AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とデート撮影 その02



 夢現空間 研究室(?)


 イベントも終わり、優雅な一時を……というわけでもなく、今回の時間を確保した。
 そして、俺は彼女に招かれて研究室を訪れた……はずなんだけどな。


「いつの間にこんな施設が……」

「驚いたかい? マスターの世界と言えど、そのすべてを知覚しているわけではないからね。その在り様は、マスターが僕たちにこの世界を委ねているとも言えよう。そして、マスターは僕たちの秘密も許容してくれる」


 研究室とは本来、解析スキルに補正が入るだけの場所だった。
 眷属たちが施設を利用するようになり、情報を整理するための機材が置かれるように。

 ──俺が把握していたのはこれだけ。

 だがいつの間にか、研究室には複数の扉が取り付けられており。
 仮眠室やら培養室、そして検証室という部屋が新たに増設されている。


「当然、マスターが肯定してくれなければ、部屋は消失していただろう。この世界の主はマスターで、絶対的な存在だからね」

「……そういうものか? 知らないから、そのままだっただけじゃ?」

「なら、どうして今も存在しているかい? マスターの仮説が正しければ、知り得ないはずだったこの施設を知った以上、何かしらの反応があるはずだろう。つまり、無意識的に僕たちの行いを許容していたのさ」

「グー……」


 何が嬉しいのか、今は一本な狐の尻尾が揺れ動いていた。
 グー、【強欲】の武具っ娘である彼女は、自身の知により広げた空間を教えてくれる。


「空間への干渉は比較的簡単だったよ。迷宮と違って、あくまでもマスターが僕たちのために構築した場所だからね。意図的に調節しようと思えば、それなりに簡単だったよ」

「ふむふむ……ところでグー、仮眠室はまあいいとして。培養室……もまあ、用途自体は理解できるからいい。けど、検証室ってどういう用途なんだ?」

「…………文字通り、検証する部屋さ?」

「なぜに疑問形? いや、そうじゃなくて、実験室で散々いろんなことをやってたのに、どうして検証室って部屋が必要なんだ?」


 実験室は主に、スキルや魔法、アイテムの性能を確かめるためのもの。
 あとは眷属が暇な時、共有した技などを放つための場所だな。

 解析班に属するグーも、そこでさまざまなモノを試していた。
 ……だが思えば、ここを使うとき誰かしらメンバーが欠けていた気がする。


「……おや、検証室にシャッターが」

「ああ、こんな感じか。多分、不信に思うと入れなくなるんだろう」

「それは興味深い……が、今は弁解をしておいた方が良いみたいだね。検証室は他の部屋同様、字の如く検証するための部屋さ。ただ少しばかり特殊な検証が必要なものを、この部屋では試しているのさ」

「それは分かるが……うん、シャッターも全然開かないな」


 不信感から下りたシャッターは、説明を聞いてもまったく開かない。
 何がダメなのか……嗚呼、改めて思えばこれだけ訊ければ大丈夫か。


「グー、質問に答えてくれ。この部屋は……見せられないというか、危ないものを試すための場所なんだろう?」

「肯定しよう。環境をある程度自在に設定できたり、内部での変化も外部に出れば大半は無かったことにもできるけど、それ以外の部分は実験室とほとんど変わらないよ。あくまで、外にそれらが持ち出されないよう──」

「俺やここを知らない眷属が、心配するからか?」

「…………そう、だね。皆を巻き込みたくはないのさ。これは僕、そしてそれを受け入れてくれた解析班のエゴさ。マスター、そんな理由だけども……認めてくれるかな?」


 俺の答えは……決まっていた。
 シャッターが消え、再び部屋へ入れるようになったことでそれは証明される。


「案内、してくれるか?」

「ああ、マスターが望むのであれば」


 俺たちは中へ入っていく。
 そしてそこには──研究室以上の設備が、並んでいるのだった。


          ◆


「──とはいえ、一部は企業秘密とも言える区画だからね。映像の方は、あとで検閲をさせてもらうよ」

「はいはい、了解しました……ところで、これはどういう用途なんだ? パッと見、俺にはポップコーンの製造マシーンにしか見えないんだが」

「ああ、それは錬金術用でね────を──して、──────するものなんだ」

「はー、まさかこんな物から蘇生薬が出来上がるとはな」

「あまり世に出せない方法だからね。ああ、もちろん合法的にね」


          □

「──といった風に、成分の抽出には成功しているんだがね。あと一歩のところで、失敗してしまうんだ……おそらく、権限的なものが足りていないんだろう」

「権限か……システム的な問題となると、あれじゃないか? そういう[称号]が必要になるとか」

「確かにそうなんだが、やはり獲得した者が見つからなくてね……今はまだマスター頼りになってしまっているよ」

「いずれは俺が居なくても……ってのはまあいいんだが、これはちょっとな──超越種スペリオルシリーズにバレたらしばかれそうな気がするぞ」


          ◆


「──以上で説明は終了だ。ここまでの感想はいかがかな?」

「うーん、テレビでよくやってる工場見学のモザイクが掛かってる部分、あれってそんな感じなのかなぁって思いました」

「実際、企業秘密というのはそういうものだからね。テレビ越しとはいえ、観られれば損失する可能性のあるものは隠したい。だから秘蔵し、他の企業が同じようにできないようにする……知られないからこそ秘密なんだ」

「まあ、そうだよな……ただ、思ったのはそれ以上に──これがそんな工場見学で、グーとのデートって感じがしなかったことか」


 研究室や検証室を、グルグルと回っただけだからな。
 ただまあ、その都度グーが楽しそうに解説してくれたので、俺的には満足だが。

 しかしながら、世間一般のデートという感じでは無かった。
 なんというか、まあそれでも触れ合いは楽しめたか──


「……むぐっ」

「いきなりで驚いたかな? だが、マスターがまだ物足りそうだったからね。とっておきのサービスさ」

「……情緒も減ったくれも無いな。アレが生配信だったら放送事故レベルだぞ」

「おや、気に入ってもらえなかったかい? それなら、もう一度した方がマスターも嬉しい──っ」

「……やられっぱなしは、少しな」


 ──最後の触れ合いは、とても甘い味がしました(編集済み)。



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