AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント後篇 その16



 四天王『白熊』の試練を突破した俺(添い寝)とナシェク(結界破壊)。
 証として白熊の紋章を貰い、次に転移したフィールドは──


「ああうん、やっぱり予想通りだな」


 再び巨大な門が目の前に鎮座していた。
 そう、俺が火山に行っている間に四天王たちが痺れを切らしたのだろう。

 転移陣に干渉し、向かう先を自分たちの場所に限定した(しかも、いきなりゴール)。
 なので俺にできることは、後ろを見ることと作業的に扉を開くことだけ。


「……ナシェク的に、これってどう思う?」

『大変好都合だと思うのですが? 貴方が紋章を得ることもそうですが、何より彼女たちの注意が貴方に向きます。他の探索者たちがより攻略しやすくなる、そうお考えになれば
いかがですか?』

「うん、そうした方が楽かも。さっきから、遠くで悲鳴みたいなのが聞こえてくるし」


 廊下の雰囲気はやや暗め、暗視が無くとも視界は確保できるが逆にそれが辛い。
 意図的に選択を狭められるからな、灯りがあれば大丈夫……それが罠である。

 中途半端な光は敵を呼ぶ印になるからだ。
 真っ暗闇なら思いっきり照らす、あるいはその環境でも活動できる者のみが動くが、仄暗い場所でわざわざそれを選ぶ者は少ない。

 慣れと恐ろしいものだ。
 その教訓を得るため、このフィールドを訪れた者たちは悲鳴を上げているわけだな。


「さっ、気を取り直して入ろうか」

『……それで良いのですか?』

「うん、せっかく眷属が考えた迷宮に文句は言えないもんね。凄いって褒めてあげることはしても、ダメだよなんて叱るのはおかしいからね」

『貴方は貴方で……とても過保護ですね』


 いったい、なぜそんな結論に至ったのかはともかく、俺は扉に軽く触れた。
 スーの時同様に、扉がそれ以降の動作を勝手に行い門扉は開かれる。

 ──なお、[マップ]情報によるとここは『病蛇の間:入口』でした。


「ウェルカームトゥーマイルーム! ようこそ、ここは『病蛇』の塔の最上層だよ!」


 スー──『白熊』の時と違い、完全に扉が開いた直後にライトアップ。
 部屋の主同様、一気に空間が明るくなっていく。

 名前から察していたが、やはり『病蛇』の正体は【嫉妬】の魔武具っ娘ヤン。
 今は完全に普人の姿なのだが、蛇獣人のアバターに受肉した……ヤンデレ(一応)だ。


「……そういえば、四天王って四つの塔にそれぞれ居るんだっけ」

「そうそう、だから浮島まで来れた人たちも苦労するんだよねー。物理的に移動しようにも、そっちもそっちで強い魔物が放流されているからねー」

「情報、教えてくれてありがとう。それで、試練はどういう内容? 僕とナシェケエル、内容が違うなら先に教えて欲しいんだけど」


 なお、ナシェケエルは『冥闇の鎌使』としての顕現だ。
 俺とナシェケエルの間で目をキョロキョロさせた後、咳払いを行うヤン。


「ノゾムは何もしなくてよし! はい、これが『病蛇』の紋章だよ!」

「……スー、『白熊』だっていちおう試練を出したんだよ」

「いいもーん、スーはなんだかんだ、ノゾムに甘々だからね。でも、あたしはそういうのは違うと思う──やりたいようにやる! ただそれだけ!」

「う、うん……達観してるね」


 誉め言葉(?)を聞いて、胸を張るヤン。
 なお、そこまで無い……いや、何がという話でもないけど。


「で、問題は……そっちのナシェケエルだっけ? うん、あんたは……一分耐えられたら合格にしてあげる」

「! それはつまり、私がそれを達成するのも困難だと、そう仰りたいのですか?」

「まーね。そりゃあ、全力全開なら十秒も持たないだろうけど、今の状態ならもう少しぐらい持ちそうだしね」


 あーうん、無自覚で煽ってるな。
 ナシェケエル、なんだかこめかみが引くついている気がするよ。

 そんなこんなで、売り文句に買い文句。
 二人は向き合って、俺の合図を受けたら開戦ということになった。


「えー、それじゃあ──ファイッ!」


 手を上から下に振り下ろすと、その瞬間に動き出したナシェケエル。
 その手には黒く輝く鎌を握り締め、勢いよく薙ぎ払う。


「うーん、全然足りない」

「! 腕で防御を」

「再生力を突破できないみたいだし、あれだけ振りかぶって鱗一枚に傷をつけるだけみたいだし……スー、かなり脆くしてたんだ」


 ヤンの(アバターの)種族は無限蛇。
 死と再生を司り、永遠の象徴ともされる彼の存在を人型に留めたような存在。

 今回の場合、無限の再生力によって鎌の到達を防いでいた。
 具体的には獣人化して鱗で攻撃を受け、細胞組織が破壊された瞬間に再構築している。


「じゃあ、今度はこっちの番。ちゃんと耐えないとダメだからね」

「! ──『天岩の盾使』!」

「行くよー──“絶対切断”」


 彼女の爪がナシェケエルに振るわれた。
 鎌から切り替えられ、構えられた岩の盾に向けられるが……それを一瞬で引き裂く。


「……!」

「へぇ、工夫したんだ。うん、でもまだ足りないかな」


 ヤンの鱗同様に、『天岩の盾使』で用いる盾は破壊されてもすぐに修復される。
 やり方は別だが、“絶対切断”の力に抵抗し得るだけの展開能力を持っていた。

 しかし、それはある意味武具の性能の勝負となる。
 やがてその斬撃は、ナシェケエルへと少しずつ迫っていき──



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