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山田 武

偽善者と愚者の狂想譚 その25



 激しさは一層増す。
 光を統べる【魔王】と闇(邪)を生み出す【邪王】。

 世界を欺く霧の中、外部に漏れ出そうとする現象は容赦なく抹消されていく。
 この空間を知るのは、内部の者のみ……勝敗がどうあれ、外部はそれを認識できない。


「どうした、どうしたのだ『俺』! 俺には無い物を、失われた物はその程度か!」

「……安い挑発だな、『私』。いいだろう、ならばくれてやる」

「ぬぐっ……!?」


 集めた光が槍の形を取って射出される。
 それは光魔法の“光槍ライトランス”に似たナニカ。

 スキルとして光魔法を持つ者は、レベルに応じた魔法を使用が可能だ。
 そして、それと同じく光の属性魔力を行使する際、威力や制御などに補正が入る。

 明魔族である【魔王】は、詠唱をいっさい必要とせず光の魔力そのものを操れた。
 システムによって運用される魔法と違い、そのすべてを個人で行わなければならない。

 だがその分、光魔法によってもたらされる補正の恩恵を自分で決めることができる。
 同時に、システムによる階級設定も無いため、下級無効などのスキルも突破可能だ。


「くっ……集え、光を呑み込め!」

「無駄だ。私の光は邪を滅する」


 明魔族の中でも、希少種である【魔王】。
 そして、今なお泣いたふりをしている偽善者の手によって強化された体は、力を失う前よりも強力な光の魔力を生み出している。

 無数の光が、今度は刃の形で飛んでいく。
 化け物の形状も、保有するスキルも関係なく一切合切を切り刻み【邪王】を襲う。

 舌打ちをし、突きだした両手から闇色の魔力を生み出し盾とする。
 ただ広範囲を守っても無意味だと感じ、最低限致命傷となる部分だけに魔力を集中。


「がぁあああ! なんだ、その力は!」

「言ったであろう、操る先に居たのが変人であったと。そこの嘘無きをしている男が、わけの分からないものを突っ込んで来てな。全身を刺し貫かれたかと思えば、私は私が私で無くなるような感覚を覚えたものだ」

「聞きたくないわ、そんな体験!」

「? そちらが聞いてきたのであろうに……なるほど。この経験もまた、『私』と『俺』とを分けるものということか」


 かつての自分では、どれだけ足掻こうとできなかった邪への抵抗。
 それをあっさりと成し得た、自分ではない自分に問うた結果……要らぬ情報が増えた。

 ギッと【邪王】は傍観を貫く大根役者を睨みつけるが、音の出ない口笛を吹いて見て見ぬふりを続けている。

 なお、そういったこと・・・・・・・があったかと言えば事実無根である。
 ただし、【魔王】の語るようなことがあったかと言えば……それは事実だった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 俺はただ、いろんなものを【魔王】の魂魄が宿る手記に突っ込んだだけだ。
 そして、手記もまた毎度お馴染みのアレに突っ込んだだけのこと。

 そう、なので俺は無罪だ……そう念じているが、果たして眷属たちに伝わるだろうか。
 なんて俺がやっている間にも、状況はさらに【魔王】優勢のものへ。

 分かりやすく言えば、【魔王】の光は破邪の力を宿している。
 これは俺……というより、アレこと『機巧乙女』がやったこと。

 武具っ娘たちの種族がチート級なのと同じように、【魔王】の種族が進化したのだ。
 その名は【宵明】、『黎明魔王』を名乗っていた彼の者に相応しい固有種族だった。


「司るのは光、そして闇と月。まあ、だから破邪の力云々が宿るとか、そういうことは特別無いんだが……うん、やってるな」


 そこはこう、本人の技量の勝利だ。
 強化された光属性の適性で、聖属性でなくとも破邪の力を部分的に引き出せるようにしている。

 お陰で化け物たちは、生み出された直後に滅ぼされていた。
 他の形状──攻城戦イベントの時みたく、武器にすればいいのだが……制約がな。


「どうした、もうおしまいか」

「……まだだ、まだ終われぬ!」


 足掻くように巨大な化け物を生み出す……が、瞬時にこれまでより太い光が貫けば何もできないまま化け物は消滅する。

 それでも何度も、何度も、何度も化け物を【邪王】は生み出していく。
 まるでそれに意味があるかのように、無駄な足掻きを繰り返す。

 応じるように【魔王】もまた、【邪王】には攻撃せず化け物だけを殺していく。
 何度も、何度も、何度も……生み出される化け物が小さくなるまで。


「……もう済んだか?」

「ハァ、ハァ……そのよう、だな」

「忌々しき神々の策謀、それもこれで終えることができる。『私』の死を以って、過去との決別を告げよう」

「『俺』はそうしろ。『俺』の今は、『俺』だけのもの……がぁあああああああ!?」


 光を一発体に打ち込む、それだけで幕は引くはずだった。
 しかし、邪神はさまざまな状況を予測し、対策を取っていた──故にそれは起きる。


「早ク、早ク俺ヲ殺セ、『俺』ェエエエ!」

「くっ……終わりだ!」

「がぁあああああああ……ァアアア!!」


 たしかに与えられた邪気は尽きた。
 しかし、それは邪神の加護が機能を止めることと『イコール』にはならない。

 たとえ外界から遮断されようと、事前に与えた邪気が尽きた時点で始まる罠。
 本来、制約によって使われるはずだった魂魄を貪り──邪気が高まっていく。



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