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山田 武

偽善者と魔王城潜入 その12



 1VS1を強要する、【闘王】の職業能力である“闘王への挑戦場バトルコロシアム”。
 この能力の最大の特徴は、発動に関して支払うコストがいっさい無いところだ。

 条件を満たした対象であれば、どれだけ格上であろうと結界内に捕らえられる。
 外部からの干渉は無効化するので、今だけは[ブレスエット]の吸引も無視可能だ。


「さぁ、楽しみましょうか」

「【闘王】の能力、無尽蔵の魔力……そして高位の死霊召喚。貴方、本当に何者?」

「初めて出会った際、名乗ったはずですが。それでは、改めまして……魔王軍雇われ死霊術師。【不死王】ネロマンテが継承者、魔人族のガイストです」


 礼儀正しく手を胸に当ててお辞儀。
 その間、『封印者』は何もしていな……いわけではなかったので、呪いの剣を媒介に地面経由で陣を展開。

 それは[屍魂の書]に記載された、動骨の召還を意味するもの。
 そこに魔力を──無尽蔵と称された魔力を流し込み、上からの圧(魔法)に対抗する。


「召還──『動骨・軍勢/壁スケルトン・レギオンウォール』」


 膨大な数の動骨たちが組み合わさり、築かれる骨の壁。
 構築の最中、『封印者』の発動した空間魔法が上から俺を圧し潰そうとしてくる。

 だが、骨の壁はそれを阻む。
 俺が魔力を支払うことで、低コストな動骨は魔法が終了するまで延々と陣から現れて攻撃を防いでくれた。


「これで終わって……はくれませんよね──“死魂魄爆デッドエクスプロード”」


 ただし、そんな壁も空間魔法による不可視の刃によって次々と切断されていく。
 そんなときには爆弾化の魔法を使い、刻まれた塊ごとに爆発させる。

 爆発のタイミングはこちらで任意で設定、転移先にも被害が及ぶように調整していく。
 面倒になったのか、転移ではなく空間を隔てる防御を行う『封印者』。


「──“死屍蒐集アンデッドコレクト”」


 余裕ができた俺は、死霊魔法として保管しておいた有象無象のアンデッドを大量放出。
 また、それらにも“死魂魄爆”を掛けていくと、どんどん爆発させる。

 いかに空間を隔てていようと、爆発の余波によって魔力は削られていく。
 回復しないわけでは無いが、俺の感知能力が正しければ着実に減少していた。

 おそらく、別の空間から魔力を取り寄せていたのでは、と思える。
 それならば、[ブレスエット]の環境下でも魔法を使いたい放題だった理由がつく。

 もしそうだったとしたら、現在の状況でそれができない理由も分かる。
 発動中の“闘王への挑戦場”が、その空間へのアクセスを遮断しているからだ。


「おやおや、どうしましたか? 魔力がどんどん減っていますね」

「……御明察。結界のせいで、魔力が補給できなくなる」

「お褒めいただき光栄です。であれば、より苛烈にいきましょうか」


 やがて、展開されていた防御にも少しずつ罅が生じる。
 だんだんと広がっていき、破壊できた──そのタイミングで『封印者』も動く。


「──“魔法封印シールマジック”」


 それはこれまで行っていなかった、口頭での魔法発動。
 魔力の燃費を抑えたのか、あるいはそれすらも戦略か。

 いずれにせよ、魔法は正しく機能して俺の魔法を封じた。
 ……もちろん抵抗したため、完全にでは無いけどな。


「さすがは『封印者』様です、せっかくの死霊魔法が使えなくなってしまいました。力押しはもうできませんか……しかし、かなり魔力を消費したようですね」

「…………異常」

「ふふっ、ありがとうございます」


 封印を成功させるため、かなりの魔力を消耗したらしい。
 一度の抵抗で使えた魔力を、超えるレベルで封印魔法を掛けてきたからな。

 ただし、俺の方は:擬似永久回路:がすぐにそれを元通りにしていく。
 対する『封印者』は、ただでさえ燃費の悪い空間魔法を使い続けなければならない。


「あまり、死霊術師としては相応しくないのですが……仕方ありませんね」

「! ……何!?」

「有り余る魔力を身体強化に回しました。武器の方は……まあ、無くてもいいですか」


 デュラハンたちに借りようと思ったが、外部の支援は通らなくなっていたので断念。
 気功(擬き)で拳を包んでから、地面を蹴りだし──拳を打ち付ける。


「ッ!?」

「おや、届きませんでしたか……残念です」


 渾身の右ストレートは、壁を破壊しただけで『封印者』には届かなかった。
 向こうが驚いているのは、身体強化だけで武技などをいっさい使っていないからだ。

 増幅し続ける:擬似永久回路:の魔力、それは今なお増え続けている。
 体の方が受け付けないであろうそのすべてが、今は身体強化に注がれていた。

 異常、人としてあり得ない存在。
 だが今の俺は死霊術師、魔族因子を打ったいつもと違う体でも、意図的にセーフティを切ることでリミッターを解除できる。


「とはいえ、あまり長くは持ちませんね……ですが、どうやら向こうも終わったようですし、降参していただけますと助かります」


 チラリと外を窺えば、デュラハンたちが見事[ブレスエット]を停止させた光景が。
 なお、停止であって破壊では無いので、特典などはまだ出ていない。

 それでも“闘王への挑戦場”は解除せず、ボクサーのようにシャドーをするふりをして軽い挑発。

 向こうもなりふり構っていられなくなっただろう……こうなると、それはそれで面倒になるんだよな。



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