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山田 武

偽善者と魔王の写本 後篇



 需要に応えてショタ化した後、独り手記の置かれた装置の下へ向かう。
 その手にはヤシの実サイズの巨大な種子、悪意を取り込んだその名は『魔王の種』。

 台座の上に浮かばせていた手記を手に取ると、種子にゆっくりと近づけ──反発。
 過去の【魔王】と悪意の残滓、共に禍々しい力ではあるが……それでも異なる。

 しかしながら、本来の工程を無視して一気に手記を完成に至らせるためには、多少の無茶が必要なわけで──『運命簒奪者』である俺は、なのでこうすればいい。


「──<合成魔法コンバウンド>」


 バチバチと魔力の火花を上げて抵抗する二つを、魔力で強引に捻じ伏せていく。
 両手の中で暴れ回るエネルギーが迸り、体内・体外関係なく傷つけていった。


「うーん、けどこれ以外に上手い方法が無いからなー。プラスして──<多重魔法マルチプル>」


 周囲に魔法陣が浮かび上がり、反発するエネルギーを中へ押し込む。
 必要な魔力はどんどん増えるが、今は特に縛りもしていないので魔力は充分にある。

 やがてエネルギーたちは抵抗を諦めた……が、今度はまた別の反発が。
 核となる【魔王】の意思と悪意の残滓、それらも合成が始まった。

 すでに悪意の残滓の意識は消去したが、反射行動のようなものだろう。
 自身を利用するものを、逆に取り込もうとしている。

 予め説明をしていたからか、スムーズにこれに対抗する【魔王】(の意思)。
 俺はそのアシストをして、ゆっくりと、だが着実に種のエネルギーを手記へ注ぐ。

 しばらくすればそれも終わり、ようやく合成が完了する。
 手の中に納まった手記、そこにはこれまで記されていなかった文字が表示された。


「『愚者の狂想譚』……これが、あの人が残したかった物なんだね」


 心配そうにこちらを見ている彼女たちに、ニコリと笑みを浮かべて手記を掲げる。
 ホッと安堵の表情になったのを見て……裏で修復作業を急ぐ。


「ふぅ、それじゃあ魔力が回復したら、さっそく中に入るよ。みんなは最後の準備をしてね。僕は……ちょっと瞑想でもしてるから」


 その場に座り込み、座禅を組んで大きく深呼吸……目を閉じているが、近づいてくる気配を感じ取った。


「君、少しいいかな?」

「……はい?」

「──その傷は、そのままで大丈夫かい?」

「……ええ、スキルをフル活用していますのでそのうちに」


 やはり、探偵の目は誤魔化せなかったようで……シェリンの声音は、やや不安げだ。


「すぐに治せないものなのだろう? おそらく、ボクたちが回復魔法や魔術、ポーションなどを使っても」

「そうですね。回復阻害が付いてますし、自然回復も妨害されています。時間を掛けて、ゆっくりとやるにも上手くいかなくて。おそらく、強引に事を進めた分のペナルティかもしれません」

「君がそこまでの無茶をしてでも、成すべき事だったのかい?」

「──はい、それは間違いなく。だから、今回はみんなに頼ってでも早急な魔本のクリアが必要になります」


 ジッとこちらを見て、俺が嘘偽りなく本音で言っていることもバレバレなのだろう。
 俺にとっては一瞬、彼女にとってはたっぷり時間を掛けて考え……溜め息を吐いた。


「……ハァ、元でも助手の抱えた問題だ。多少の無茶は承知の上さ。そうだね、君は今の状態を気づかれたくはない──とは思っていないようだし、その手伝いをしようか」

「……本当に、名探偵には敵わないなぁ」

「ふふっ、惚れ直したかい?」

「はい、とっても」


 瞑想しているので、ボケ返しがどうなったのかを見ることはできない。
 頭脳明晰な彼女が何を考えているのか……それを知ることはできなかった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 自由世界 始まりの草原 転移迷宮(仮)


 そこは第一世界から、住民たちを送り出すために用意された小さな迷宮。
 入り口には特殊な仕掛けがあって、関係者以外が入ることは困難になっている。

 そんな迷宮の中で、手にした手記を開くことを予定していた。


「ある事情があって、どうしてもこっちの世界で手記を開ける必要があるんだ」


 俺たちが普段生活する世界は、俺が空間魔法で亜空間化した場所……そのうえで、何度も魔法で世界の情報とも呼べるものを上書きしているため、まったくの別世界だ。

 職業システムなどはそのまま使えるように接続しているものの、運営神たちから捕捉されないようにさまざまな情報を絶っている。

 それが今回の計画では問題となった。
 手記は何としても、世界の管轄下にある場所で条件を満たさなければならない。

 計画を成功させるためには、一時的にでもこちらへ来る必要がある
 ならばどうするか──というわけで、ギリギリ異空間でもこちら側な迷宮へ来たのだ。


「まあ、それはいいとして……みんな、準備はできたね?」

「うん、いつでも行けるよ!」

「何があるか分からないからね……それじゃあ、行くよ!」


 手記を開けばその瞬間に、禍々しいエネルギーが辺り一帯を覆う。
 俺、そして少女たちを呑み込み──手記の世界へと連れ去る。

 すべて承知の上で来てくれた彼女たちは、恐怖に打ち勝ちそれを受け入れた。
 そして、俺たちが存在する世界が移り変わり──物語が幕を開く。



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