AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント前篇 その15



 イベントエリア 中央 浮島


 かつて、祈念者たちがこのエリアへ足を踏み入れる際に訪れた場所。
 そこは砂漠と樹海に覆い隠され、そのうえで上空に飛び立っている。

 今からこちらに転移してきても、かつて見られた何も無い光景はもう映らない。
 そんな物よりも先に、頭上にそびえ立つ摩訶不思議な存在に意識が向くからだ。


「うむ、良いデザインだ。なんというか……ラスボス感が凄い!」

「メルス様の記憶を拝しゃ……くしていますので、理想に合っているかと」


 魔王城のような禍々しいものではなく、逆に神みたいな神聖な感じを放つ白亜の宮殿。
 そして島の各部分に存在する四つの塔、それが生み出すバリア──熱い、熱い展開だ!


「なんで言い直さなかったのかは別にいいとして。アレから、何かあったか?」

「偵察をしに来た者に関しては、自由民であれば丁重にお返ししましたよ」

「……お察しします」


 つまり、祈念者は容赦なく殺したか。
 まあ、まだもてなしの準備も済んでいないのにやってくる無粋な輩だ、それぐらいの塩対応でも仕方なかろう。

 あと、おそらくだが意図的に[SS]でも撮らせて情報は持って帰らせているはず。
 もちろんそちらは、幻影でも幻惑でも使い完成後のイメージ図だろうけども。


「それでメルス様、今後のご予定は?」

「その前に確認しておきたいんだが……ここはそもそも、ここに誰かが辿り着く前提で設計してくれたか?」

「?」

「なんで分からないって反応なんだよ。いや来なきゃ意味無いだろ、ラスボス感が台無しになるから!」


 なおラスボス、ラスボスと喚いている姿が全然ラスボスっぽくないといった意見に関しては気づいていないものとする。

 俺が演じるにしても、ゴーを頼るとか一時的に【傲慢】になる必要があるからな。
 それならもっといい存在を、別で用意して俺も攻略側で楽しんだ方がいいだろう。


「……自分で攻略、か。おお、なんとなく面白いって思えるようになってきたぞ」

「ですが、ボッチ勢のメルス様を受け入れてくれる場所はあるのでしょうか?」

「……今はナシェクと居るからいいんだよ。廃都から攻略する集団に混ざればいいだろ。あそこならちょうど、どんな人種が混ざっていても咎められはしないだろう」


 もともと多種族が集まる地なので、邪縛込みで行っても受け入れてもらえるはず。
 ダメ元で行って、無理だったらソロの活動に切り替えればいい。


「──さて、そろそろこのラスボスフィールドについて話をしようか。いろいろと言いたいが……あの四つの塔、どうするんだ?」

「わたしたちでやりますよ」

「…………あの、メインの施設に入る前に全滅とか止めてやれよ」

「それは重々承知しております。ですので、メルス様にアバターを用意していただきたいのです」


 俺は{多重存在}スキルを持っているので、生み出したアバターを調節すれば俺以外でも使える分体を構築できる。

 どうやら、職業に就けない弱体化アバターで四天王役をやるみたいだ。
 能力値の方も弄れば、ギリギリ祈念者が倒せるぐらいを演出できるか。

 ……がそれは、俺とスキルを共有している眷属全員ができることだ。
 あえてそれをせず、先に俺の許可を取ろうとしている──そういうことだろう。


「その話を俺にするってことは、まあ俺の言いたいことが分かっているみたいだな」

「過保護なわたしたちのメルス様。メルス様の御役に立ちたいこの一心、どうかご理解いただきたい」

「…………ハァ、魅了系の状態異常は絶対無効化。あと、擬似とはいえHPが底を突きそうになったら強制的に退場だからな。で、四天王がメインのあそこに集まる感じにする」

「なるほど。つまり、四天王役を勝ち取れば最終的にラスボスに侍るハーレム役も行えるのですね。分かりました、早急に決着をつけてまいります」

「えっ、あっ……おい!」


 止める間もなく消えてしまったアン。
 同時に、こちらを把握していたであろう眷属たちの感覚も途切れる。

 いったい、夢現空間で何が繰り広げられているのだろうか……うっ、知りたくない。
 できるだけ平和な方法であってほしい……儚く散るような想いではあるが。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 灰虚の宮殿


 誰も居なくなった宮殿の前、[マップ]で調べたのは建物──否、迷宮の名前。
 白でありながら灰色の名を冠しているということは、まだギミックがあるのだろう。

 ラスボスを演じたいという俺の意思を知らなければ、分からないはずの仕掛け。
 だが当の本人である俺が、それを分からないわけもなく……そういうことなのだろう。


「それにしても『はいきょ』で『かいこ』の宮殿って……いいネーミングセンスだ。というより、俺に合わせてくれたんだろうな」


 結界で覆われている入り口も、迷宮担当のレンが何とかしてくれたのか素通りできる。
 あっさりと入れたその空間は、そのすべてが真っ白な施設だった。


「探検ごっこ……もいいけど、今は一番重要な場所に行ってみようか」


 目指すのは宮殿の最奥区画。
 つまりは、俺(あるいは用意した存在)が鎮座する所──ラスボスの待機場所だ。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品