに頼っていないため、クールタイムを考える必要も無い。
 音の無い射撃が何度も繰り返され、引き金が引かれるたびに誰かが倒れ伏していった


『お、おい、どうなってやが──』『また一人やられ──』『ふざけんなよ、こんなの聞いてな──』『ええい、こうなったら辺りを纏め──』


 ミントも活躍しているようで、俺が銃を使う回数以上に倒れている連中の数が増える。
 相手の都合なんて知らない……少なくとも“指揮紙”の符を持ち歩く奴らの事情はな。

 偉そうに何かを命じていた奴も、辺りの壁が動揺したことでようやく倒せた。
 指揮系統的に、これで強制的に動かされている連中は追手にならないだろう。


「もうよか、『開牙カイガ』──『鷲蜀シュウトウ』」


 我が師匠、ティルのリュキア流獣剣術の武技をなぞる。
 空を飛ぶ斬撃が、決闘場の上の辺りを切り裂いて破壊した。

 それは事前に取り決めていた合図、なのでその時点で彼らの悲鳴はぱったりと止む。
 まだ追手は残っている、それでもミントを引き上げさせた。


『ねぇパパ、本当にいいの?』

「俺がやるべきなのは時間稼ぎであり、追手の完全排除じゃない。あの子たちには、緊張感を持ってほしいんだ……何より、これは慈善事業じゃない──」

『偽善、だよね? うん、パパの言うことだから分かるもん!』

「さすがはミント、よく分かったな。そう、全部を解決してやればいいわけじゃない。行き当たりばったりなことばかりだが、相手にとって何が必要なのか、それを(勝手に)考えるのが偽善の重要な点だ」


 壮大に揉めている連中を放置して、俺たちは再び移動する。
 先に本来の目的地とは違う方角へ走り、それから遠回りする形で道を修正。

 辿り着いたのは、船着き場の区域にある倉庫のような施設群。
 貸し倉庫を利用して場所を確保していたのだが、どうやらちゃんと着いていたらしい。


「──待たせた」

「遅い……何してた?」

「なに、ちょいと掃除をな。それよか……友達は連れてきちょるな」

「うん、友達」


 脱出する際に両脇に抱えていた者たち、あのときはしっかり見ていなかったので改めて確認してみる。

 倉庫は暗いが暗視でどうとでもなる、少々やつれている二人組の少女たち。
 容姿に差があるので、血縁関係などではないだろう。


「──まずはそうじゃな、飯じゃ」

『!?』

「いやいや、お前さんら。かなり重要じゃぞこれ、とりあえず食っとき」


 和服の袖の下を適当に弄り、その中でこっそり[アイテムボックス]を操作。
 おむすび(大きめ)を三個取り出すと、紅桜と呼ばれていた鬼娘に放った。


「いいの?」

「ええ、食べて頭を回せ。話はそれからにしちゃる」

「分かった……食べよう?」

『!』


 それから三人が、おむすびを食べるのをただ見ているだけの時間に。
 二人──異なる犬耳の少女たちは、涙をポロポロ流している。

 鬼娘は涙は流していないが、おむすびは完食した。
 うん、握った本人からすると大変嬉しい反応である。

 少女たちが自分で塩分を足したおむすびを食い終えた確認、改めて話を行う。
 これからのことについて、少女たちはどれくらい把握しているのかも聞いておきたい。


「先に聞く、お前さんらはこの後自分がどうなると思うちょる?」

「……言うことはわたしが聞く、だから二人には手を出さないで」

「そんな!」
「桜ちゃん!」

「二人を連れてきたのはわたしの責任、だからお願い……お願いします」


 うん、完全に悪役として見られている。
 おむすび効果も無かったのね……いやまあそういう目的じゃなかったし、別に良いんだけども。


「別に、お前さんにああ言ったんはそういう目的じゃなか。いわゆる偽善じゃ」

「偽善?」

「そう、偽善じゃ。お前さんらはこれから、そうじゃな……まったく知らん異国へ行くことになる。三人仲良く暮らすも、独りで過ごすでも良か。まあ、最初は説明しちゃる、時間は無いが考えときぃ」

「……時間がない? まさか!」


 そう、時間は無い。
 ゆっくり考えさせると、俺を殺して逃亡みたいな考えになるかもしれないので。

 鬼娘の“指揮紙”はともかく、他の二人は隷属の印が刻まれている。
 主はそれを通じて、対象がどこに居るのか知ることができる。

 友達が居れば、自動的にこういった流れになることは最初から分かっていた。
 ……思考には、しっかりと制限を設けさせてもらうわけだな。



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