AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とキャリアチェック その17



 花子(仮)とござる(仮)への、理不尽に関するレッスンは続く。
 今は『絶対に二人じゃないと倒せない』、という意味不明な能力への対処方だ。

 結論から申すと、諦めてパートナーを探すというのが正解だ。
 何でも自由な世界、しかし自由と自由がぶつかり合う世界でもある。

 より強い方の自由が主張される以上、抗う力無き者に自由は無いに等しい。
 ……と『自由』がゲシュタルト崩壊しそうな説明だが、まあ慣れてもらおう。

 ただ一人、元より順応しそうで頑張り屋なお嬢(仮)だけが別の講義を受けていた。
 現在、ようやく闇泥狼王ダークマドウルフキングの分体を倒せたようなので、次の段階に移行する。


「はい、お次は──二人とも、ちょっとこっちに来て!」

「…………なぜ、あの二人を?」

「そりゃあ……ふふっ、二人が来たらちゃんと説明するから大丈夫」

「全ッ然、大丈夫に思えませんわ!?」


 彼女たちは二人で同時に核を攻撃しないと倒せない粘体を、今ちょうど倒した。
 たとえ相性が良くなくとも、器用な二人なので時間を掛けて成功させたようだな。

 どうせなら、ちゃんと友情でも絆でも何でも築いてほしかったが……まあ、すぐにはまだ無理だろうし、今回は良しとしよう。

 二人は俺が声を掛けたことに、少し時間が経ってから気づく。
 それだけ集中しないと、倒せなかったわけだ……嗚呼、本当に恐ろしい。


「はいはーい、三人でやるミッションだよ。お嬢ちゃんが人形を使って、花子ちゃんとござるちゃんの動きを真似してみよう……おっと、そんな怖い顔をしないで。全部を模倣できるとは、さすがに思ってないよ」


 花子(仮)よりもござる(仮)の方が、指令に対する反感を抱いているようだ……彼女が現実で修練したその技術を、無償で提供しろと言っているようなものだしな。

 だが、極致に達しているならまだしも、今のお嬢(仮)に完全再現は不可能だ。
 だから中途半端でも、二人から学習させてもらうよう指示している。


「ただで……って言ったら、絶対に嫌がるだろうから──こんな感じでどうかな?」

「「ッ!?」」
「……何をしましたの?」

「局所的な威圧、それをお嬢ちゃんだけ対象外にしてみたんだよ。だから、感じ取った二人はこんな風になっているの。で、もし二人がお嬢ちゃんの覚えられる範囲で教えてくれたら、これを教えてあげるよ」


 ただの魔力運用技術なので、そこまで大したものじゃないんだけどな。
 教える過程で、彼女たちはその手の内を俺にも明かすことになる……不等価交換だ。

 だが、この威圧の技術を上手く利用する価値を彼女たちは知っている。
 スキルとして使うのと、技術として覚えるのとではまったく違うからな。

 ──二人は俺の提案を受け入れ、晴れてお嬢(仮)は次のステップへ進んだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 右目は天魔眼、左目は劉眼。
 動体視力を極限まで高めてくれる二つの眼で、彼女たちの動きを捉える。

 傍から見れば変態だろうが、見ている者は誰も居ない……否、一匹だけ居たな。


『──これでもう、良いのか?』

「うん、今回はありがとうね。あの娘たちもいろいろと学べたと思うんだ」

『そうか……しかしなんだ、やはりその姿には慣れないな。どのような理屈でそうなっているのやら』

「ふふーん、眷属の魔法だからね。いちおう誰にでも掛けられるけど……まあ、制限時間もあるし、貴方なら似たようなことができるから要らないよね?」


 闇と泥を操る狼。
 彼の存在は蘇生を経験して、自身の核を本体から切り離す術を学んだ。

 要は自分で創った闇と泥のボディを用意しておけば、何度死んでも核を移し替えることで擬似的に復活可能になっている。

 ……まあ俺の考えていることはいつも通りで、狼以外の器を用意すれば、そちらでも動作は可能ということだ。

 もちろん慣れは必要だろうし、そもそも闇泥狼王にそれを行う意味など皆無なのだが。
 記憶の片隅にでも入れておいてもらって、暇な時に試してもらうぐらいでいいのだ。 

 闇泥狼王は転送陣を潜り、元居た場所に帰還していった。
 残された俺は三人の少女と一体の人形を視ながら、情報の考察を行っていく。


「やっぱり、ござるちゃんの動きは古武術の感じがするね。前にシュリュが見せてくれたヤツに似てるし。花子ちゃんは……いろいろと混ざり過ぎてよく分からないけど、アレが最適なのかな?」


 眼が鮮明に捉えた情報から、眷属に答えは聞かないで俺なりに分かることを纏める。
 二人の動きは共に合理性を追求しているのだが、根本的な部分で異なっていた。

 ござる(仮)の古武術は、合理的だがそれでも流派として整理されている。
 なので理屈を理解できれば、それなりに動きを人形で再現できていた。

 その点花子(仮)の我流体術は、効率化を極めた彼女だけに合わせた動きだ。
 要するに、彼女以外が真似をしても本物には届かない……そういう類いのもの。

 二人は二人でお嬢(仮)に教える傍ら、互いの技術を盗んでは自身に反映させている。
 特に花子(仮)は自身の異能でやり方を理解できるので、その速度もかなりのものだ。


「……まあ、二人ともお嬢ちゃんに教えることを忘れていないからいいけど。合格を出せるのは、いつになることやら」


 自分自身でまず動きを覚え、それから人形で再現……といった反復練習を何度も行っているお嬢(仮)。

 彼女が報われる日はそう遠くない……というか、俺がすぐにします。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品