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山田 武

偽善者とキャリアチェック その04



 悩むお嬢(仮)に超難易度の高い職業を勧めて、これでようやく十三人。
 残るは後二人、お嬢(仮)同様に新人研修で俺が担当を務めた二人だ。


「はーい、次の方どうぞ~」

「──ご無礼仕る」

「ご、ご無? ……ま、まあ、どうぞ、席についてね」


 現れたのは、忍者志望の少女ござる(仮)
 現在は『くノ一』に就いていたようだが、はてさてこれからの進路についてしっかりと考えているのだろうか。


「さて、ござるちゃんは──」

「主君よ、一つよろしいでしょうか」

「うん? もちろん、私は適切な助言をするだけだよ。ござるちゃんにやりたいことがあるなら、それを支えるだけ」

「……かたじけない」


 ござる(仮)曰く、『月の乙女』たちと共に井島で本物の忍者探しをしたらしい。
 結果──『風魔』・『甲賀』・『伊賀』などの忍びたちを見つけてきたようだ。

 ……なお、この情報は実地に向かった者以外だと、俺だけにしか話せないらしい。
 そういう誓約を結ばれたんだとか……不便だし、あとで解除しておいてもいいか。


「へぇ、忍者がねぇ。けど、その話の言い方からして、全部を教われたわけじゃないんだよね?」

「はい。初歩のみはある程度、ですが各組織の秘儀は同志にならねば教えられぬと」

「……いちおう言うと、私がちょちょいと弄れば誓約なんて無視して、全部の場所で学ぶこともできるよ? けど、ござるちゃんはそういうことを望んでいるわけじゃないか」


 頭巾で顔の一部が隠れているが、それでもやや申し訳なさそうな感じが伝わってくる。
 彼女の真意は読み取れないが……まあ、それはこれから話してくれそうだ。


「…………主君は、『心依流』というものをご存じでしょうか?」

「ううん、まったく。私、現実だと本当にただの一般人だもん」

「……それでも、分かってしまわれますか。詳細は省きますが、『心依流』では過去に存在したさまざまな流派の技術を会得してきました。そして、私はそれらの再現とこちらの未知の技術を学びにこちらへ来ました」

「で、見てきたら案外普通だったからどうしようってところかな? うーん、あんまり現実に事情を持ち込むのは良くないけど……事情が事情だもんね、なら私が提供できるのはこの情報ぐらいかな」


 鑑定眼で新人三人を視た時、異能と呼べる特異な力を持っていたのは花子(仮)だ。
 しかし、ござる(仮)はござる(仮)で、肉体のスペックが異様に高かったんだよな。

 いわゆるリアルチート、スキルが無くとも軽業ができるぐらいに身体が優れている。
 そしてそれには、先天的か後天的か、どちらにせよ理由があったらしい。

 ……ナックルも知らなかったとある秘密、彼女も何らかの形で関わっているかもな。
 まあ、シリアスな話をしたいわけでもないので、さっさと渡した紙の話をしよう。


「先に言っておくと、その出会った人たち以上に特別な技巧の持ち主は居ないと思うよ。ござるはそれに気づけなかった……ただそれだけなんだ」

「!」

「意識してほしいのは、ここがゲームじゃないってこと。忍者の頭目が、そう簡単にござるちゃんにその全部を分からせると思う? 見ていないからよく分からないけど、たぶんそうじゃないよね」

「…………そう、でござるね」


 ござる(仮)は鑑定スキルは持っているものの、実力を見抜くスキルや保持スキルを視るスキルなどは所有していない。

 自身の観察眼が優れているからこそ、これまで不要になっていた。
 ……まあ、優秀な忍者にはそもそも通用しないとは思うけど。

 そういえば、まだ彼女には教えていないこともあった。
 改めて伝わってくるその表情から、不服そうなのがよく分かる。


「──あとで、みんな修練場に集合。そう伝えてくれるかな?」

「……承知したでござる」

「うーん、そうだね。もし、ござるちゃんが納得できないなら、賭けでもする?」

「賭け、でござるか?」


 話を纏めれば、彼女は自分たちの流派に新たな技術を求めていた。
 だが、忍者たちはハズレと思い、別の物が無いかを俺に尋ねたわけだ。

 ──ならばそれに準ずる、より価値のあるものがあればそれでもいいわけで。


「じゃーん、『獣剣聖の指南書』!」

「……それは?」

「私公認、世界最高峰の剣技に関する情報が載った特別な本だよ。これを読めば、間違いなく凄い剣士になれるよ……ござるちゃんは要らなくても、誰かにとっては価値のある物だけど、どうかな?」

「…………嘘、ではなさそうですね」


 そう言って、彼女は部屋から退室した。
 うん、嘘は言ってない……ただまあ、本の内容を理解できればだけど。

 毎度お馴染み、これも魔本なのだ。
 そして、この本を読むと起きることなど知れたこと……常人がやれるのか、俺には皆目見当がつかないからな。


「しかし、ござるもござるでいろいろとあるみたいだね……だから祈念者には、深く関わりたくないんだけども」


 俺がどう足掻いても、向こう側では何もできない無力な凡人だからな。
 …………あー、もうやめやめ、考えたくないことは忘れておこう。

 さて、残るはあと一人だ。
 ござる(仮)とどっこいどっこいの面倒臭さ……うん、お嬢(仮)って二人に比べると外見だけなんだよな、面倒臭さが。



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