AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント後篇 その02



 ついにラスボス(笑)を始めたわけだが、やはり一人で数十万を捌くのは一苦労だ。
 アルカのように特異的存在は何人も居て、そのうえで通常通りの運営も必要となる。

 イベントエリアのさまざまな場所が、玉座の間に鎮座する俺の下に届けられていた。
 それらを一つ一つ、[世界書館]の処理能力に任せて情報の把握を済ませていく。


「アルカはとりあえずフー……じゃなかった『神竜』に任せたし、とりあえず一般枠の方に専念しよう。そっちはどうなっている?」

「地上の迷宮誘導は、『天女』と『吸血姫』が。都市形成は『塔主』と『塔核』が行っています」

「まあ、向こうはゲーム用語にも柔軟な対応が必要だしな……適切な人選か。じゃあ、各領域の方は?」

「人族は『姉妹』、『使徒』、『札姫』が。魔族は『勇魔』、『学者』、『助手』、『メイド』が。迷宮へ『冥犬』、『節介』、『迷宮』、『闘機』が。廃都へ『十字架』、『縛鎖』、『覚成』が向かいました」


 ……なんだろう、『メイド』のインパクトが尋常じゃないな。
 他にもいろいろと突っ込みたいのだが、そこの印象が強すぎる。

 眷属たちには俺がラスボス(笑)をやっている間に、いろいろとやってもらう予定だ。
 例の悪意云々もあるが、ここまで焚きつけても動かないお偉い様とかのチェックもな。

 思いのほか外に出ているのは、四天王ポジションに選ばれなかったからなのか。
 いずれにせよ、彼女たちが俺にはできないことをやり遂げてくれるだろう。


「そうだな……今、俺がやらなければならないことはあるか?」

「要注意人物のピックアップはこちらで済ませていますので、そちらの確認でしょうか。ただ、今はそちらよりも──こちらを」

「アルカか……スーの結界がいかに万能とはいえ、さすがに絶対無敵とはいかないしな。フー次第ってことか」

「『白熊』、『神竜』ですよ」


 白熊……見た目的にな。
 彼女たちのコードネームは、このイベント中だけでも名前を隠すためのものだ。

 現在、眷属はその姿を本来のものとして認識できないように阻害を施してある。
 そのうえで、とっておきのスキルで保険も掛けてあるのだが……それはまた別の話。

 ともあれ、平時とは少し違う状態だからだろう、そんなシステムになっている。
 問題は、それらについていっさい明かされていなかった現状だ。


「……訂正するぐらいなら、俺にも事前にそのコードネームを教えてくれよ。さっきの、一瞬誰か分からないのもあったんだからな」

「おや、では『秘書』は誰でしょうか?」

「話の流れを断ち切る感じから、たぶんアン自身だろう? というか、何故に秘書」

「今のわたしに適していますので」


 アンは直接戦闘を行ったり、外部に向かった者たちのようなこともしない。
 俺の処理した情報を解析し、適切な判断を下してくれる。

 まあ、ある意味秘書っぽいと言ったらそう思わざるを得ないが。
 ……いったいどこに、仕える相手の頭の中身を読み取る秘書が居るのだろうか。


「……そこ、ここに居ます、みたいな感じな顔をしない」

「さて、それではメルス様、『神竜』の戦いぶりにそろそろ注目しましょう」

「話を露骨に逸らしたな。いやまあ、ちゃんと意識の一つは向けて確認していたぞ。どうやらフー……じゃない、『神竜』も今回は張り切ってくれているみたいだな」


 大前提の話ではあるが、フーもアルカも共に【憤怒】の能力を発動している。
 ただし、発動している能力が異なり、アルカに至ってはオリジナル魔法への転用のみ。

 彼女の放つ魔法のすべてに、決して消えない炎が宿っている。
 だが、『消えない』という因果を、フーは拳一発で打ち砕いて無効化していた。

 それこそがフーのスキル(因果改変)。
 運命すらも捻じ曲げることができる、まさに<大罪>的な能力と言えよう。


「その分消耗は激しいが、“湧き立つ衝動イクスエナジー”で無尽蔵に回復するし……受けたダメージは“受体反撃セルフカウンター”で返すうえ、その分だけ攻撃が強くなる。能力との相性が良すぎるな」

「自身で消耗した分だけ、回復速度が向上する“湧き立つ衝動”。そして、身力を消費してあらゆる概念を逆さにする“接触反転”。これらを攻略しない限り、アルカ様の勝利は難しいかと」


 アルカも魔法に創意工夫を凝らしているようだが、攻撃すれば攻撃するほど自分もピンチに追い込まれている。

 自分の攻撃が相手の攻撃になり、攻撃魔法が回復魔法へ。
 弱体化は強化になり、また自分への強化が呪いとなる……すべてがあべこべになる。

 本人の性格からそうした使われ方はめったにしないのだが、今回は特別らしい。
 フーなりに思うところもあり、アルカには【憤怒】を使わせたいようだ。


「しかしまあ、アルカが【憤怒】を完全に使いこなすときかぁ……それ、ほぼ確実に俺死なないか?」

「かなり危ういかもしれませんね、お独りの力では」

「……嗚呼、先が思いやられる」


 だが今だけは、しっかりとこの目に焼き付けておこう。
 そんなことを思ったからだろうか──アルカの髪色が、真っ赤に変色したのは。



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