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山田 武

偽善者と愚者の狂想譚 その27



 俺が【魔王】システム(仮)こと御本尊と勝手に賭けをしていると、ついに【魔王】と【邪王】の戦いが決着の時を迎えていた。


「……終わりだ、『私』」

「ははっ、さすがは『俺』だ。何もかもかなぐり捨てたってのに、届きやしない」

「『私』は『俺』だ。しかし『俺』は『私』ではないのだ。その差だけが、この結果だ」

「…………今さらだが、そんな記憶が浮かんできた。すべてが終わり、塞き止めるものが無くなったからか。嗚呼……そうか、村の者たちが救われる、そんな道もあるのか」


 本来の仕様的に、閲覧者は【魔王】を演じて軌跡を辿っていく。
 しかし俺が改竄した結果、なぜかそうではなくなり自由な行動が可能となった。

 だからこそ、悲劇を食い止め、歴史を書き換えた業績は刻まれる。
 手記の中身が書き換わることはない……しかし、新たなページを加えることはできた。

 故に【魔王】は光を生み出し、【邪王】は邪を打ち払う。
 ありもしないもの、虚像と嘲る者もいるだろう……それでも、存在した真実だった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「これならば、もう……思い残すことなど何も無──」

「いや、待て」


 ゆっくりと瞼を閉じた【邪王】──だったが、ちっとも眠りに着けないだろう。
 それもそのはず……瞼の裏漉しでも分かるほど、強烈な光に外部から照らされるから。


「…………」

「──光よ。おい、無視をするな。『私』はまだ、『俺』にやるべきことがあるのだ」

「寝かせろよ、『私』……『俺』にもうやるべきことなんて──」

「本当に、このままで良いと思うか?」


 ピクリ、と反射的に瞼が開いた。
 その物言いはまさしく、先ほど【邪王】自身が行った安い挑発そのものだったからだ。

 忌々しくも目を開けば、そこには男だった面影のほとんどない【魔王】の姿が。
 その手に浮かべるのは光、それを眼前に差し出していた。


「……俺には、もう無理だ」

「職業は変われど、種族は変わっていないだろう。光も……今ならば生み出せるはずだ。あえて問うが──このままでいいのか?」

「! お、俺は……」

「……そうだな、『俺』は『私』だったな。ならば、示そう──先の世を」


 浮かべた光を【邪王】に突きつける。
 すると、【邪王】の脳裏に浮かぶ──神々の駒である祈念者と、より哀れな道化である【魔王おれ】だった【邪王わたし】の姿。

 彼は祈念者へと宣戦布告をする前、再びその身を神々によって再構築された。
 闇の底から引き摺り出されるように、眠りに着いていたところを叩き出されるように。

 そして、言いたくもない台詞を言わされ、陳腐な演技をさせられた。
 ──その果てに、行動原理すら意味不明な男で出会う。


「……これが、アイツとの出会いか。というか、それで女なのか」

「…………好きで女性になったと思うか? 奴め、わけの分からぬ戯言で論理も関係なくごり押しだぞ? 分かるか、拒否権が無いのに選択を迫られる気持ちが?」

「……はっ、ははははっ! 思った以上に力の代償は重かったんだな! ああ、『私』は想像以上にキツイ、それが知れただけでももう満足──」

「だから、逃げようとするな。『俺』にも背負ってもらうと言っているだろう」


 さながら、その男のように選択権の無い選択肢を突きつけた【魔王】。
 その華奢な手は【邪王】の顔面を掴み、キリキリと締め付けている。


「『私』と『俺』、共に同じ存在だったが今は違うモノとして扱われている。だからこそ共に存在していられた……が、それでも元は同じ明魔族だ。私たちは共に、アレを行うことができるはずだ」


 光属性に高い適性を持つ明魔族は、かつてその高い適性を利用されてその身を『安寧の結晶』という装置に変えられた。

 それは、明魔族同士の境界を曖昧にし、一つにすることで構築される禁忌の代物。
 ……だがそれは、明魔族たちの意思で可能だからこそ、できることを強制しただけだ。


「『融光』、やるぞ。手を出せ」

「──ああ」


 再び【魔王】が、そして【邪王】が光をその掌に浮かべる。
 色は白でも黒でも黄色でもない、月のように冷たい銀色。

 それらを合わせ、光同士を繋げる。
 途端、光は眩い銀色を強め、視界を奪うほどに光り輝く。


「主導は『私』だ」

「ああ、『俺』は委ねよう」

「「──融け合うように」」


 やがてそれは、ゆっくりと【魔王】の中へと吸い込まれていく。
 光が収まった時、【魔王】にも【邪王】にも外見的変化は見受けられない。

 ──だが【邪王】は突然脱力し、そのまま体が動かなくなる。


「……初めてやったが、本当にキツイな」

「……それはこちらもだ」


 同時に、【魔王】も【邪王】ほどではないが軽く頭を抱えた。
 彼らが行った『融光』は、明魔族同士でのみ行える秘術。

 一方の意思や記憶、そして経験の一部をもう一方へと継承することができる。
 その応用で、魔力や適性を譲渡することで強力な結界を構築することも可能だ。

 すでに先の無い【邪王】は、己の操る邪に関する経験をすべて【魔王】へ委ねた。
 それを受け取った【魔王】は、過去の記憶と【邪王】の経験を合わせることができる。


「……職業の力は引き出せぬか。しかし、得たスキルなどは可能か」

「俺の邪気は全部渡せた……アイツらに利用させるなよ」

「ああ、分かっている。この力、利用し尽くしてみせよう」

「……はっ、なら任せたぞ…………『私』」

「──分かっている、『俺』」


 伝えたい、大切な遺志はもう交わした。
 満足気な笑みを浮かべ、【邪王】は体を粒子と化して消えていく。

 ……そして、この世界もまた同様に崩壊していった。



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