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山田 武

偽善者と橙色の会談 その17



 聖光龍に実力を測られ、とりあえず会話をしてもらえるぐらいには認められた。
 偽装したままなので、一番はシュリュ由来の素材で作った『リュウゴロシ』のお陰だ。

 俺は先んじて情報を把握しているので、まずは聖光龍に話してもらうことに。
 そして、こちらへの理解度に応じて開示する情報量を増やそうと考えていた。


『まず、汝らをどの程度把握しているか、であったな……正直、あまり分かってはいないのである。ただ──汝らが赤、あるいは黄の門を潜った者であることは理解している』

「……ほう、なぜそのように思ったのでしょうか?」

『今、この世界においてまず魔法を扱う者自体が稀である。そのうえで、アレだけの規模の魔法を扱えるのは外部の者が最有力であるからな』

「なるほど、ですが、それだけではないのでしょう? 魔法であれば『賢者』のように、優れた術士ならば可能なはずです」


 森人の華都担当であるアンが指導することで、『賢者』の魔法技術も向上している。
 また、そんな彼女を経由して、一部の者も魔法が使えるようになっていた。

 結果、魔法スキルを獲得する者が僅かに現れている。
 魔術を使い慣れた人々からすると、使い勝手が違うようで面倒みたいだ。

 まあそんな現状なので、結界魔法を使う普人の少女たちなどは極めて珍しいわけだ。
 そんなことを思っていながらも、あえて俺は疑問をぶつけた。


『かもしれないのである。しかし、これまで見てきたこの世界で、いきなりそれだけの魔法は無理なのである。可能であるにしても、やはり別世界の存在による干渉でも無い限りは自ら到達などできぬであろう』

「……それほどですか?」

『今、魔法をこの世界の者たちの中でもっとも器用に扱うのは──他でもない、『花』共である。そのような技術を進んで得ようとするのは、手段を選んでいられぬ者か狂人ぐらいであるぞ』


 人様のスキルをコピーしたり、敵の魔法をコピーするみたいなことを創作物でよく繰り広げている日本人であれば、そういうことを気にしたりはしないんだけどな。

 固定観念というヤツだろう。
 アンと『賢者』の口添えでその習得を試みたのだろうが、無……いや、『花』のマイナスからのスタートでは他の者は難しいのか。

 特に子供は、そういった印象を強く受けてしまう存在だ。
 それが良い印象ならいいのだが、『花』にそういった余地は皆無だからな。

 魔法を直で見る機会も無く、恐ろしい存在が使う謎の技術ぐらいの認識だろう。
 なるほど、改めて考えれば考えるほど理解できるよ。


「……なるほど、差し詰め私共は狂人の類ということですね」

『扉を開く証を示す、その在り様すらとうにこの世界から失われている。だが汝はどうであろう、この世界では異質なことばかりしておるのである。私はそういった点から、汝を来訪者と定めたが……どうであるか?』

「ええ、降参です。お察しの通り、私は扉より──炎渦巻く赤色の世界グレッドより訪れた者となります。そのため、足りない情報を集めながら次なる世界を目指しております」

『ならば驚いたであるな。『鍛冶師』などという、存在しなかったはずの資格が存在していたのであるから』


 まあ、まだ赤色の世界しか参考にできていないので、世界によって数が違うのでは? と思っていたのだが。

 ともあれ、聖光龍は確信を持って俺や俺の呼ぶ者たちが別世界より来たと認識していることが分かった……さすがに自由世界から来たことは、分かっていないみたいだな。


『では、私の事情を説明しよう。アレはそうだな、数百年ほど前のことだ────』


 ここからは魂に触れた際、流れ込んできた情報で把握している。
 正確には眷属が把握した情報を、俺にもわかるように纏めておいてくれていた。

 守護龍は赤色の世界同様に継承制、ただし赤色よりも継承は進んでいない。
 なぜなら数百年ほど前に起きた『花』の侵攻により、守護龍から消えたからだ。

 結果、魂と魄は分離して魂のみが抜け出して山人族の下へ。
 世界の理が改変されるのに乗じ、自らの存在を『装華』に潜ませて機を窺っていた。

 その間も、『鍛冶師』を纏った者たちを通じて世界を見続けていた聖光龍。
 華都が生まれ、魔術が栄え、大地が『花』に支配され……いろいろあったらしい。


『……惜しむらくは、女神との交信が途絶えていることである。あの御方がお目覚めになれば、この状況からの打破も──』

「あっ、それでしたら問題なく。すでに囚われていたトービスーイ様は解放されておりますよ」

『そ、それは本当であるか!?』

「え、ええ……現在は私共を通じ、一時的に赤色の世界へ避難しております。いずれ聖光龍さんにお言葉を届けてもらえるよう、少々伝手を通じて連絡しておきますね」


 橙色の世界に居ては、再び『花』に捕まるのではと考えての行動だ。
 ……あの女神、俺が起こしに行くまで囚われたことにも気づかず寝ていたからな。

 赤色の世界はカカが守ってくれているし、扉も隠しているので『花』が女神を再び奪取するのは困難なはず。

 聖光龍には労いの言葉でも言ってもらうとしよう……何やら歓喜している姿を見つつ、そんなことを思うのだった。



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