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山田 武

偽善者と橙色の会談 その18



 情報の擦り合わせを始めた俺と聖光龍。
 どうやら、橙色の世界の女神であるトービスーイが解放されていることに気づいていなかったようで……かなり歓喜している。

 あの女神、ただ寝ていただけなんだがな。
 今はそういった面も含めて、赤色の世界でカカがなんとかしてくれているだろう……というか、そうじゃないとダメな気がする。


「それでは、お話の続きを聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

『! そ、そうであったな……ごほんっ、魂だけとなった私は、それから『鍛冶師』の中で世界の変化を見届けてきたわけだが……なるほど、世界がここまで動き始めたのは、汝らの影響であったか』


 浮かんだ華都が一定周期で繋がり、そのたびに人々は話し合った。
 それ以前は種族間の闘争もあったらしいのだが、共通の相手を前に休戦したらしい。

 この辺りは、森人の華都にある図書館迷宮でも分かっていたことである。
 それぞれ明確な領土を持ち、他の場所と繋がれるのは一定期間のみ……妥当な判断だ。

 そして何より、『花』は魔物の存在を奪い魔花を送り込んでくるからな。
 花粉が届くだけで、それが魔花になるみたいだし……自分たちの場所で手一杯なのだ。

 ある意味停滞した世界。
 一定のサイクルを続けているだけで、水面下に潜む『花』の暗躍を除けば変わらない時間が流れていたのだろう。

 だが、俺や赤色の世界の者が訪れた。
 否応なしに世界は異分子たちの干渉によって、動き出すことを強要される。

 女神から力を奪っていた『花』は供給源を奪われ、一定周期でしか顔を合わせることのできなかった人々はその制限が緩和された。

 たったそれだけ、と言える事態ではない。
 ……そしてそれは、ただの偽善で行われているのだから堪ったものじゃないだろう。


『当代の担い手であるタレインを介し、見させてもらったぞ。転移装置、および長距離遠話の魔道具……これらは汝らの仕業だろう』

「確信を持っておられるようで。ええ、その通りです。少々強引ではありましたが、それでも情報の必要性を考えますと、これぐらいしなければいけないと思いまして」

『まあ、そうであるな。人族の中で、新たなやり取りが行われるようであるからな。過剰な技術ならばともかく、かつては魔法として存在していた技術だ……ある程度は仕方のないものとしてみるのである』

「寛大なご配慮、感謝したします」


 魔術や『装華』でも似たようなことはできるのだが、そういった存在は各華都ごとに秘匿されている……がしかし、獣人族を介して俺が提供したそれらを凌駕する魔道具。

 他の種族は思うだろう──間違いなく、裏に何者かの存在があると。
 獣人族の魔術開発や魔道具制作技術は、他の種族に比べて劣っている。

 だというのに、自分たちの華都では有していない超技術の(ほぼ)無償提供。
 怪しすぎる、俺でもそう思うほどだ……確実に裏を探ってくるだろう。

 バックは何者か、そしてそれ以外に隠している技術が無いのか。
 そして辿り着くはずだ、俺という突如現れた魔道具の制作者へと。


「ところで、聖光龍さん。一つ、お伺いしたいことがあるのですが……これで『花』が仕込んだ仕掛けすべてを取り除けたと思えますでしょうか?」

『……うむ、たしかにであるな。これまでは何もせず、情報収集にのみ徹していたと考えれば何も起きていなかったことにも理由がついてしまうのである』


 そう、女神と守護龍をなんだかんだ確保していた『花』が、その程度で満足するわけがないのだ。

 そこから導き出される未来は無数に存在するのだが、憶測だけで語るのもどうかと思うので言いはしないが──


『裏切り者が居る、というわけであるか』

「ええ。そして私はすでに、いくつかの華都で発言力を得ています。そして、それらの都における権力者の中に、裏切り者が居ないことは確認済みです」

『つまりは──』

「私の見ていない華都、あるいはそこに住まう何者かが『花』へ情報を流している可能性が高いでしょう。故意、あるいは知らず知らずしてということもあるでしょうが……情報が洩れていることは確実です」


 こちらは眷属も考えていたことである。
 あからさまに足りない『花』の情報、どうして『花』がここまで勢力を広げることができたのかなど……疑問は多い。

 そして、女神に続いて守護龍も失った今、『花』が何をするのか──第三の道具を使うべく、何らかの形で連絡を取るのではないかと眷属たちは推察している。


『なんということであるか……』

「先ほども言いましたが、相手が『花』であると理解していない可能性もあります。その場合、向こうの策謀が一枚上手だったというだけの話。暴くことさえできれば、それ以上の漏洩を防ぐことができます」

『そ、そうであったな。汝はその者に、心当たりがあるというのか?』

「『花』と繋がる者がどの華都に居るのか、それは二つに絞ることができております。また、無意識の裏切り者とでも呼ぶべき者が何者なのか……それもおおよそは」


 そう、さんざん裏切り者と言ってはいるが十中八九、それは無意識的な裏切りだ。
 つまり自分が背信行為をしていると知らないまま、情報を漏らしているに過ぎない。

 だからこそ厄介、本人に罪の意識などないからこそ暴くことも難しいだろう。
 スキルや魔術で悪意を見抜けるからこそ、まっとうのように見える者ほど面倒なのだ。



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