AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント中篇 その08



「あっ、でもこれじゃあ、竜との契約って成立してないも同然じゃん」


 素材を提出し、攻略したと探索ギルドに認めてもらってから頃──気づいてしまった。
 それは当初の目的である、縛りプレイ中の竜の使役ができていないこと。

 ある意味、何のために行ったのやら……縁ができたということに限り、充分に行った価値はあると思うけどな。


「そうなると、また新しい契約相手を探しに行かないといけないな……うーん、良い相手が居たかな?」


 ただ、普通に従魔として契約するのもどうかというのが、複雑な心境な部分。
 ……いや、それじゃあ従魔師プレイをしたら被っちゃうわけで。

 あくまで『契約術師』として、従魔師とは違う存在と契約を交わしたかった。
 そういった意味では、ある意味竜と普通に契約できなかったのは良かったのだろう。


「でもそうにしても、やっぱり精霊たちだけだと精霊術師でしかないもんね。うーん、どうすればいいんだろう」

《──お困りのようですね》

「……何? いちおう言っておくけど、武具との契約だがぜひとも武具っ娘を、という案は無しだよ」

《いえいえ、それではメルス様……もといノゾム様の下へ馳せ参じられる者が制限されてしまいますので。ですので、こちらからご提案が一つ》


 こういう始まりから語られる内容って、割と胡散臭いものが多い。
 しかしまあ、眷属であるアンの言うことだし、あえてそう言っている……だけだよな?


《──ずばり、迷宮との契約も契約術師に該当するのではありませんか?》

「……違うから、【迷宮主】って職業が存在するんじゃないか?」

《嗚呼、わたしは悲しいです。ここまでド直球に正論を述べられるなんて、そんな姿を見たくはありませんでした……ワタシ、トッテモ、カナシイ》

「本当に心からそう思っているなら、まずその台本丸読みみたいな棒読みを止めた方がいいと思うぞ」


 そもそも、迷宮と契約して縛りプレイにどう利点があるのだろうか。
 たしかに『蓬山真竜ハイエンド・マウンテンドラゴン》』同様に、無尽蔵の身力が得られるとは思うけども。

 そんなことをすれば、今までの制限がなんだったのかということになる。
 便利ではあるが利益ではない、むしろ縛りプレイの意図としては減点だ。


《でしたら、メルス様……もといノゾム様はどのような環境をお望みで?》

「精霊は魔法支援系の契約存在だし、武器系の契約……も考えたんだけど、それってほぼナシェクや大悪魔だもんね。従魔はディーが居てくれるし、正直もう何も無いかも」

《なるほど、手詰まりですか》

「だからこそ、いいものが無いか悩んでいるのかもしれないよ? うーん、どうしたらいいのかな?」


 なんだかんだ言いつつも、俺はアンの回答に期待している。
 これまでも適した助言を行い、いつも俺の成功を手伝ってくれていた立役者だ。

 そんな彼女が告げるのであれば、それはほぼ的確に俺の理想を突いているのだろう。
 さて、やや思案した後にアンはどう答えるのだろうか。


《──これ以上は無理ですね。単純な話、すでに契約されている分野が広いため、新規での確保が難しくなっています》

「……それはつまり?」

《これ以上は増やせません。そもそも、メルス様は武具っ娘だけでなく、ナシェク様はもちろんのこと、御創りになられた神器とも契約しておいででです。通常の意志あるアイテム程度では、姿を現さないでしょう》

「…………なるほど?」


 神器との契約。
 本来であれば、それはその神器の創造者との結びつきを意味し、最低限の祝福である加護よりは恵まれた恩恵にあやかれる。

 しかし俺の場合、そういった部分はすべて自作なので何も無い。
 ナシェクと大悪魔は違うが、彼らの場合も十全にあやかれない問題があった。


「えっと、もうこれ以上の戦力アップは見込めないってこと?」

《そのように理解していただけますと。ただし、それは新規での、という枕詞を付ければの話ですが》

「……まあ、最初の方はナシェクに頼っていたもんね。過去にも目を向けないと、報われないのか」

《ご安心ください。メルス様は過去の女にも優しきできるお方ですよ》


 ……ツッコミたい、物凄くツッコミたいがとりあえずスルーで。
 してもしなくても、もう反応している時点でアウトな気もするけど。

 今後は積極的に契約を交わした武具も呼び出して、使っていく所存だ。
 まあ、最低限の制限も必要なので、ポイントシステムを採用しておくが。


「さて、じゃあ悩む心配も無くなったから、S級迷宮にでも行ってみるかな?」

《メルス様、いえノゾム様お独りで? やはり、眷属が共に向かった方がよろしいかと》

「これまでの問答を全否定しているから、それ。ちゃんと頼るし、本当にピンチなら神器たちも呼ぶよ。それでも回避できない問題なら、アンたちにも連絡が行くよ」

《……本当に、ご無理はなさらないように》


 S級迷宮には願いを叶える際の悪意を、押し込めたような場所があった。
 しかしそういった場所ほど価値のある物で餌を呼んでいるので、割かし人は集まる。

 俺がこれから行く予定なのも、そんな場所の一つ。
 ……武具では無いが、契約対象を呼んでおくのも一興かな。



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