AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と愚者の狂想譚 その06



 ──月──日。

 どうやら、約定は果たされたようだ。
 だがどういうことだ、なぜ『追想』ではなく『体験』になっている。

 それにだ、俺はあんな魔物知らない・・・・・・・・・

 俺の知らない仕掛け、知らない物、知らない出来事……これはなんだ?
 俺は契約を履行した、そして得たものに間違いはないはず。

 ……本当にそうなのか?

 無様に踊る人形へ、正当な対価が支払われると何故思っていた。
 使い捨て、用済みになった傀儡との誓いを何故守ると考えていた。

 だが、それでもこれだけは確かだ。
 約定が果たされるとき、それは間違いなく必ず訪れる──俺に起きたこと、その■劇だけは必ずなぞってくるはず。

 好きに利用しろ。
 どのようにしようと、事実は変わらない。
 だがそれでも、夢を見せるというのであれば──少しでいい、それを見せてくれ。

  □   ◆   □   ◆   □


≪第一の■劇:■■族壊滅──終了≫
≪二十四時間後、第二の■劇へ転送します≫

 ・
 ・
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≪──物語が彩られました≫
≪閲覧者の能力値・スキルの制限が緩和されます≫

≪──物語が描かれました≫
≪閲覧者の武技・魔技の制限が緩和されました≫

≪評価──■……とナりマス≫
≪評価に合ワせ、緩和を実行しマス≫


  □   ◆   □   ◆   □


 表示が所々おかしいアナウンスが、脳裏に響いていた。
 どうやら[ステータス]の制限が緩和されたとのことだが……俺の体に変化は無い。


「[ステータス]……ああ、やっぱりね」

「どうしたの、メル君?」

「ええ、簡単な話です──僕の体は、未だに弱体化したままです。そしてこれは、まだ続くようです」

「えぇ!?」


 おかしくなっていた部分、それは評価に関連する箇所だった。
 要はイレギュラーなナニカによって、今後も虚弱状態で試練を乗り越えねばならない。

 本来、これは少女たちも含めて全員に課せられるはずだったもの。
 それを俺がすべて引き受けた結果だったのだが……ある意味、それで正解だったな。

 全員がバランスよく弱体化するより、一人が虚弱になっても他が十全に力を振るえた方が良いはずだ。


「どうやら一日経ったら、ここから転送されるようです。その時間に、本来であれば何かさせたかったのでしょう。せっかくの休憩時間ですので、姫様も何かされては?」

「メル君はどうするの?」

「僕ですか? そうですね……自然と制限をどうにかする方法は取れなくなりましたし、何か手段を探してみようと思います。二回目は間違いなく、ここよりも困難でしょうし」


 まあ、少女たちに限れば高レベルかつ便利な装備でどうとでもするだろう。
 しかし、俺が足手まといになって身を危険に晒させてしまうかもしれない。

 装備に関しては俺でも使えるが、強力な物ほど虚弱な今は使いづらい。
 ……[イニジオン]はコンセプトが狙撃銃だったので、反動を元から抑えていたのだ。

 ともあれ、何かしら策を考えなければならないだろう。
 幸い、何かに気づいた名探偵様もいるわけだし……苦労しなくていいな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 二十四時間で強制転送になる以上、シャルへ説明した以上に忙しくなる。
 念のため村に新たな結界を張らせてもらったり、復興の手伝いもしていた。

 技能系のスキルは健在なので、俺もさまざまな場所で磨いた技術を発揮。
 ……共都で復興作業に準じていたため、それに関することは得意になっている。

 その作業をしながら、俺はシェリンからジリーヌを介して聞いた話の続きを求めた。
 彼女は俺に必要な工具を渡しながら、自身の考察を語りだす。


「──気づいたのは、村の人と話をした頃からかな? 手記の存在、過去の存在である彼らはどういった理屈で動いているのか。また現れた魔人族やあの魔物、アレらが村を襲う意味とは何なのだろうね」

「手記通りの内容なら、『安寧の魔結晶』を創るため……だと思うけど。たしかに、ミミズキメラは出てくる必要が無かったよね」

「そう、アレは存在そのものが異様だった。ボクも視て、おかしいと感じたよ……キメラではあるが、あれは錬金的要素がまったく感じられなかった。造られた、いや創られた種なのかもしれない」

「……邪神、それも偽物の方でしょう。でもどうして、あのタイミングで?」


 偽物の邪神……正しくは、偽物では無いのだけれども。
 しかし、運営神たちの中で邪神を担当するはずだった、本来の邪神ではない邪神。

 本当は、うちの『のだロリ』邪神だったはずだからな。
 しかし彼女から権能の半分を奪い取り、運用されているのが偽りの邪神。

 神としての力は働くようで、【魔王】やかつては邪神教徒に加護を授けている。
 それ繋がりで干渉したことは間違いないだろうが……それは、何故なんだ?


「事実はどうあれ、ボクたちが行っていることは改変に近い。君が悲劇と思われる事態を解決することで、【魔王】が邪神に与する未来が失われるのであれば……何らかの形で、それが今に影響を及ぼすのではないかい?」

「…………たしかに、僕や祈念者たちで過去の改変をしたら、少なくとも一つの国の歴史が丸々変化していましたね」

「つまりだ、間接的に悲劇をやり遂げるための使者……それがあの魔物だったのだろう。だが、君の活躍によって十全な力を保ったままだったボクたちによって防がれた。そういうことなのだろう」


 活躍というほどではないし、むしろ活躍していたのは彼女たちだと思うが……まあ、それを主張しても、受け入れてくれる人たちでは無いと分かっているので何も言わない。

 それよりも、今は訊いておかないといけないことがある。


「……まだ、続くんですね」

「間違いなくね。次の場面、何をすべきなのかは分かっているんだ。そこから対策、そして向こうの手を推測しておかないとね」


 だが、向こうも向こうで今回の戦闘で力を失っていないことは分かったはず。
 ……油断ならないな、俺も俺でできることがあればよかったのに。



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