AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント中篇 その01



 イベントエリア(中央) 浮島


 迷宮攻略に勤しんでいた俺だが、眷属からある報告を受けてこの場に戻っていた。
 自前の空間魔法はまだ持ち合わせていないので、レンタルでの帰還だ。

 転移先で俺を待っていたアンに、状況の説明を促す。


「──ついに団体さんが来たのか」

「はい。これまでも少数での調査は行われていましたが、大規模な編成をしての探索は今回が初となります」

「自由民の方は?」

「そちらはまだ。あくまでも、死なない祈念者を向かわせ、確認させているのかと」


 これまでも死んでいるが、今回は大人数でチャレンジすればどうにかなるかも? みたいな期待でやってくるわけだ。

 まあ、だからと言っていらっしゃいませと歓迎するわけじゃないが。
 本来この地は最終地点、自由民の求める願望実現の魔法陣が描かれていた場所。

 それを砕き、あまつさえエネルギーを利用してしまっている。
 なのでその責任を(勝手に)負って、ラスボス役を演じている誇りがあるのだ。


「……誇りと言うよりも、埃では?」

「なかなか否定できないけど。たしかに掃いて吹けば飛ぶような、薄っぺらいものではあるけども。まあ、歓迎しない代わりに能動的な迎撃もしない。そういうスタンスでやっていこうか」

「畏まりました」

「そもそも、ここまで来れるのかね……ずいぶんと張り切っていたからな」


 浮島の周りには強力な妨害魔法が施されているため、許可された者しか飛行や転移での来訪は許されていない。

 それは祈念者たちが自らの身を以って体験しているので、大人しく地上を通っている。
 そしてその地上、そちらはそちらで俺の魔導によって砂漠化と樹海化が進んでいた。

 矛盾する環境だが、枯れ果てた地に歪なほど植物が生えている。
 そして、それ以外にも……これまで祈念者たちを葬ってきた仕掛けがいくつもあった。


「デュラハンたちは?」

「識別名『戦闘狂』、及び『絶望』であればすでに。いつでも行けます」

「よし──デュラハン、発進!」

「カタパルトより射出──出ます」


 ノリが十割のこの会話。
 だが、言っていることはすべて真実。
 浮島の下の方から長い道ができると、そこから二体の悪意の塊が地上へダイブ!

 そして、そのまま着地。
 砂漠に着地しているので、衝撃などは丸々吸収されている──それでも砂埃は立ち、祈念者たちの警戒を煽る。

 だがそんなもの知らんとばかりに、デュラハンたちは全力疾走。
 禍々しい大剣を握り締め、目に入った物すべてを切り刻んでいく。


「……あっ、樹海が」

「メルス様の魔導で創り上げられたのですから、魔力を供給すればすぐに生えるではありませんか」

「そうなんだけど、何と言うか……自然破壊だなぁって。人間の業というか、こう複雑な想いがあってな」

「そもそも、勝手にこの地を砂漠化し、緑地化された方が何を仰りますか」


 いやまあ、ごもっともなんですけど。
 少なくとも俺に、人間の業云々を言う権利は無かったな。

 そうこう言っている間に、デュラハンたちは彼らと接敵。
 警戒心MAXの彼らとぶつかり──かなり優位に立っている。


「まあ、アルカぐらい強くないとな。おまけにあのときよりも力を蓄えて、力の扱いにも慣れてきているし……祈念者だけで勝つのは難しいよな」

「可能性があるとすれば、戦闘系の極級職や固有スキルの持ち主ですが……どうやら彼らの中には居ないようですね」

「先遣部隊なんだろう。それにあれだけの人数を注ぎ込む辺り、もっとたくさんいるんだろうけど。やれやれ、人は数だな」

「烏合の衆、人がゴミのようだ、といった言葉もありますよ」


 前半はともかく、後半……。
 実際、俺たちが居るのは空の上だし、祈念者たちを俯瞰して観ているのは間違いないので、使いどころ的には合っているけどさ。

 デュラハンたちはやがて、待機状態に移行して動きを止める。
 それを阻む者は居ない──すでにそのすべてが全滅しているからだ。


「アレ、どうするんだ?」

「まだ外に居ますので、とりあえずはそのままにしておきましょう。侵入してくるのであれば、自動で再起動します」

「了解。いちおう、エネルギーの補填の方はしておくぞ」


 自分たちで集めた分もあるだろうが、どうせ俺の方は余っているのでちょうど良い。
 創造主として僅かに繋がっているパスを通して、一方的に魔力を送り込む。

 僅かなりとも受けていたダメージも、魔力によって癒えていく。
 奪ったエネルギーはそれによって、回復ではなく個々の強化に使われるだろう。


「第二陣がいつ頃出るか分からないが、もし彼らが突破されたら言ってくれ。すぐに戻ってくるから」

「畏まりました。ところでメルス様、いつ頃までそちらに滞在を?」

「せっかくある程度ランクも上げられたし、行けるところまで行ってみたら……かな? ここを迷宮みたいな場所って判断したら、上位ランカーにも声が掛かるかもしれないし。情報収集の一環ってことでさ」


 かくして、祈念者たちによる一回目の大規模調査は失敗した。
 今回の反省を活かし、デュラハンたちにどう挑むのか……期待しておこう。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品