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山田 武

偽善者と欲深き迎撃 その08



 会話を拒否し、そのままバトルへ。
 青髪のイケメン魔者セイリュウを相手に、俺は彼の領域である森林地帯にて勝負することを選んだ。

 真っ向から挑ませ、それを圧し折る。
 圧倒的な力で捻じ伏せることこそ、今の俺が【強欲】で抱いた欲望だったからだ。


「それにしても貴方は、私の本領がここで発揮されるものだと知っているのですね」

「これまで二人、降しているのだ。バカ正直に力比べだけでは、時間の無駄になるではないか。利用できるものは利用する、それが俺のやり方だ」

「……なるほど。では、時間を掛けるようなものではない、ということですね」

「そういうことだ──言っておくが、俺に自然界の植物程度の毒は効かぬぞ」


 会話の最中、飛んできていた花粉。
 目に見えないそれらは、現実のソレよりも非常に攻撃性の高い代物だった。

 だが、行軍してきた連中からそれらしき情報は予め得ている。
 なので耐性系の魔道具、そして呼吸補助の魔道具を装備していた。

 ついでに“放蕩散財アンリミテッド・ウェイスト”にて、不要な品々を捨てて性能を一時的に強化済み。
 戦いを始める前から行われていた策略は、事前に無効化させてもらっていた。


「そうですか……残念です──ならば、こちらはいかがでしょうか?」

「これは……霧──ッ!?」


 突然白くなった視界。
 だがそれだけならば……そう思った直後、突然黒い影が迫って来ていた。

 とっさに躱し、“欲塗れの宝物庫オール・フォー・マイン”から適当な剣を引き抜き斬りつける。
 少々の硬度に舌打ちし、それでも強引に断ち切った物を見てみると……。


「植物か。なるほど、水と木の両方を操っているようだな」

『御明察。それでは、私は少し離れた場所で貴方をお待ちしております。どうか、それまで死なないことをお祈りしております』


 声は霧を伝って、幾重にも聞こえてくる。
 セイリュウは髪の色であり現代の『青竜』のイメージに沿った水、そして青山や青林といったあお色──木の属性を有していたのだ。

 霧は属性ではなく、水を操り生み出しているものなのだろう。
 そして、木は言わずもがな、担当している分野なのだから自在に操れるわけだ。


「ならばこうだ──“奪魔掌マジックテイカー”」


 霧は魔力を奪えば、あっさりと消える。
 再び晴れた視界、しかしそこにセイリュウの姿は当然無い。

 だが、セイリュウは確実に視界いっぱいに広がる森林のどこかに居るはずだ。
 そう信じて、俺は“欲塗れの宝物庫”からあるモノを取り出す。


「炙り出すだけだ──“天侵嵐萬カースドテンペスト”」


 普通なら燃やすのがテンプレかもしれないが、相手は水属性も使える以上、普通に消されるだろうし……花粉の中に、可燃性の物を混ぜている可能性もある。

 なので使うのは風系統、花粉をすべて吹き飛ばす勢いだった。
 嵐気魔法“天侵嵐萬”は無数の嵐を生み出し、期待通り花粉を吹き飛ばしていく。


「おまけだ、受け取れ──“大地散床グランドグランド”」


 植物が根付く大地そのものに干渉、東の領域一帯に無数の地割れを生み出す。
 どっしりと根を張る大樹だろうと、支えの根幹である地面を失えば耐えられない。

 至る所で地響きが鳴り響く。
 原因は当然、薙ぎ倒されていく何千、何百もの木々だった。


「さて、セイリュウはどこに……っと、自ら現れるとは殊勝な心掛けだ」

「…………まさか、ここまでするとは。こちらの想定に大きな穴があったようです」

「貴様らに俺という存在の情報を、すべて晒すとでも? 見す見す奪われるような真似などせん」


 現れたセイリュウにダメージは無い。
 ただ嵐を吹かせ、地面を割る程度でやられるほど魔者は弱くないからだ。

 それでも自然との一体化、それを得意とする木属性使いを阻害することはできた。
 ……根を張るとか光合成をするとか、なんだかんだ持久力に長けているんだよな。


「ならば、こちらも妨害は極力抑えていくとしましょう。直接戦い、そのうえで勝つ」

「良いぞ、それならば手っ取り早い。すぐに終わらせようではないか!」


 セイリュウは武器を構える。
 それは己の名を冠した武器──青龍偃月刀だった。

 ただし、刃は水、それ以外を鋼のように見える黒い樹木で構築されている品だが。
 自身の力を最大限発揮するべく、金属ではない構成要素で生み出したのだろう。

 全力で挑む証を見て、こちらも黙ってはいられない。
 再び“欲塗れの宝物庫”を展開、中から武器を取り出す。


「俺はこれで戦ってやる」

「! ……なんという神々しい力。ええ、私の気持ちに応えていただき、ありがとうございます」

「勘違いするな。これは貴様を殺さぬため、仕方なく選んだ物に過ぎぬ」

「なるほど、ではそういうことにしておきましょう」


 俺が選んだのは木刀、しかしそれは現実でも売られているような安い品ではない。
 職人の俺が丹精を籠めて削った逸品、その木材はユラル作の神樹。

 罰当たりなことこの上ないその一振りは、セイリュウが感じた通り神気を発している。
 銘は無く、そのまんま『神樹木刀』……それを構えてセイリュウと相対した。


「行くぞ」

「ええ、いつでも」


 眼下で一本の大木が、地割れに呑まれて落ちていく。
 その瞬間、俺とセイリュウは空を駆けて互いの下へ向かうのだった。



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