AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と解放後調査 中篇



 その場の思い付きで行動を始め、最初に訪れたのは帝国の黒没街。
 非合法組織『一家』のオジキに会い、まず手土産として薬酒と薬煙草を贈った。


「──で、こんな手土産まで持ってきて、わざわざオレに何を頼むんだ?」

「ええ、実は……解放した奴隷の近況について、分かる範囲で教えていただきたい」

「あん? なんでったって……ああ、いつもの偽善の一環か?」

「いえ、ふと今何をしているのかが気になったもので。支援に関してはそちらにお任せしているので思うところはありませんが、まあそういう意味では偽善かもしれませんね」


 かつて、この帝国の闇で行われていたオークションを、『一家』と共に襲撃している。
 その際に奪ったもの、それは道具だけでなく奴隷も含まれていた。

 そんな彼らを解放後、本人たちの意思に合わせてさまざまな場所に送っている。
 ある人は故郷、ある人は俺の世界、またある人はこの地に留まることを選んだ。

 最後の選択肢は要するに、『一家』のお世話になるということだ。
 俺がここに来る間、偶然見た女性などがまさにその元奴隷だった。

 全員の首輪は外したし、故郷へ向かった者には護衛も付けて送迎を行っている。
 なので到着までの不慮の事故は無いのだろうが……果たして、現況はどうなのだろう。


「それで、ご確認はされているので?」

「……ああ。一度請け負ったからには、その後も援助しておきてぇからな。お前さんから貰ったもんは、それをやる理由になる」

「オジキ……」

「ふんっ、それもこれも二代目をお前さんが快く引き受けるための戦略ってヤツよ!」


 本当、この人は……。
 幹部が持ってきたリストを受け取る。
 一月ごとに更新されているソレには、解放した元奴隷の者たちの近況が載っていた。

 幸い、生存確認ができない者や死亡者などは居ないらしい。
 少し帰郷後にトラブルがあった者も、フォローを『一家』が行ってくれている。


「ところで、お前さんの所に行った連中はどうなってるんだ?」

「んー、あー……」

「なんだ、言えねぇような関係か?」

「そうじゃないんですけどね。まあ、人並みの生活は送れてますよ。一部の人は、その希少さを買って特別な実験とかに了承を得て手伝ってもらっていますけど」


 固有スキルだったり一般スキルでも希少なものだったり、奴隷になった者の中には見た目だけでなくスキルにも価値を見出された者たちが居た。

 中でも欺瞞感知というスキルを持つ少女には、大変お世話になっている。
 欺瞞──つまりは虚偽、それを見抜けることがどれだけ特殊なことか。

 ただし、それが当人にとって恵まれた者かどうかはまた別の話。
 人の嘘を見抜く過ぎた彼女は、疑心暗鬼に苛むことになった。

 まあ、さまざまな精神療法を経て日常生活が送れるぐらいに彼女も健康になっている。
 彼女がスキルを制御できるようになったのもあるが……国民が、正直なんだよ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 赤色の世界 紅蓮都市


 かつて海溝が存在したその上に、まるで蓋でもするように出来上がった巨大都市。
 実際はそこでいろいろとやっているが……まあ、今は置いておくとしよう。

 今では『赤王』であるウィーが統治をしていることになっているが、それを支える者の一人に今回は用があった。


「お久しぶりです、ルーカスさん」

「! これはこれは……ノゾムさん、お待ちしておりましたよ」

「ええ、元気にしていましたか?」

「それはもちろん、ここは環境が良いですからね。ノゾムさんもお変わりないようで」


 かつて、俺を赤色の世界で行われる裏オークションへ導いてくれた商人。
 そんな彼にもまた、オジキ同様に元奴隷たちの一部を任せていた。

 大変経験を積んでおり、そのうえ勘も鋭い辣腕商人だ──『狂商人』と呼ばれていたこともあったが。


「──こちらを。ノゾムさんにご連絡していただいて用意しました、解放した皆さんの現在を記したリストです」

「拝見します…………って、アレ?」


 確認したそのリストには、きちんと全員の名前が載っていた。
 そしてその近況なのだが──少しだけ、気になることがいくつか。


「驚きましたか? どうやら『赤王』様が招待されていたようですね。個人、家族、あるいは村全体。領主や国家にも話を通しましたので、形式上は問題ありませんよ」

「紅蓮都市への誘致、ですか……というか、ルーカスさんも手伝っているんですね」

「いやはや、久しぶりに腕が鳴る仕事になりました。ノゾムさんと共に居た日々を、少し思い出しました」


 俺と出会う前、邪神の眷属に商会を滅ぼされた経験を持つルーカス。
 彼はそれでも諦めず、今や紅蓮都市専属の大商人となっている。

 これもまた、一種の成り上がりのようなものだろうか。
 そんな彼の商人としての実力は凄まじく、国の抱えるトラブルを解決していた。


「ノゾムさん、よろしければこの後少しお付き合い願いませんか?」

「ええ、それは構いませんが……えっと、その目的は?」

「もちろん、それは秘密ということで」


 そんなこんなで、再び移動。
 話の流れでなんとく行く場所は分かるのだが……はてさて、誰が待っているのやら。



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