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山田 武

偽善者と陣営イベント中篇 その14



 ナシェクの慟哭、それは俺がこの場に召喚したディーの姿が原因。
 真っ黒な影法師姿の天使、それはかつて存在したユニーク種の残滓。

 否、彼の存在が亡き今、ソレこそが本物なのかもしれない。
 ──『護法天影[ロウシャジャル]』、その写し身がここに現界した。


「アレは僕が創ったユニーク種を、同じく天然もののユニーク種であるディーが再現しているんだ」

『…………いろいろとおかしな箇所もありますが、今はいいです。しかし、なぜこのタイミングで?』

「うーん、ノリかな? あれだけやっても通用しなかったし、長期戦に持ち込むよりはこの方がいいかなぁって」


 俺自身はいっさいの戦闘行為ができなくなる代わりに、ありとあらゆる存在への変化が可能となるディーの“専変瞞化ディヴァース”。

 血の塊の蠢きが、このまま戦いを長引かせてどうなるのかは不明だ。
 ならば一気に蹴りを付けるべく、畳みかけても……という考えである。


『♪』


 ディーはまず翼を広げる。
 黒い光が周囲を包むと、巨人が突如としてガクッと膝を着いた。

 起き上がろうと形を歪め、強引に上を目指そうとする……が、血の塊はいつまで経っても元の形になることはできない。


『アレはいったい……』

「“侵罪氣洩”、相手が罪深ければ罪深いほど身力の最大値が減るんだ。あの血の塊がスライムみたいなものだと考えると、ああなるのも納得じゃない?」

『スライムはたしか、生命力と体積が同じでしたね……なるほど、どれだけ形を整えようとしても、その分だけ減ってしまっているからですか』

「そういうこと。もちろん、限度があるからそのまま死なせるなんてことはできないよ。なんてったって、今のディーは天使だもん」


 夢現祭りの際に確認したが、軽犯罪程度だと精々一割で停止する。
 だが、PKプレイヤーは必ず三割は減っていたし、罪深ければ五割まで達していた。

 そして血の塊、アレは悪意の塊だ。
 願望の魔法によって叶えられ、築かれた歪な迷宮都市……その地に潜み、蓄えられてきた黒い想いの結晶。

 積もりに積もったものなのだろう。
 だからこそ、今回は致命的なまでに相性が悪いのだから。

 俺が[ロウシャジャル]に求めたもの。
 それはある意味、悪意の塊も求めたであろうもの──本来の法では捌くことができない者を、己の意思で裁く力なのだった。


『ですが、あれだけでは倒し切ることができないのでしょう? いったい、どのようにして終わらせるのですか?』

「ふっふっふ、そこら辺もぬかりないよ。いくつか能力はあるんだけど、その中の一つ。あそこは[ロウシャジャル]の領域となり、それに背く違反者に対して、致命的な攻撃ができるようになるんだ」


 ディーこと[ロウシャジャル]は翼から切り離した無数の羽を、血の塊に向けて一斉に放射していく。

 不定形でありながらも、ただ甘んじて受け続けてはいない血の塊。
 抵抗するように、なぜかさまざまな場所から火を吐き出すのだが──それはアウト。

 法に背き、反撃を行う。
 それにより、矢の鋭さは火を吐く前とは段違いと成り、容赦なく血の塊を貫いていくのだった。


「“法務矢行”。要するに、自分ルールを設けてそれに背いたらダメにするんだよ。ただし、ルールは自分にも適応されるから、あんまり無茶なことは設定できないけどね」

『……反撃をするな、というのは立派に無茶なことでは無いのですか?』

「相手に、じゃなくてディーにだから。これならディーは違反しないでしょ? 遵守できているんだから、問題ないんだよ」

『…………』


 ああうん、同情をしているなら……血に。
 悪意の塊が反撃をしないわけが無いのだから、この流れは分かり切っていたこと。

 俺だって負ける可能性があるのに、一定期間ディーが召喚できなくなるような切り札を使うわけが無いだろう。

 勝つことが確定、それぐらいの状態だと俺なりに踏んだからこその召喚である。
 そして、ディーはそれに応えるべくトドメの一撃を指そうとしていた。


『アレは……なんでしょうか、急に発光しだしたのですが?』

「──“填影宕砲ロウシャジャル”、要するに奥義みたいなものだよ」

『奥義……ということは、これまでで一番えげつない効果が?』

「まあ、そうなるかな? これまで断罪して来た分だけ、この一撃は強化されるんだ」


 とまあ、ここだけ聞くと蓄積型の能力でそこまで凄いように思えないだろう。
 実際、一回使えば溜めた分はリセットされるので威力は低下する。

 しかし、運用していたのは祈念者たちが集まるイベントの最中なのだ。
 相応に人が集まり、断罪対象などそれこそ自由自在に補填可能。

 そんな状況なのだから、火力だって常に最上級だった。
 イベント中、ついぞこの能力に真っ向から打ち勝てた者は居なかったぐらいである。

 手を筒状にしてチャージし、やがて放たれた光の極太い柱。
 それは悪意という闇をすべて喰らい、光という名の断罪に生まれ変わらせていた。

 抗えるわけがない……悪意の塊は、断罪の光を受け入れ──呑み込まれていく。
 そして、迷宮そのものがやがて光に包まれていくのだった。



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