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山田 武

偽善者と橙色の会談 その13



 少年が目指す道は、ナニカにとって邪魔そのものでしかなかった。
 鍛冶に適性の無い彼だが、植物加工のスキルによって『花』の加工ができる。

 未来眼によれば、その力で『選ばれし者』たちも含めて最終決戦に向かう者の装備を少年が作っていた……なるほど、その未来には現状維持でないと辿り着けないダメなのだろう。


「君の選択によって、世界は大きく揺れ動くでしょう。君の望まぬ選択を世界は望み、君が望む選択を世界は望んでいないからです。もしかしたら何も無いかもしれませんが、それは何らかの形で歪みが生じます」

「歪み……」

「本来の未来において、君の作った武具が戦いに大いに役立ちます。それが失われることで、まず間違いなく起きること──死人は確実に増えるでしょう」

「そ、そんな……」


 実際問題、少年の代わりを用意するのはかなり難しいだろう。
 ギーが調べてくれた『鍛冶師』の性能、それは破格のものだ。

 ──『花』を自在に加工できる。

 シンプルでありながら、それが意味するものはかなりデカい。
 そして、少年自身の才である植物加工が組み合わさることで完成に至る。

 あまり先は視れなかったが、武具は見ただけで分かる高品質だった。
 その一点を切り取れば、立派な『鍛冶師』になったと言えよう。


「皆に望まれる立派な『鍛冶師』、世界は君にそんな未来を用意しています。ただし、それは金属ではなく植物。君をただの鍛冶師と見ることはなく、偉大な『鍛冶師』の担い手としてでしょうが」

「……それは、自分なのでしょうか?」

「生まれ付いた才、選ばれた力……どちらも君自身に根付いたものです。その道を選んだとしても、君がその選択を後悔することは無いでしょう。今との違いは、この私と出会ったことかもしれませんね」


 実際問題、赤色の世界でもそうだったが俺が居たか居ないかで運命は変わった。
 ただし、それがプラスかマイナスかは俺に分かるわけもない。

 未来眼の光景に、彼の姿は無かった。
 おそらくは未来の光景を映した視点が、少年を媒介としていたからだろう……そのときどんな顔をしているのか分からないわけだ。


「さて、改めて問いましょう。タレイン、君の選択が世界の命運を大きく分けるとして。世界にとっての最良か、君にとっての最高かどちらを選びますか?」

「うぅ……じ、自分は……」

「少し、時間を置きましょう。追われるように考えるのではなく、弟子になることを決めた時のように自身で決めなければなりませんので。夜、再び君に尋ねます……どちらを選ぼうと、私は君に指導を行いましょう」


 タレインは退出し、自らに用意されているであろう部屋へ向かった。
 残されたのは俺、そしてギー……彼女は不思議そうに尋ねてくる──俺の膝の上で。


「どうして、待つの?」

「強引に決めさせたわけじゃない、あのとき決めたことは自分自身で決めたことだって意識させたいからだよ。俺たちが居ないとき、その記憶が彼を支えてくれるだろう……なんて思ったんだよ」

「本当に、必要?」

「…………なんでだ?」


 膝の上で俺を見上げ、彼女は俺の問いかけに対する回答を告げる。


「メルス、もう決まっているでしょ? 何を選んでも、どうするかなんて」

「…………」

「だから、メルスは可愛い。リーと同じくらい、素直だから」

「…………さすがにリーには負けると思う」


 うちのからかわれ担当を思い出しながら、そう言い返す。
 だがギーは微笑むだけ……ちくせう、対応に慣れてやがる。


「そ、それよりもほら! 模倣したお陰で取れたデータもあるだろう? その解析をしておいてほしい」

「……分かった。でも、無茶はダメ」

「それはもちろん。ここには眷属たちもたくさん来ているわけだし、頼れるところはとことん頼らせてもらうさ」

「そう……なら、一安心」


 ギーは姿を消し、夢現空間へ戻った。
 残されたのはただ俺一人のみ……ただ宙を見つめてボソッと一言。


「しかしまあ、未来からのメッセージが届くなんてことがあるんだなぁ。そんな奴の師匠になれるなんてこと、あるんだな」


 なんだかんだ言っても、それだけの資質をタレインが有しているということ。
 本人が望まぬ形とはいえ、そこまで優遇されているのもなかなか無いだろう。

 世界にとっての主人公そのもの、とは言わずとも主要人物には入っているはず。
 ……そしてその資質とは、精神性的なものも含まれているのだろう。


「──それで、答えは決まりましたか?」

「!?」

「君がそこにいることは分かっていました。私にも、君に見せていない一面があるということですね……さぁ、入ってください」


 静かに、おずおずと入室してくるタレインに対して、俺は手招きをする。
 覚悟が決まっているようで、それでも瞳だけは真っすぐにこちらを見ていた。


「話をゆっくりとする予定ではありますが、まずは尋ねましょう。君は、世界と自分のどちらを選びますか?」


 かなり悪い言い方での問いかけ。
 そんな言葉にも屈することなく、ただはっきりと自身の意思を告げる──そこまで来れば、もう最高の結果を出せる。


「自分は────!」


 そして、タレインは『鍛冶師』としての一歩を踏み出すことを決めた。



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