AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とキャリアチェック その16
新人三人組を引き連れ、始めた訓練。
一人は人形を上手に操るために、残る二人は──理不尽を知ってもらうために。
彼女たち、特に花子(仮)とござる(仮)に必要なのは勝機が絶無な戦闘の経験。
世間一般のゲームと違い、AFOという世界にはそんな理不尽がごまんと存在する。
その典型的な例こそ、固有スキル。
俺の持つ{感情}や[眷軍強化]など……これらに関しては、本当に理不尽だと自分でも思うけども。
それらを除いたとしても、祈念者がかなりの確率で有しているそのスキルたちは、格上殺しを成し得る可能性を秘めていた。
人族が固有スキルを持つのであれば、魔物版のソレこそ固有種という存在。
再現性はほぼ皆無、一体一体がそれぞれ異なる能力を秘めている。
「──私の知っている固有種の中には、辺りの空気を吸引しちゃうヤツも居てね? 効果範囲に入ったが最期、効果範囲を蘇生場所にしていたら無限リスキル……ずっと殺されるような相手だっているんだから」
「「…………」」
「その点、あの子はまだマシな方だよ? 闇も泥も引き剥がして、攻撃し続ければいちおう理不尽じゃ無くなるんだから」
二人の相手をしてもらった『闇泥狼王』だが、彼は限りなく固有種に近い存在だ。
闇と泥をその身に纏い、それらを剥かなければ攻撃は意味を成さない。
なので、それらをまず戦いの場から場外しなければならないのだが……やることを理解しても、できるかはまた別の問題だ。
彼女たちも泥を爆破したり、光で照らしたりといろいろとやった……が、闇泥狼王のレベルは250、魔物がそこまでレベルを上げると人族はほとんど太刀打ちできなくなる。
最低限、超級職か固有スキルの一つでも保有していなければ勝てないだろう。
花子(仮)の【経験者】は、固有職だが超級職じゃないからな……まだ無理だ。
「スキルを用いない技術があっても、普通の人より多い職業の恩恵があっても。純粋なステータスの差と厄介過ぎる能力の二つで、二人は何一つできないまま負けた……どう、勝てると思う?」
「「…………」」
「うん、全然無理。レベルを上げたら、いつかは……なんて夢も抱かないでね。それならそれで、まだ隠している力を使われるだけ。従来のゲームと違って、こういうことが多いのがAFOだよ」
と説明を終えたところで、チラリと別の方向を見る。
そこでは試しということで、闇泥狼王が生成した泥と闇の狼へ挑むお嬢(仮)の姿が。
一先ず、十指全部を使えばスムーズに動かせるようになった。
なので剣と盾を持たせた人形に、狼を倒させるべく必死に糸を操っている。
「あっちはあっちで、二人から見ればだいぶ稚拙だよね? けど、好きこそ物の上手なれとも言うし、諦めなければ極められるとは思うんだ……さて、これからの予定だけど、どうしようかな?」
お嬢(仮)は『素人』を冠する魔物たちと戦ってもらうが、他の二人では攻略もかなり簡単だ……かといって、闇泥狼王を相手にさせても不満しか生まれないだろうからな。
今は生成体を相手に十全な動きができるかのテストをし、その後に素人系の魔物だ。
実戦で使っているため、壊される危険を感じて頑張っているのだろう。
「まあ、二人もビギナーシリーズと戦っておこうか。種類はたくさんあるから、瞬時に見分けられたりするのもいいね。いろんなスキルを得るきっかけになるし、予定が無いならやってみようか」
指を鳴らせば、今度は粘体たちが出現。
彼らは核に攻撃を当てなければ、決して倒せない……某メタルな彼ら同様、魔法は無効化するスペシャル仕様だ。
おまけに核は体内で自在に動くので、法則性を掴むまでは簡単に倒せない。
……そう思っていたのだが、やはり天才共は厄介だ。
花子(仮)は実弾、ござる(仮)はクナイでサクッと一撃。
どちらもやり方に違いはあれど、見抜く才があるからな……うん、超厄介。
なので俺自身ではどうしようもなかった。
というわけで、頼れるアドバイザーに助言してもらうべく、誰にも聞かれないようボソリと一言。
「……レン、どうしようか?」
《主様。この場合──》
「……ふむふむ」
《──といった形にしてみるのは、いかがでしょうか?》
レンは迷宮の専門家……というか、迷宮核なので、迷宮に関することであれば眷属の中でも一、二を争うレベルで熟知している。
そんな彼女の言うことなので、鵜呑みにしてさっそく実行してもらう。
再び出現する粘体──ただし今回は、二人の間に一匹が登場するのみ。
「二人とも、今度のヤツはちょっと倒し方が特殊だよ。まあ、力を合わせて頑張ってね」
先ほどと同じように見えているが、二人もすぐに察しがついただろう。
そう、今回は二人で同時に核を攻撃しなければ倒すことができない。
……ついでに、まったく同じ威力かつ違う武器でなければ倒せない仕様だ。
いくら二人でも、これならば瞬時に倒すことはできないだろう。
「ならば、某が──」
「分身とかしてもダメだからね、それと二丁同時発砲とかも。二人でやらないと倒せない仕様なんだから」
「……チッ」
ズルはいけないと思います。
そんなこんなで、彼女たちを足止めしている間に、お嬢(仮)強化計画は着々と進んでいくのだった。
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