AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント前篇 その02



 最初に、俺と同じ場所へ転送された祈念者が約五百人。
 そんな中、夜を跨いでこの場に残ろうとしている者は……僅か十人ほど。


「さて、飯でも食べておくか……魔力飯でいいかな」


 実際の所、今の俺には三大欲求もそれを満たさないことによる弊害も生じない。
 そういうスキルを使っているのだから、この世界ではそれだけで生きていられる。

 ただ、食べられないと食べなくていいは違うし、暇な時間を潰すのにちょうどいい。
 錬金術を織り交ぜて生み出した、構成物質すべてが魔力でできた食べ物を取り出す。

 まんま『M』のハンバーガーとポテトを食べ、食べたという満足感を得る。
 体内に入れば魔力が解れ、消化などもしなくていい……うん、ファンタジーだな。


「むぐむぐ、他の連中は……ゴクンッ。美味しそうな物を食べている奴もいるな」


 祈念者が[ログイン]を始めて、それなりに期間も経過している。
 インスタント云々の技術も導入され、保存食はかなり美味しくなっていた。

 加えて、基本的に強い魔物を調理した物は美味い。
 強者な祈念者たちが、それらを保存食として持っていたとしてもおかしくないだろう。


「ふぅ~、ごちそうさまでした。時間は……そろそろ一日目が終わるかな?」


 念のため、八方に飛ばした霊体たちはまだそのままにしてある。
 北の方はちょっと揉めているが……基本的に、夜にイベントは起きていない。

 なので今気にするのは、[メニュー]を操作していたら見つけた[イベント]画面。
 そこには制限時間が設定され、間もなく再使用が可能と記された[選択肢]が。


「選択肢についてもある程度情報は調べられた。要するにこれ、一日一回使えるお助けシステムって感じだよな」


 方針に迷った時、とりあえず選べば困ることは無くなるのだろう。
 ただし、日を跨がなければ再使用できないので、それ頼りというのは難しい。

 オートモードにしておけば、ここぞというタイミングで選択肢を出してくれる。
 一回目はお試しだったが、以降はピンチにでもならない限り夜にしか出ないはずだ。

 そして、今後の方針が選択肢として表示されて、翌日の目標設定ができる。
 これなら優柔不断な者でも、今回のイベントで役割を演じきれるはずだ。


「セルフモードなら、ピンチじゃなくても必要な時に選択肢が表示される。可能なのは、祈念者に関わること以外か……まあ、俺たちの行動まで組み込めないか」


 だがまあ、命の危機で無くとも選択肢が欲しい時ということもあるだろう。
 ここぞというタイミングで、自分の益になる選択は何なのかを知りたい奴の使い方だ。


「でもこれ、仕組みが気になるな。自由民が相手だからって、好感度が分かるわけじゃないんだし──“世界書館”、“真理究明”」


 思考系の最上位スキル、そしてグーの持つ調査に関する補正を与えるスキルを起動。
 参照として[メニュー]やGMコンソールなどのデータを使い、解析を行っていく。

 脳裏に浮かび上がる解析情報。
 数字の羅列やら訳の分からない用語が過ぎるが、当然俺にはほとんど理解できない。

 なのでそれらは、眷属がバカや俺でも分かる程度に翻訳してくれる。
 あとはそれを[世界書館]が内包する能力の一つ、“思慮分別”によって自動識別。

 俺の記憶する膨大な知識が、該当する答えに導いてくれる。
 意味もなく覚えている知識が多いので、その正答率もそれなりに高いはず。


「一番可能性が高いのは……チッ、忌々しい結果が出やがったな」


 運命神──俺の知る中でもっとも独善的に人を救う、同族嫌悪的存在。
 冠する神格の通り、運命に強く干渉することができる。

 調べた結果、選択肢のシステムにはそんな運命神の権能の劣化版があるんだとか。
 魔本に封じられた人々を、停まった時間で繰り返し生かしていた……それと同じ理屈。

 振る舞いによって起き得るべく結果を、未来から先借りして知ることができる。
 最初の選択肢では分かりづらいが、選択肢はそのすべてが選んだかもしれない可能性。

 それゆえに、突拍子もない選択肢は一つも存在しない。
 仮にそれがあれば……それはその選択肢を取らざるを得なかったことを意味する。


「未来視でも似たようなことはできるが、その超高性能版。しかも、使えば使うほど恩恵にあやかっているということで、擬似的に信仰している扱い。認識すれば、さらに崇めていることになるから余計たちが悪い」


 仮に気づいたとして、それを不利益だと考える者は居ないだろう。
 俺ももし、ただのモブとしてAFOをしていたら便利なシステムだと感謝していた。


「魔導解放──“改変されし天糸の結び”」


 擬似的な信仰、それは一種の契約。
 サンプルを使い、便利だと思い、定期的に用いる……商法的なやり口ではあるが、これなら加護や祝福無しでの借り受けが可能だ。

 だからこそ、この魔導が通用する。
 今回の魔導の効果を端的に言えば、契約の強制書き換え──まったく同じことは、もうできなくなるだろう。


「ここに、眷属が用意した改竄プログラムを打ち込んで……えっと、暫定的に未来眼での視た選択で代用するようになるのか? 精度は落ちるけど、どういう未来にしたいのかに合わせた選択肢が出るようになると」


 もともと[選択肢]を使う際に、供給されるはずだったエネルギーを流用。
 平時以上に未来眼を起動し、より望んだ未来を導く選択肢を割り出してくれるそうだ。

 まあ、生死云々やら方針を定めるなんてものよりかは、自分が視たい未来の方が死にづらい俺的には好都合か。

 ──そんなこんなで、何も決まっていないが二日目が始まる。



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